第15話 推しのアイドルと海デート 後編
太陽が美しい海をキラキラと照らす中、海水浴場はカップルや、家族、大学生などでとても混んでいた。
見渡す限りの青い海は、見ているだけで心が癒される。
俺は水着に着替えた後、ビーチパラソルの下にレジャーシートを設置し、のんびりと海を眺めていた。
隣に座る音葉は、また日焼け止めを塗っている。
自分で背中の後ろを塗るのは少し大変そうであった。
「なぁ音葉、俺が塗ってあげようか?」
「誰のせいで、もう1回塗ることになったと思ってんの!もう、自分でやるもん!」
「ごめんって……音葉が魅力的だったから……」
「もう……ほんとにばか……」
音葉は、照れて顔が赤くなっている。
水着姿なのもあって、とてもドキドキしてしまう。
「ねぇゆうくん、私……その汗かいて……お水無くなっちゃったから、買って来てもらっても良い?」
「お、おう!もちろん。ここで待っててね」
「ありがと〜!」
そして、俺は音葉に言われた通りに海の家まで水を買いに行く。
海水浴場の人口密度は凄まじく、渋谷のスクランブル交差点を彷彿とさせる。
毎日の通勤で培った人混みの中進むスキルを活用して、俺は何とか海の家へと辿り着き、水を買って音葉のいる場所へと戻る。
すると、音葉がいる位置に3人ほどの大学生が群がっているのが見える。
「ねぇねぇ、お姉さん俺たちと遊ばない?」
「お姉さん、こんなとこで1人でどうしたのさ、俺たちと楽しいことしようぜ」
「ってか、お姉さん結城音葉に似てるって言われない?俺めっちゃタイプだわ」
「その……連れがいますから……早くどっか行ってください……」
「まぁまぁ、そんな事言わずにさぁ〜」
遠目から見ても、音葉が困っているのは明らかであった。
俺は、急いで音葉の元へ駆けつける。
「あっ……ゆうくん!ちょっと助けて!」
俺は、音葉に水を渡して、大学生との間に立つ。
すると、音葉の不安そうな顔は一変して、明るくなった。
「ちっ、彼氏持ちかよ……」
「でも、あいつイケてないぞ?」
「確かに、ねぇお姉さん、俺たちの方がイケてると思わない?」
その大学生は、俺が来たにも関わらず、音葉を諦めていない様子であった。
「ねね、そんなダサい彼氏捨てて、俺たちと海を楽しもうぜ〜」
俺が来ても居なくならない大学生に、どうしたものか……と困って口籠っていると、背後から音葉が口を開く。
「ちょっと!そんなそんなダサい彼氏って何ですか!そもそもゆうくんは私の夫です!そして、その……とってもカッコいいんですから!あなた達に何が分かるんですか!」
すると、その大学生たちはいきなり大声を出す音葉にビビったのか、
「ちぇ……何だよ、人妻かよ……」
「つまんねぇの」
「よくよく見たら、結城音葉とは比べ物にならなかったわ」
などと言い出し、帰って行った。
「ふぅ……助かった……ありがとね、ゆうくん!」
「いや……俺は何もしてないし……ごめんな役に立たなくて……」
「ううん、ゆうくんが駆け付けてくれたから助かったんだよ?その……カッコよかったよ!」
そう言って、音葉は俺の腕に抱きついてくる。
水着なのもあって、肌の密着面積が多くて何だか恥ずかしい。
「あぁ……もう音葉はほんとに可愛いなぁ……」
「もう、ゆうくんったら……!」
*****
そうして、俺たちは2人で水を掛け合ったり、浮き輪で浮かんだりして海水浴を堪能し、気が付けば時刻は夕方になっていた。
暮れの太陽は、海と砂浜を綺麗なオレンジ色に染めていた。
俺たちはビーチパラソルの下に座り、手を繋ぎながら、海に太陽が沈むのを眺める。
昼間はたくさんいた人も、この時間になってだんだんと少なくなり、海水浴場にはざぱーんという、波の音が静かに鳴り響いていた。
音葉の髪は風になびき、太陽の光にキラキラと輝いている。
「ふふっ、ゆうくん……何だか落ち着くね……」
「そうだね……すっごい綺麗……」
「こんな風にずっと座っていたいね……」
そして、音葉は俺の手を強く握ってくる。
俺はその手をさらに強く握り返した。
夕陽はだんだんと海に没し、夜が訪れる前に最後の一筋の光が水平線に残る。
その瞬間、俺は音葉に寄り添い、やわらかいキスをした。
そうして日が沈み、俺たちはただ手をつないで、黙って歩き始める。
言葉は必要なかった。
愛は静かに、ただそこに存在していた。
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