第9話 推しのアイドルと可愛いライバル登場?

 今日でGWも最終日、楽しかった旅行も終えて、明日から会社勤めが始まるのだと思うと憂鬱になる。

 俺たちは、夕ご飯を食べ終えて、二人でソファーに座ってテレビを見ていた。


「お、歌羽がバラエティに出てる!頑張ってるなぁ……」

 音葉は、メンバーが活躍しているのが嬉しいのか、楽しそうに番組を見ていた。


 花園歌羽ーー彼女は、スイドリの最年少メンバーで、現在現役の女子高生であった。

 彼女は、5人の中で1番身長が低く、その特徴的な語尾も相まってメンバーからもファンからも可愛がられていた。

 ただステージに立った時の歌手力は素晴らしく、そのギャップでファンになる人も多かった。


 俺は久々に見る歌羽の姿に、なんだか懐かしさを覚えて、その番組を見入っていた。



 ふと、隣を見ると、音葉が頬を膨らませて俺の方をじっと見ていた。


「ど、どうしたの……音葉?」

「いやぁ?隣にこんなに可愛いお嫁さんがいるのに、歌羽の方ばっか見るんだなぁ……って思って!」

 音葉は、寂しそうな顔をしながら、俺の肩に頭を乗せる。

 その仕草がたまらなく可愛かった。


「あれぇ?音葉ったら、嫉妬しちゃったの〜?」

「もう!そうやってからかうな!!本気で拗ねちゃうぞ!!」

 そう言って、音葉はそっぽを向く。


「ごめん、ごめんって!」

「何か行動で示してくれないと、音葉ちゃんの心のモヤモヤは晴れません!」


 俺は、頬を膨らませる音葉がたまらなく愛おしくなる。

 そして、強引に俺の膝の上に対面するように座らせて、ぎゅっと抱きしめた。


「わ!……ゆうくん……力強い……」

「ふっ……音葉は、ほんとに可愛いなぁ……」

「……!!そ、そんなに耳元で可愛いっていうなぁ……ばかぁ……」


 音葉は、肩の力が抜けて俺の方に寄りかかった。

 そして、音葉はそのまま俺の目を見て、顔を近づけてくる。


 するとーー

『ピンポーン!』

 と、インターホンが静かなリビングに鳴り響く。


 間の悪い出来事に、音葉と顔を見合わせて笑い合った後、俺は膝の上に乗せた音葉を降ろしてモニターへと向かった。

 モニターを見ると、配達員の人が、まるで人が1人入れるのではないかというほどの大きな段ボールを持っていた。

 俺は、疑問に思いながらもエントランスのドアを開ける。


「ねぇ、音葉。なんか大きい荷物頼んだりした?」

「いや?覚えにないけど……」

「だったら、なんだろう……間違いか……?」


 すると、玄関のチャイムが鳴る。

 俺は不審がりつつ、玄関のドアを開ける。


「白川さんですか?お届け物でーす!」

「白川であってますけど……本当にあってます?これ……」

「あってます、あってますから!ほら、受け取ってください!それでは!!」

 そう言って、配達員の人は帰って行ってしまった。




 そうして、玄関には謎の大きな段ボールが置かれていた。


「なんだこれ……?って、この段ボール……送り状が無いぞ……?」

「そんなわけないでしょ〜!きっとどっかに貼ってあるはずだよ〜」

 と、音葉は笑いながら玄関へとやって来る。



 すると、次の瞬間ーー

 段ボールの中から少女が飛び出し、音葉へ抱きつく。


「おっとはおねぇさま〜〜!!!お久しぶりなの!!」

「な、なに!?…………って歌羽!?」

 段ボールの中から飛び出してきたのは、花園歌羽だった。

 歌羽は、白いワンピースに身を包んでおり、その美しさからまるで小さな天使のようだった。

 俺は、その状況に呆気に取られて、立ち尽くしてしまう。


「音葉お姉さま〜〜!あぁ、音葉お姉さま……相変わらずお綺麗なの……」

 そう言って、歌羽は音葉に頬擦りしている。


「歌羽〜久しぶりだね〜!…………ってどうやってここが……?」

「そ、それは……探偵を雇って…………ってそんなことはどうでも良いの!!」

 すると、歌羽はこちらを向いて、俺を睨みつけてくる。


「そこの白川裕太!!お前なんかにお姉さまは絶対に渡さないの!!」

「え、俺!?いや……それはどういう……?」

「だから!お前なんかより、私の方がお姉さまを愛しているのに……!!お前はパートナーに相応しくなっ……!!」

 そう言いかけて、音葉は後ろから歌羽を抱き上げる。


「はいはい、分かったから、ひとまずリビングに行くよ〜」

「ちょ!まだ言い終わってないの!お姉さま!!離すの〜〜」

 歌羽は、音葉の腕の中で必死に抵抗するが、その小さな体では音葉から逃れることは出来なかった。



 *****



 そうして、歌羽はリビングの椅子に座らされ、その向かいに俺と音葉が座った。


「それで!ウチは、お前を認めないの!!」

「まぁまぁ、歌羽も一旦落ち着いて、夕ご飯まだ食べてないでしょ?食べる?」

「ふぇ!?お姉さまの手料理!?食べるの!食べるの!!」

 歌羽は、今までの態度と一変して、その顔には子供のような無邪気な笑顔が広がっていた。


「はいはい、分かったから、大人しく待ってて〜」

「分かったなの〜!楽しみなの〜〜!」

 歌羽は嬉しそうに、鼻歌を歌いながら横に揺れている。



 しばらくすると、今日の夕ご飯の残りが運ばれてきた。

 今日のメニューは、おしゃれに盛り付けられた煮込みハンバーグに、具沢山のミネストローネだった。

 歌羽はそれらに目を輝かせて、パクパクと食べ始める。


「この、ハンバーグ!肉汁が溢れ出してとっても美味しいの!!ミネストローネだって、繊細な味付けでとっても美味しいの〜〜!」

 にこやかにハンバーグを頬張る歌羽を、音葉は嬉しそうに眺めていた。


「ふ〜!美味しかったの!流石お姉さまなの〜!!」

 歌羽は、音葉の手料理がよほど嬉しかったのか、すぐに食べ終えた。


「ふふっ、そりゃ良かった!」

「じゃあ、お邪魔しましたなの!!」

 そう言って、歌羽は玄関へと向かおうとする。






「…………ってちが〜う!!!!私はお姉さまを救いにきたんだから!!」

「っち!……騙されなかったか……」

「私は、お姉さまを愛しているの!!お前の愛なんか偽物に決まってるの!!」

 歌羽は、俺を指差して、大きな声で言う。


「な!!俺の音葉への愛は本物だ!!心から愛してるさ!!」

 俺は、音葉への愛を疑われて、躍起になって応戦する。


「ちょ!ゆうくん!?……そんな人前で愛してるなんて……言わないでよ…………!」

 音葉は顔を真っ赤にして、俺の服の裾を引っ張る。


「ふ、ふーん!それならお前の愛とやらを証明するの!!どうせお前には無理なの〜!」

「ちょ、歌羽!?何言って…………っん……!?」


 俺は音葉が言い終わるの待たずして、強引に唇奪った。

 先ほど焦らされているのもあり、俺は舌を入れて、音葉の舌と絡め合わせる。

 音葉の頬は、恥ずかしさからか真っ赤に染まっていたが、俺は構わずキスを続ける。


「ちょ……お姉さま!?!?……それは大人のキス………………」

 まだ女子高生の歌羽には、刺激が強かったのか、動揺しているのが伝わる。


「うっ…………!?!?今のところは見逃してやるの!!今度来たら容赦しないんだから!覚えとくの!!」

 そう言って、歌羽はドタバタと足音を立てながら、家を後にした。





「ふぅ……とんでもない奴だった…………ってどうした……音葉……?」

 俺が、ふと音葉の方を見ると、すごい顔つきでこちらを睨んでいる。


「ゆうくん!!人前であんなことしないの!!!…………もう!ほんとゆうくんはばかなんだから!!!!!」

「ご、ごめん……つい楽しくなっちゃって……」

「もう!!1週間キス禁止!!ゆうくんは反省しなさい!!」

「そ、そんなぁ!?……最後に1回だけ!1回だけキスさせて!!」

「もう!ダメったらダメだってば!!!」




 音葉の頬は、未だ真っ赤に染まっていた。




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