第13話 推しのアイドルと水着選び



 週末の今日、俺たちは電車に乗って、ショッピングモールへやってきた。

 色々なお店があって、カップルや家族連れで混み合っている。


 今日の音葉の格好は、前に軽井沢で買った、清涼感漂う水色のワンピースであった。

 時折風が吹くと、軽やかなワンピースがヒラヒラと舞い、音葉の綺麗な脚が見える。

 さらには、細い腕が優雅に際立っていて、足元の涼やかなサンダルは、夏の日差しに映えながらも清楚な印象を与えていた。

 その美しさは、変装をしていても隠せるものではなかった。




「わ〜!色んなお店があって迷っちゃうねぇ〜」

 そう言いながら、音葉は楽しそうにショッピングモールの看板を眺めていた。


「ちょ……音葉?今日は水着を買いに来たんじゃないのか……?」

「それもそうだけど、折角来たんなら色々買わないとね!!」

「わ、分かったよ…………」


(はぁ……これは長くなりそうだぞ……)

 と思っていると、音葉は何だか不満そうな顔でこちらを覗き込んでくる。


「ねぇゆうくん……今長くなりそうだなって思ったでしょ!」

「う……思ってないよ……」

「いいや、思ってたね〜!ゆうくんの事は全部分かるんだから!」


 幼馴染というのは、相変わらず恐ろしいものだ。

 考えていることがすぐにバレてしまう。


「そんなゆうくんには、罰として、私のお買い物に1日付き合って貰います!!」

「…………最初からそのつもりだったろ……」

「まぁまぁ、細かいことは気にしないの!ほら、行くよ〜!」


 そう言って、音葉は俺の腕を掴んでショッピングモールへと歩き出した。

 音葉の大きくて柔らかいモノが、俺の肘に当たっていて、何だか恥ずかしい。

 俺は何だか周りの男どもから、憎しみの目線で見られている気がした。




「よし!まずは夏服を買わないとね!」


 そうして、音葉は女性向けの可愛い服が並ぶ店へと入る。

 俺1人で入っていれば、間違いなく通報されるだろう。

 初めて感じるその雰囲気に、俺は何だか緊張してしまう。


「ふふっ、ゆうくんってば緊張しすぎだよ〜!私と一緒なら大丈夫だから」

 音葉は、少し馬鹿にしたような笑顔で言う。


 そうして、俺は音葉の後ろにべったりくっ付きながら、音葉が服を選ぶのを待った。


「う〜ん……ゆうくん!これ白シャツに合わせたいんだけど、どっちが良いかな!」

 音葉の両手には、淡い水色と桃色のカーディガンが持たれていた。


 俺は少し悩んだ後、淡い桃色のカーディガンを指差す。


「お、ゆうくんはこっちかぁ……!ちょっと試着してこようかな!」


 そう言って、音葉は試着室へ行ってしまう。

 俺は試着室の前で、不審者と思われぬように正面だけを見つめて、音葉の帰りを待っていた。


 しばらくすると、音葉が試着室から出てくる。

 ジーンズと、白いシャツの上に淡い桃色のカーディガンを羽織った姿は爽やかさと可愛らしさが感じられた。


「ゆうくん、どうかな〜?」

 音葉は、俺の前で軽やかにくるっと回ってみせる。

 ふわりとカーディガンが宙に舞う。


「すっごい可愛いよ……」

「ふふっ、良かった!じゃあこれ買ってくるね!」


 そう言ってにこやかに笑う音葉が、とっても可愛い。

 流石アイドルスマイルというやつだ。

 これを食らって、無事でいられる男はいないだろう。



 *****



 会計を済ませて、次に俺たちは水着売り場へと来た。

 そこには女性の水着が沢山並んでいて、先程よりもドキドキしてしまう。

 ちょっとでも音葉から離れたら、すぐに通報されるだろう。


「さ、ゆうくんはどんな水着が好きなのかなぁ〜!」


 そんな俺の気持ちも考えず、音葉は楽しそうに水着を物色していた。


 そうして最終的に音葉が選んだのは2つの水着だった。


 1つ目は、白いフリルのついた可愛い水着で、露出度は控えめの物。

 女子の水着といえば!という物で、とっても可愛らしい。


 2つ目は、ものすごい露出度の高い、所謂マイクロビキニと呼ばれる物。

 これは、似合う人とそうでは無い人とで大きく分かれる物だが、音葉の出ている所が出ている体型にはぴったりだ。


「じゃあ、試着してくるから!ゆうくんは大人しく待っててね!逃げないでよ!!」

「に、逃げねぇよ!」

「ふふっ、ゆうくんったら可愛いんだから〜!」


 正直、この場から逃げ出したい気持ちもあったのだが、音葉には全て見透かされているようだ。

 俺は言われた通り、音葉の試着室の前で待つ。

 薄いカーテンを挟んだ向こう側で、音葉が水着姿になっているのだと思うと、何だか緊張してしまう。


 すると、まずは1つ目の水着に身を包んだ音葉が出てきた。

 その姿はとても女の子らしく、まるでアイドル時代のMV衣装かのように感じられた。


「ど、どうかな……ゆうくん?」

「うん……すっごい可愛らしくて俺は好きだよ……」

「そ、そう?可愛すぎるかな?って思ったんだけど……ゆうくんがそう言うなら安心だね!」

 そう言って、音葉は嬉しそうに笑う。


「じゃあ……一応2つ目のやつも着てみるから……ゆうくんはあっち向いててね!!」

「わ、分かった……」


 俺がすぐに後ろを向くと、カーテンが閉められる。

 音葉があんな水着を着ているところを想像すると、期待と緊張でドキドキが止まらない。


 すると、後ろから声が聞こえる。

「ゆ、ゆうくん……どうかな…………??」


 俺が振り返ると、そこにはとてもセクシーな音葉が立っていた。

 音葉の柔らかくて大きなモノがほぼ見えていて、ソレの主張がとても強い。


 俺はそんな音葉の姿を見て、言葉を詰まらせる。

 すると、音葉は悪戯っぽく笑いながら、こちらを上目遣いで覗き込んでくる。

「どうかな……??」

「う、うん……すっごい似合ってて良いと思うよ。少しえっち…………じゃなくてセクシー過ぎるような気もするけど……」

「ふ〜ん、そっか〜!ゆうくんは私がこういうの着るの嫌?」

「嫌では無いよ!!だけど……他の男に見られるのはちょっと嫌かも……」

 そう言うと、音葉は顔を真っ赤に染める。


「わ、分かった……ゆうくんがそう言うなら1つ目の水着にするよ……」

「じゃ、じゃあ俺は店の外で待ってるから!!」

 俺は、音葉が可愛すぎて耐えきれなくなり、店を出る。


「ちょっと〜!逃げないでよぉ〜!!」



 *****



 しばらくすると、音葉が店からやたら大きな袋を持って出てくる。


「あれ?何かあの水着以外にも買ったのか?」


 と尋ねると、音葉は顔を俺の耳元に近付けて言った。

「2つ目の水着……お家で、ゆうくんのために着ようかなって思って買っちゃった……」

「お、おう……」

「だから……今度の夜……楽しみにしててね……?」



 俺たちは頬は赤く染まっていた。






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