名探偵ハロウ・オーリン 〜愛と青春の七人の探偵たち〜

シロヅキ カスム

★時短ユーザー向け【早読み版/ネタバレ注意】

【早読み版】Prologue~Chapter04

【注意!】

 こちらは時短ユーザーの方に向けた、当小説の早読み版となります。

 各チャプターごとに、簡略した内容を記しております。

 ネタバレを含みますので、本編をお楽しみいただきたい方は、プロローグからお読みください。

 なお簡略化のため、内容や情報に偏りがございます。ご了承ください。


 * * *


 彼の名前は、ハロウ・オーリン。

 名探偵……ではなく、見習い探偵をしています。

 年齢は二十歳。ごく平凡な気弱な男で、ほかに紅茶色の髪と赤みがかった目、そして眼鏡をかけているのが特徴です。



【Prologue】


 悲劇はここからはじまりました。


 それは雨の降る夜でした。


 街の中通りに構える一軒の探偵事務所に、七人の若者たちが集まっていました。

 彼らは見習いを含めた、ヘリオス探偵事務所の探偵たちです。


 一同を談話室に集めた張本人――名探偵として事務所の花形を務めるギル・フォックスは、みんなの前で見習いのハロウ・オーリンをこき下ろしました。


「無能な人間に居場所などない。いますぐ、この事務所から消え失せろ」


 と、ハロウはギルから追放宣言を言い渡されてしまいます。


 もちろん、彼も食い下がりました。

 しかし有無を言わせぬ尊大な態度と、名探偵の実績を前にしては、引き下がるほかありません。


 誰にも引き留められることなく、ハロウは事務所を飛び出します。

 ひとり、冷たい雨のなかを走り去っていきました。


 この時のハロウは、まだ知りもしませんでした。

 まさかこれが、友との永遠の別れになろうとは――。



【Capter01】


 悲劇の夜より、時はさかのぼります。


 時刻は午前八時の朝方。

 事務所での徹夜仕事を終えた見習い探偵のハロウ・オーリンは、軽食屋で朝食にありついていました。


 街で偶然出会ったおなじ見習い探偵のロイ・ブラウニー少年も誘って、一つのテーブルにつきます。

 その席で、少年は唐突に奇妙なことを口にしました。


「ハロウさんて、ギルさんと幼なじみだったんですね」


 ハロウは、あやうく飲みかけのスープを吹き出しそうになります。

 じつは周囲には秘密にしているのですが、ハロウとギルは以前より面識があり、おなじ孤児院育ちなのです。


 ハロウはロイに、そのことは誰にも言うなと釘を刺します。


「ギル・フォックスはとても危険な男だ。もし出自をばらすような真似をしたら、僕がやつに殺されてしまうよ」


 食事を終えて、二人は街の公園へと移動しました。


 ――運河の街、ウォルタ。

 それが、ハロウたち探偵が活動の拠点としている街の名前です。


 北から南にかけて流れる大きな河があり、その上をまたぐ巨大な石橋がウォルタの街のシンボルです。

 交易が盛んなだけあって、街には周辺地域から多くの物資や人々が集まってきます。

 公共の施設も整っており、様々な街を流れてきたハロウにとっても居心地がよく、お気に入りの街でした。


 そんな街の公園のベンチにて、ロイは買ってきた新聞にかじりついていました。

 名探偵として華々しく表紙を飾るギルに、少年はやっかみを露わにします。


 先程の件が心配になったハロウは、念を入れてもう一度ロイに忠告しました。

 ギルの出自はけして口にするな、と。


 人気者の名探偵が貧しい孤児院の出だなんて、イメージダウンに繋がってしまうと、ハロウはロイに説明しました。

 しかしロイは「逆に夢があっていいじゃないですか」と語り出します。


「若い人はみんな夢を見るんです。生まれとはちがう、自分だけの特別なものを求めて。それはギルさんだけじゃありません、ほかの探偵さんたちもおなじですよ」


 ロイはハロウに問いました。

 あなたの夢はなにか、と。


 その質問にハロウは言葉を濁します。

 ハロウにとって、いまの平穏な日々だけでもう十分なのです。

 それでも、あえてもし、願うことがあるならば――。

 

 ふいに、大きな鐘の音が鳴り響きました。

 公園近くに建つ街の教会が、金色の鐘をゆらしています。

 今日は月に一度行われる、イーリス教の集会の日なのです。


 世間を知らない少年のために、ハロウは彼を教会の集会へと誘います。

 かくして二人は、ほかの信徒と足並みをそろえて教会へ赴くのでした。



【Capter02】


 集会にて、教会の司祭さまは語ります。

 この国――イルイリス国の歴史や、十数年前に起きた隣国の争いなど、基本的な知識を。


 集会が終わり、人々は教会を後にします。

 なかには居残って、祭壇へ熱心に祈りを捧げる信徒たちの姿も多く見られました。


 教会に集う人たちの多くは、高齢層です。

 現在、イルイリス国では各地で凶悪な犯罪が増えています。

 不安定な世のなかに、若い世代ほど合理性を求めて宗教離れが進みました。

 一方で高齢層は、逆に神への信仰を強めていったのです。

 

 ハロウが教会のなかを眺めていると、祭壇に見知った顔を見つけました。


「珍しいですね、お二人が教会の集会に参加するなんて」


 ヘリオス探偵事務所の秘書、シトラス・リーフウッドです。


 彼女はハロウよりもいくつか年上の女性ですが、まだ比較的若い世代に入ります。

 そんな彼女がどうして、教会の集会に参加しているのか、ハロウは疑問を抱きました。

 

「わたし、小さな田舎村の出身でして、父がその村の教会で司祭を務めていましたの」


 古くから身についた習慣で集会に参加したのだと、シトラスはハロウとロイに語ります。


 その後、ハロウ、ロイ、シトラスの三人は教会を出ました。

 街なかへ移動し、ハロウはロイとともに、シトラスの買い物を手伝うことになりました。


 ロイが一軒の雑貨屋で用を済ましている間、ハロウとシトラスは店の外でしばし雑談をしました。

 教会でシトラスの意外な一面を知ったハロウは、自分も誰かに胸の内を明かしたい気持ちに駆られました。

 ここだけの話と、ハロウはシトラスにあることを打ち明けます。


「僕、本当は探偵に向いていないんです」


 先日起こした失敗を例に挙げて、ハロウは本当は表舞台に立ちたくない、裏方の仕事をやりたいのだと告げます。

 すると、シトラスはハロウに尋ねました。


「あなたはどうして探偵になりたいと思ったのですか?」


 さらに彼女は、奇妙な言葉も漏らします。


「怖くないんですか? もし誤った真実を人に突きつけてしまったら――」


 途中、ロイが店から出てきたため、二人は会話を切り上げます。

 うやむやのまま、ハロウは先を行くロイとシトラスの後についていくのでした。



【Capter03】


 買い物を終えた三人は、昼食を目当てに今度は街の広場へ向かいます。

 そこでまたしても、ハロウは見知った顔と出くわすのでした。


 探偵事務所に所属する、姉妹探偵。

 姉のメイラ・リトルと、その妹のマリーナ・リトルです。


 二人はさる骨董商の若旦那から、無理やり仕事の依頼を引き受けようとしていたところでした。

 さらにそこへ、もう一人――おなじく事務所の探偵、シルバー・ロードラインまでもが現れて、事態はとんでもなく面倒くさい方向へと転がります。


 若旦那の依頼は、店の借金を返済するため祖父が残した『大いなる富をもたらす壺』の謎を解いてほしいという内容でした。

 ところが、彼は「ぜひ、名探偵のギル・フォックスさんに事件を解いてもらいたい!」と、ほかの探偵そっちのけで、ギルを名指しします。

 

 いまに、はじまったことではありません。


 ここのところ、探偵事務所に届く依頼の手紙には決まって、ギル・フォックスだけを指名する文言が添えられていました。

 件の名探偵でなければ事件の依頼をしない、というお客まで現れる始末です。


 そのことに、ほかの探偵たちは大変憤っていました。

 ギルばかり名が売れて、自分たちにはなんの益も入らないと。

 

 結局、壺の事件は、見習い探偵のロイ少年がさくっと解決してしまいました。

 ますます立つ瀬がない探偵のメイラ、シルバー、マリーナの三人でありました。



【Capter04】


 壺の謎が解けて、めでたしめでたし。

 と、事態はそう簡単には収まりませんでした。


 広場の騒ぎを聞きつけて、街の守衛たちがやってきたのです。


 現れたのは、守衛たちをまとめ上げるオルソー・ブラックという中年男。

 彼は若者ばかりが集まる探偵事務所をなにかと目の敵にしている、ハロウたちにとって天敵のような存在でした。


 シトラスには先に事務所へ向かってもらい、ハロウたち五人で守衛たちと対峙します。

 事を穏便に済ませたいハロウでしたが、メイラとシルバーは完全にケンカ腰の体勢です。


 引っ立てようとする守衛たちに、探偵たちは必死に抵抗をしました。

 そのさなか、ハロウは広場の隅で怪しい記者風の男を見かけます。

 妙な記事を書かれてはまずいと、ハロウはその男に近寄り、彼の手帳を奪い取るのでした。


 探偵と守衛の攻防をよそに、ハロウはひとり、記者風の男と手帳を巡って争います。

 

 そんな広場の騒動を鎮めたのは、いきなり突入してきた一台の馬車でした。

 馬車には、貴族の証である花の紋章があしらわれてました。


 開いた馬車の扉から下りてきたのは――なんと、本物の名探偵ギル・フォックスでした。


 ギルは貴族の後ろ盾を見せ、オルソーを交渉……たった一人で守衛たちを退けてしまいました。

 最悪の事態を回避し、ハロウは安堵します。

 しかし、その名探偵に突然、乱暴に胸ぐらをつかまれてしまいます。


 そして、こそっと耳打ちされました。


「今夜の七時、談話室に見習いを含めた事務所の探偵たち全員を集めろ」


 高圧的に言われた後、突き飛ばされてしまいました。

 ギルは貴族の馬車に乗って、その場を去ります。

 名探偵の登場により、広場の騒動は終息へ向かうのでした。


 探偵事務所へ戻るなか、ハロウを含めた五人はとぼとぼと歩いていました。

 圧倒的な格差を見せつけられて、肩を落とさない人はいません。


 そして誰しもが思ったでしょう。

 ギルさえいなければ、自分も輝けるのに……と。

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