第6話 推しのアイドルと新婚旅行 前編

 

「お〜い!ゆうくん!起きて〜!旅行だぞ〜!!」

「う、うぅ……今起きるよ……」


 今日はGW初日、そして、新婚旅行の日だ。

 実を言うと、音葉との初めての旅行なので、ドキドキとワクワクで全然寝れなかったのだ。


「あれ? ゆうくん、もしかして、私との旅行が楽しみで全然寝れなかったとか〜?」

 音葉は、ニヤニヤした顔でこちらを見てくる。


 小さい頃からの長い付き合いだからなのか、考えることがバレているのが恐ろしい。


「そんな音葉さんこそ、早起きしておしゃれしてるじゃんか」

 音葉は、初夏の季節にあった涼しげな白いTシャツに、動きやすいジーパンを履いていた。

 ラフな格好をしているが、そのセンスは流石元大人気アイドルで、とても可愛らしさを感じられる。


「そりゃ、ゆうくんとの初めての旅行だもん……」


「今日も似合ってて可愛いよ」


「ふふっ、ありがと……ゆうくんは毎回褒めてくれるから大好き……」


 俺は、朝から『大好き』だなんて言われ、結婚して良かった……と幸せを噛み締める。

 そして、音葉に急かされるまま、俺はいつもの格好に着替えて、出発の準備を整えた。



 今日は俺の運転で、草津まで向かい、のんびりと過ごす予定だ。

 最初は、新婚旅行で海外にでも行こうと考えていたが、

「う〜ん……海外も良いけど、温泉旅館とか泊まってみたいかも!!」


 と音葉が言ってきたので、草津に行くこととした。



「ねぇ〜!ゆうくん〜!早く早く〜!」

「はいはい、今行くからちょっと待って」

「も〜、急いでよね!」


 昔から、朝が弱い俺は、小学生の頃によく、家が隣の音葉に急かされていたのを思い出す。

 ほぼ毎日一緒に登校していた頃が、なんだか懐かしい。


「なに?なんでゆうくん、ニヤニヤしてんの〜?」

「いやいや、小学生の頃を思い出して、毎日音葉さんのこと待たせてたなって」

「それはゆうくんが全然起きないからでしょ!そんなこと思い出してないで、早く行くよ!!」


 音葉は俺の思ったより、ウキウキのようだった。

 俺だけでなく、音葉も楽しみにしててくれたのかと思うとなんだか嬉しくなる。


 こうして、俺らは車に乗り込み、草津へと向かった。



 *****



「ふぅ〜着いた!運転お疲れ様!!ねね、硫黄の匂いがするよ!」

 音葉は、無邪気に、色々なところを眺めては目を輝かせていた。まさに天真爛漫である。

 そんな音葉を見て、俺は何だか微笑ましくなる。


「わぁ、見てゆうくん!あそこに湯畑があるよ!」

 天真爛漫な笑顔で音葉が手招きしながら指をさす。

 俺たちは、湯畑の周りを歩き、温泉の噴気が立ち上る様子に息を呑んだ。


 そして、俺たちは風情のある古民家風の温泉街を満喫した。

 所々で、温泉まんじゅうが配られており、道を歩くだけで楽しくなる。



 歩いていると、ふと音葉が立ち止まった。

 その目線の先には『浴衣貸出、やってます』との看板があった。


「音葉さん、浴衣着たいの?」

「お、ゆうくんは気が利くね、ちょっと時間かかるかもだけど、着て来ていい?」

「もちろん、俺は店の前で待ってるよ」

「えぇ〜、折角だからゆうくんも一緒に着ようよ〜!」


 音葉が頬を膨らませてこちらを見てくる。その可愛さに、断れる男がいるわけもない。

 そして、俺たちは二人で浴衣を着ることにした。


 音葉が、店から出てくると、俺は思わず目が釘付けになってしまった。

 可憐な花柄のものの浴衣に身を包んだ音葉は、とても麗しかった。

 俺は、その美しさに息を呑み、言葉に詰まってしまい、照れ笑いを浮かべながら音葉を見つめる。


「なになに!?ゆうくん、私の浴衣姿にときめいちゃってる〜?」

 音葉は、悪戯心のこもった目で俺の方を見つめている。


「すごく可愛いよ……すっげー似合ってる……」

 とつぶやくと、音葉はその言葉に少し顔を赤らめ、嬉しそうに微笑んでいた。


「ゆうくんも浴衣姿、男らしくてかっこいいよ……」

「そ、そうか……ありがとな……」



 浴衣姿の俺たちは二人で手を繋ぎながら、地元のグルメを堪能しつつ、観光を楽しんだ。

 そいて、日が沈んでくる頃には、足湯が出来る場所へと向かった。

 だんだんと暗くなっていく湯畑は、温泉の蒸気に包まれてとても綺麗だった。



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