第3話 推しのアイドルと初めてのデート
「お〜い、ゆうくん!待った〜?」
駅前でスマホを見ながら待っていると、目の前には白いワンピースを着た音葉が立っていた。
華やかなステージ衣装ではないが、そのカジュアルで可愛らしい服装に見惚れてしまう。
また、人に見つかると騒ぎになるので、帽子とマスクを着けていて、何だかやましいことをしている様でドキドキする。
「いいや、今来たところだよ……めっちゃ可愛いね……」
「ふふっ、ありがと!ゆうくんとの初デート!楽しみだなぁ……」
今日は、俺と音葉の初デートだ。
というのも、結婚してから書類の整理をしたり、音葉の引っ越しがあったりと、のんびりする暇が無く、中々時間が取れなかったのだ。
俺は、音葉との初めてのデートに緊張しながらも、数十年ぶりに一緒に遊べることにとてもワクワクしていた。
「そういえば今更だが、何で一緒に住んでるのに外集合なんだ?」
「今日は、高校生風デートだからね!私が高校時代に出来なかったこと、いっぱいするんだ!」
そう言って、音葉は俺の手を引っ張って歩き出した。
目元しか見えないが、流石は元大人気アイドルで、その美しさは通行人の誰もが見惚れるほどだった。
「それで、どこ行くんだ!?全く知らされてないんだが」
「それはお楽しみ!ほら!急いで急いで!」
音葉はよっぽど楽しみだったのか、朝からテンションが高くてとっても可愛い。
俺はその姿にドキドキしながら音葉について言った。
*****
音葉に連れられてきた場所は、カラオケだった。
そして、2人で案内された部屋へと向かった。
音葉は、初めてカラオケに来たのか、辺りをキョロキョロ見回している。
彼女はタブレットを手に取り、楽曲リストを眺めていた。
「へ〜カラオケってこんな感じなんだ……私たちの曲もしっかり入ってるね〜!」
俺は、結城音葉の生歌が聞けるのだと思うと、ニヤニヤが止まらなかった。
「ねぇ!ゆうくん!何か歌ってよ〜!」
「ふぇ!?俺が歌うの!?音葉さんじゃなくて!?」
「良いじゃん良いじゃん!ゆうくんが歌ったら、私も歌うから〜!」
「わ、分かったよ……」
そして、俺がスイドリの歌を歌っているのを、本人は楽しそうに聞いていた。
カラオケの時間が過ぎるのは、あっという間だった。
音葉は、人生初のカラオケを存分に楽しんだようで、とっても笑顔だった。
かくいう俺も、結城音葉の生歌を聞けて感無量なのは言うまでもない。
「いやぁ……カラオケ楽しかったね〜!」
「やばい、俺ちょっと泣きそうかも」
「ハハっ!流石は私のファン1号だね〜コールも完璧だったよ」
「そりゃ……まぁな……」
俺は、音葉に褒められて嬉し恥ずかしくなってしまった。
そして、俺は音葉に連れられるまま、ボウリングに行き、その後ゲームセンターでプリクラを撮った。
プリクラは、まるで地下アイドルのチェキの様だなと思ってしまったが、音葉はそれがえらく気に入っている様だったので、口にはしなかった。
一日中遊んでいると、外はもうすでに真っ暗になっていた。
だんだんと暖かくなってきたが、夜はまだ肌寒い。
俺はふと、頭上を見上げると、街頭の大きな広告に、4人体制で活動するスイドリの姿があった。
「わぁ〜みんな頑張ってるなぁ〜」
音葉は、その広告をキラキラした目で見つめていた。
「そういえば……その……ずっとアイドルが夢だったろ?辞めちゃって良かったのか……?」
俺は、そのキラキラした目を見て、思わず聞いてしまった。
「う〜ん、そうだなぁ……私、夢が2つあったの」
音葉は、続けて口を開く。
「1つ目は、みんなに愛されるアイドルになるってこと。これはもう叶ったかな」
「で、2つ目は……?」
「それはねぇ……ゆうくんのお嫁さんになること」
そのまま音葉は、立ち止まってこっちを向いてマスクを外す。
「私、今とっても幸せだよ!」
セミロングのサラサラな髪が、ビル風に靡く。
その姿に、思わず
「かわいい……」
と声が漏れてしまう。
「って!?マスク!!」
と言ったのも束の間、結城音葉だと気が付いた周りの人がざわざわし始めた。
「やばい!ほら!逃げるよ!」
そう言って、俺は音葉の手を引っ張って、夜の繁華街を駆ける。
「ゆうくん、まるで王子様みたいだねぇ〜」
音葉は、俺の気なんて知らずに、ニヤニヤしている。
「ふふっ、楽しかったね……また一緒にどっか行こうね?」
「そりゃ夫婦だからな、一生一緒だ」
「……う、うん…………」
ちらっと見えた、後ろを走る音葉の頬が少し赤いような気がした。
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