【早読み版】Chaper05~Chaper06
【注意】
こちらは時短ユーザーの方に向けた、当小説の早読み版となります。各チャプターごとに、簡略した内容を記しています。
ネタバレを含みますので、本編をお楽しみいただきたい方は、プロローグからお読みください。
※簡略化のため、情報や内容に偏りがある場合もございます。ご了承ください。
【Capter05】
時間は飛んで、夕方の六時ごろ。
ヘリオス探偵事務所の二階、所長室にハロウは呼ばれていました。
緊張するハロウを温かく迎え入れてくれたのは、探偵事務所の所長のデュバン・ナイトハート。
所長は最近、事務所内の空気がギスギスしていることに懸念を抱いていました。もしかしたら近いうちに、よくないことが起こるかもしれないと、不安をハロウに打ち明けます。
事務所の看板に刻まれた『ヘリオス』の名は、かつて実在した名探偵『ヘリオス・トーチ』なる人物から取ったものです。その男は、デュバン所長の親友でもありました。
名探偵として活躍し、名を馳せたヘリオス。しかし彼の最期はあっけなく、ゆきずりの
そんな悲劇を経て、所長は亡き友の意思を継ぐべく、探偵事務所を設立したのです。そして、将来有望な若者たちを探偵として育成しているのでした。
「頼りにしているよ、ハロウくん。どうかみなを導く、かがり火になってくれたまえ」
所長に期待されて、ハロウも胸を熱くするのでした。
そんな折りに、秘書のシトラスが所長室のドアを叩きます。彼女は所長に、事務所の表に馬車が到着したことを知らせにきたのです。
「お客さんから演劇鑑賞の誘いがあってね。これから街外れの劇場まで足を運ばねばならないんだよ」
劇の開演は七時。
なんと、ギルが招集をかけた時刻とまったくおなじです。
これもギルが仕掛けた小細工であると、所長はわかっていました。わかった上で、ハロウとシトラスに自分の不在後を頼むのでした。
* * *
所長が出かけた後、まだ約束の七時まで時間がありました。
そこでハロウは、二階にあるもう一つの部屋――空き部屋にて、時間を潰すことに決めます。
ところが、空き部屋には先客がいました。
青年の名は、ゴート・イラクサ。
大柄で、重労働者のような太い腕をもった彼も、事務所に所属する探偵の一人です。
ギル・フォックス
シルバー・ロードライン
メイラ・リトル
マリーナ・リトル
ゴート・イラクサ
それから見習いのハロウ・オーリンに、ロイ・ブラウニー。
以上のメンバーが、現在ヘリオス探偵事務所にそろう『七人の探偵』なのでした。
ゴートは、とても無口な男です。
ハロウもどう接したらよいか、大いに迷いました。
しかし好き放題なことを口にするシルバーやメイラたちとはちがって、客観的かつ、はっきりとした物言いをするゴートに、ハロウは次第に好感と興味を持つようになります。
しばし、ゴートとの談話を試みるハロウ。根掘り葉掘り尋ねたせいで、今度は逆にゴートから質問を返されてしまいます。
「おまえの意見も話せ、ハロウ。どうやらおまえは探偵の仕事自体に意欲を示していないようだが……その思惑はなんだ?」
ハロウは言葉が詰まってしまいます。
そこへまたしてもシトラスが現れて、彼は難を逃れました。
「そろそろお時間です。お二人も談話室にいらしてください」
ゴートは一人、先に行ってしまいました。
ハロウもシトラスと一緒に階下へと向かいますが……途中、彼女があることを尋ねてきました。
「ごめんなさい、ゴートさんとの会話を聞いてしまいました。ハロウさん、ご自身に探偵の資格がないとは、その……どういう意味ですの?」
ハロウは答えあぐねました。
結局、会話がギクシャクしたのち、シトラスも先に行ってしまいました。一人残ったハロウは、重い足取りで一階の談話室へと向かいます。
談話室のドアの前で、ハロウは立ち止まりました
なかから、自分とギルを除いた六名の楽しげな声が聞こえてきます。
人の輪にまざることができず、部屋の前でうろうろするハロウでしたが――そこへ、突然玄関の扉が開きました。
夜の七時ちょうど。
名探偵のギル・フォックスが帰ってきたのです。
【Capter06】
ギルの指示によって、八つの椅子が円状に並べられました。
各々が席についたところで、さっそく仲間たちから皮肉を投げつけられるギル。
しかし、彼は顔色一つ変えません。
それどころか集まった全員に向かって「おまえらには失望した」と、ばっさり切り捨てます。
昼間の広場の件をなじりつつ、ギルは自身の野望をみなの前で語ります。
「成功したいのなら、俺に従え。探偵が名を上げる方法は一つ……それは凶悪な事件を解決することだ」
国中を脅かす凶悪な犯罪事件を解決することで、いま以上に探偵事務所の名を世間に広めようと、ギルはみなに提案します。
果てしない野望を前に、ハロウはあきれてしまいました。
最初はみな、ハロウと同様に消極的な姿勢を示しました。が、「少なくとも自分はそうやって現状を手に入れた」とギルにささやかれ、賛同の手を上げる者が増えていきます。
本人の言うとおり、ギル・フォックスが名探偵として名を上げたのは、彼が貴族の別荘で起こった事件を解決したことが発端です。
次第に探偵たち全員の意向が、ギルに傾きます。
探偵のなかで、ハロウだけが消極的な意を示しました。
凶悪な事件を解決するといっても、そう単純には事は運びません。ましてや、相手が殺人犯となると大変危険が伴うことになるでしょう。
脇で聞いていたシトラスも、ギルの提示する方針は所長が望む探偵像とは真逆だと指摘します。
しかし「誰も反論をしないのが答えだ」と、ギルは得意げに言います。さすがのシトラスも、秘書の立場ではなにも言えなくなってしまいました。
「さて諸君、我らが進む栄光の道には、それ相応の覚悟が必要になるのだが……」
事務所の改革に当たって、異を唱える者はご退場願いたい。
と、ギルは全員を見渡して言いました。
「もっとわかりやすく言えば、追放したいやつがいる」
突然の宣告に当然、場がざわつきます。
けれど、ギルの青い目は静かにまっすぐに……処刑する相手を見つめていました。
「見習い探偵、ハロウ・オーリン」
ギルは、ハロウの名を呼びました。
* * *
かくして、ハロウはヘリオス探偵事務所から追放されてしまいました。
雨のなか、彼はひとり帰路につきます。
その表情には落胆の色が浮かびますが、同時にほっとした顔つきでもありました。
ひとまず、自分の役目は終わった。
グダグダではあったが、それなりにうまく事を運んだ。
後は自宅で待機……次の指示が出るまで、じっとしていることです。
住まいに帰ってきたハロウは、ひと眠りつきます。
遠い日の夢にうなされていると、突然の物音に叩き起こされました。
気がつくと、寝床のまわりは守衛に取り囲まれています。そのなかにはオルソー・ブラックの顔もあり、彼は戸惑うハロウに向かってこう言いました。
「ハロウ・オーリン。ギル・フォックス殺害の件で、貴様を捕縛する」
思いもしない展開に、悪い夢なら覚めてくれと願うハロウでした。
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