第12話 推しのアイドルは三郎系ラーメンを食べたい
7月も中旬になって、外は段々と暑くなり、セミがやかましく鳴いている。
俺は、エアコンの効いたリビングで、のんびりとした午前中を過ごしていた。
「ねぇゆうくん!今日のお昼ご飯は、外に食べ行かない?」
「お、いいよ〜どっか行きたいとこでもあるの?」
すると、音葉は待ってましたと言わんばかりに、意気揚々と俺にスマホの画面を見せてくる。
そこには、麺の上に大量の野菜と大きなチャーシューが乗ったラーメンが映し出されていた。
「お、三郎系ラーメンか……って、これ食べるの!?」
「ふっふっふ……アイドル時代は体型を維持しないといけなかったけど、今じゃ気にしなくて良いからね」
音葉は、とってもワクワクした顔をしている。
「まぁ……音葉が言うなら、一緒に行こうか!」
「やった〜!こういうお店って女1人だと行きにくいから助かるよ〜」
そうして、俺たちは各々が出発の準備を進めた。
*****
「おぉ〜!着いた〜!」
お目当てのラーメン屋さんに着き、俺たちは列の最後尾に並ぶ。
時刻は12時半で、列には沢山の人が並んでいた。
その大半は、男性であったが、たまに女性客の姿も見られた。
音葉は、周りに迷惑にならないように小さな声で言う。
「案外、女の人も多いんだね……ちょっとびっくりした」
「ここは、本家三郎とは違って、初心者にも優しいお店だからね」
「そうなんだ!私、すっごい楽しみ〜!」
小さな声でそう呟く音葉がとっても可愛くて、俺は何だか恥ずかしくなる。
そうして、しばらく待っていると、店員さんに案内されて、2人用のテーブル席に向かい合わせで座る。
お店には、何だか独特の美味しそうな匂いが漂っていて、食欲が掻き立てられた。
俺は、メニューを開いて、2人で見やすいように置く。
そこには、豪快なラーメンが沢山並んでいた。
「わ〜!沢山あるねぇ〜!トッピングも沢山!……ゆうくん、どれにしよう……?」
「初めてなら、小ラーメンがいいと思うよ」
「え!?私、いっぱい食べたいんだけど!」
「まぁまぁ、それにしておきなって」
「分かった、ゆうくんを信じるよ…………」
音葉は、何だか疑いの目でこちらを見つめてくる。
そんな音葉の表情も可愛くて、ずっと見つめてしまう。
店員さんに、注文をして、ラーメンがやってくるのを待つ。
もちろん、お好みは全部普通だ。
ラーメンがやってくるまでの間、音葉は持ってきたヘアゴムで、髪を後ろに纏める。
その、口でヘアゴムを咥えた仕草が、何だかとっても色気があって、緊張してしまう。
そうして、完成したポニーテールの音葉は、普段とは違った雰囲気で何だか見入ってしまっていた。
「ふふっ、ゆうくんこっち見過ぎ!何かドキドキしちゃうでしょ!」
「あ、いやいや……ポニーテールって可愛いなって思って……」
「ふ〜ん、ゆうくんはこれが好きなのかぁ……参考にするね〜!」
なんて、会話をしていると、厨房から大きなラーメンがやってきた。
「お待たせしました! 小ラーメン2つになります!」
そのラーメンを見ると、大きなチャーシューにものすごい量のヤサイにニンニク、さらにその下には大量の麺が眠っていた。
流石三郎系ラーメンで、小にしても、普通の店の大盛り並みの量はある。
音葉は運ばれてきたそれを見て、目を丸くしていた。
「え…………?これ……小ラーメン……?大の間違いじゃなくて……?」
「そうだよ、それが三郎系の特徴だからな」
「そうなんだ〜すごい!楽しみだなぁ〜!いただきます!!」
そう言って、音葉は箸を手に取る。
まずは上に乗った野菜を豪快に食べ進めるが、全然麺に辿り着かない。
「これ……ほんとにすごい量だね……気合い入れないと……」
そう言って、音葉は夢中で食べ進める。
「これ、すごいニンニクが効いててガッツリしてて美味しいねぇ〜!いや〜アイドル時代だったら絶対に食べれなかったね」
そう言って、音葉は嬉しそうに笑う。
美味しそうに麺を頬張る音葉はとっても素敵だった。
*****
「ふぅ〜美味しかった!大満足だよ〜!」
音葉は、店から出ると、満足そうに大きく伸びをした。
俺は微笑みながら、音葉のその姿を見て、ほっとした。
「やっぱり小ラーメンでよかったでしょ?」
「うん!もし大ラーメンとか頼んでたら、間違いなく死んでたね……危なかった……」
俺たちはは店を後にし、外の陽射しを浴びながら歩いていた。
セミの鳴き声が背景に流れ、暑さも相まって、街は夏の光景に包まれていた。
「次はどこ行く?」
俺が尋ねると、音葉は少し考え込んでから嬉しそうな笑顔で答えた。
「海に行きたいなぁ!暑い日には海が一番だよね」
「海か、いいね!じゃあ、次は海にしよう」
「うん!だったら水着買わないとなぁ……どんなのにしよう……!」
音葉のはしゃぐ声が、夏の風に乗って心地よく響いていた。
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