第16話 推しのアイドルのホットケーキ

「お〜い、朝だよ〜起きて!音葉〜!」

 日曜日の朝、俺は寝室で横になっている音葉を起こしに行く。


「うぅ…………眠いよぉ……ゆうくん……引っ張って〜」

 音葉は、布団から腕を伸ばして、俺が引っ張るのを待っている。

 まるで人形のような美しい腕は努力の賜物なのであろう。

 そして、俺は2本の細い腕を上に引っ張り上げた。


「うぅ……にゃぁぁぁ……」

 音葉をベッドから引っ張り上げると、その体がよく伸びる。

 髪の毛には寝癖が付いていて何だか可愛らしい。


「まるで猫みたいだな……それにしても、音葉が寝坊なんて珍しいね」

「それは……昨日の夜ゆうくんが激しかったからでしょ……ばか……」

「そ、それは申し訳ない……ごめんな?」

「いや……別に私もゆうくんとなら……嫌じゃないよ……」

 そう言うと、音葉は顔を赤く染めて、俺から目を背けた。

 その仕草がたまらなく可愛らしくて、何だか朝からドキドキしてしまう。


 俺は我慢できずに、ベッドに座る音葉の頭を撫でる。

 普段は髪を丁寧にセットしているので雑には扱えないが、今日はわしゃわしゃと撫で回せる。

 音葉の髪からは相変わらず良い匂いがする。


「ふふっ、ゆうくんの手……大きくてあったかい……安心する……」

 音葉はまだ寝ぼけているのか、うとうとしていて目が半分しか開いていない。

 そんな音葉を、俺はお姫様抱っこしてリビングへと連れて行く。


「ん……?ってちょ!ゆうくん!何してるの!?」

「いや、音葉をリビングに運ぼうかなって思って」

「自分で歩けるから〜!!降ろして〜!!」

 そう言って、音葉は俺の体をぼかすかと殴る。


「ちょっと!音葉!?危ないから!」

「うっ……ごめん……」

 すると、音葉は俺の腕の中で大人しくなる。

 下から俺のことを見つめる目からは、音葉の不安とドキドキが感じられてとても可愛らしい。


 俺はリビングのソファーに音葉を座らせて、その隣に座る。


「もうっ……朝からドキドキしっぱなしだよ……」

「音葉は可愛いなぁ……」

「もう、ゆうくんのせいだからね!!」


 そうして、俺は机の上のリモコンに手を伸ばし、テレビを付ける。

 いつものニュース番組ではなく、日曜日独特の朝のバラエティ番組がやっていて、今日が休みなのだと実感できる。


 そこには、最近話題のお店と称して、老舗ホットケーキ屋さんが紹介されている。

 美味しそうなホットケーキの上に、メープルシロップとバターを乗せただけの昔ながらのホットケーキはとても美味しそうに見える。

 音葉はそのパンケーキをキラキラとした目で眺めていた。


「音葉、これ食べたいのか?」

「お、よく分かったね〜でもこのお店、ちょっと遠いんだよね……」

「そっか……それは残念……」


 すると、音葉はひらめたような顔で言う。

「そうだ!お家で作っちゃえば良いんだ!幸い材料は揃ってるし!」

「お、そりゃ良いね、家から出なくて済むし」

「よし、じゃあ遅めの朝ごはんはこれにしよう!ゆうくんも手伝って!」

「俺、料理下手だけど大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫!ホットケーキぐらい誰にでも作れるって!」


 そうして俺たちは2人で台所に立って、ホットケーキを作り始める。

 ただ、基本的なものは音葉が全てやってくれているので、俺は邪魔にならないように後ろから音葉の姿を眺めていた。

 器用に泡立て器を使って、ホットケーキのタネを作る姿はとてもカッコ良い。


「よし、タネは出来た……ゆうくん!フライパンあっためて〜!」

「分かった〜!」


 俺は音葉に言われた通りにフライパンを火にかけ、温まるの待つ。

 だんだんと温かくなり、ホットケーキが焼ける頃合いになる。


「よし、じゃあ焼くぞ!」

 そうして、俺は勝手にホットケーキのタネをフライパンに流し込もうとする。


「ゆうくん!!ちょっと待った!!!」

「ふぇ?どうしたの音葉……?」

「ホットケーキを焼く時はね、焼く前にフライパンを濡れ布巾で冷まさなくっちゃ」

「そ、そうなのか……因みに何でなんだ?」

「そうしないとね、ホットケーキのタネの底が沸騰して、見た目が汚くなっちゃうの」

「そうなのか……さすが音葉、詳しいね!」

「そ、そんなこと誰でも分かるって……!」

 音葉はそうは言っているものの、褒められて嬉しそうな顔をしていて、愛おしい。


 そして、俺は音葉がホットケーキを焼くのを隣で見守った。

 ホットケーキの甘い香りがだんだんと漂ってきて、何だか幸せな気分になる。


「音葉、なんかすることある?」

「お、だったらそこにお皿並べて並べてもらってもいい?」

「おっけ〜!」


 そして、俺が並べたお皿にはすぐさまにホットケーキが並べられた。

 ちょうどいい焼き色のホットケーキの上には溶けかけのバターが乗っていて、とても美味しそうだ。


 俺たちは、ホットケーキを持って机に移動する。

 ついでにコーヒーも淹れて準備は万端だ。


「よし、それじゃあ食べよっか!」

「いただきます!!」


 仕上げに蜂蜜をかけて、俺たちは遅めの朝ごはんを食べる。


 ナイフで切って、ホットケーキを口に入れると、バターと蜂蜜の香りが広がり、それらのちょうど良い甘味と塩味が、優しいハーモニーを奏でていて、とても美味しい。


「このホットケーキ甘くて美味しいよ!」

「ふふっ、良かった!嬉しいなぁ〜!」


 音葉は満面の笑みでこちらを見つめる。

 その笑顔を見ながら食べるホットケーキはさらに美味しく感じられた。




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すみません!毎日更新の予定が、体調を崩して少しお休みしてしまいました!

今日からまた頑張るのでよろしくお願いします〜!

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