攻略難度Sクラスを想定していた生徒が○○だった時の気持ちを答えなさい ⑥

「_______誰だ、ソイツぶっ殺してやる!!!」


「えぇ、そうね。私も同じ考えよ」


「_ままま待って下さいっ!私は別に仕返しがしたい訳じゃないんです!!」


 犯人を見つけ出して八つ裂きにしようと動き出した俺たちを、慌てて止める佐山。


「いいか、佐山。この世には三種類の人間がいる」


 俺は佐山の目の前に人差し指を立てた右手を突き出す。


「まず善人。まり、俺とか佐山ちゃんだな」


「……待ちなさい、私が入っていないのは兎も角として、貴方が入ってるのは納得いかないのだけど」


「馬鹿野郎、俺は街中で困ってる女の子が居たら迷わず助けに行くレベルの善人だぞ」


「男は?」


「時と場合」


 何が悲しくて男を助けないと行けないんだろうか?もしかして、高嶺って案外頭が弱いのだろうか?


「次に普通の人……まぁ、ギリギリ高嶺もここやな……そうだよな?」


「ギリギリなんですね……」


「……そうね自分で言うのも何だけどギリギリよ。____だって私、お嬢様だもの」


 ……何の関係があるんだろうか。


「最後は『生きる価値の無いカス』だ。助走つけてドロップキックしてもいい」


「そうね」


「駄目ですよ!?」


 俺の言葉を否定する佐山とは違い、高嶺は『うんうん』と頷いている。どうやら、ギリギリの倫理観でも俺の理論が正しい事くらいは分かるようだ。


 ……それにしても、こんないい子を虐めるか?俺がいうのもなんだが、主犯の奴らは大分性格が終わってるぞ?


「仕返し目的じゃない言ってるけど、そういう奴らは一回痛い目見ないと治らないのか定石だぞ?」


「そ、それでも、出来るなら穏便に済ませたいんです!それにきっと私にも非があるでしょうし……」


 もしも佐山に非があったとしても、虐めた奴が悪いのは絶対に不変だと思う。


 ……しかし、佐山が虐められてたとなると、僅かだか納得いかない部分があるな。この子レベルの人間が虐められているのだとしたら、多少なりともそれらしい噂は流れそうなもんなんだが。


 虐めの空気と言うものは嫌でも周りに伝播するし、佐山の人気なら誰かが感付きそうなものではある。


「因みに嫌がらせって、何されたんだ?」


「……部活のシューズを隠されたり、下駄箱にイタズラされたり、ノートに落書きされたりです」


「うわぁ、それはまたド定番な……無視とかはされてないのか?」


「教室で過ごしてる時は皆普通なんですけど、部活の時は……」


 なるほど、部活絡みか。


 確かに部活というコミュニティの方が情報統制はしやすいか。……通りで情報が回ってこなかったわけだ。


「私ってバカだから嫌がらせされる理由なんて分かんなくて……。だから、こういう事をしてくる人にちゃんと理由を聞いて、自分の悪い所を直したいんです!」


「うーん……」


 確かに佐山の言いたいことも少しは分かる。だが、彼女は致命的な見落としがある。それは、あくまでも、佐山に大きな非があった場合の話だということだ。


「______じゃあ、もし佐山に非が無かったらどうするんだ?」


 相手に自分の嫌なところを直接聞いて、改善して、皆仲良くハッピーエンド。残念だが、この世界はそんなに甘くて単純な構造じゃない。


「……え?」


「大抵、嫌がらせ……いや、まぁ今回の場合は完全に虐めとして定義するけど、もしも、今回の虐めにおいて、お前にに一切の非がない場合どうしたい?」


 イジメと言うものはいじめられる側にも、多少なりとも原因がある場合もあるっちゃある。それにしたって加害者側が絶対的に悪いのは変わらないが、被害者側に非がないケースだって勿論ある。


「例えば?ここに居る高嶺がとある男子を振った。でも、その高嶺が振った男子のことを好きな女子が居て、知らずのうちに恨みを買った」


 俺は横に居る高嶺を例として出しながら、例え話を出す。……因みにコレは実際に起こった話だ。高嶺は気づいていなかったかもしれないが、高嶺は去年結構な数の女子生徒に恨まれていたことを俺は知っている。


 相手が相手なだけに問題には発展しなかったが、相手が彼女でなければ、荒れに荒れたであろうことは想像に難くない。


「……さて、この結果としていじめが起こりました。この場合、振った高嶺に非はあると思うか?」


「ない、です……。で、でも実際そんな理由でイジメは______」


「______起こる。……そんなしょうもない理由でイジメってのは起こるもんなんだよ。佐山には悪いけどな」


 男女関係が拗れてイジメに発展するなど、テンプレになりかけるレベルで良くあるパターンだ。本人に非がないにも関わらず、『コケにされた』なんて理由をつけて、嫌がらせを開始する。


 残念なことに、そういう加害者達からすれば虐める理由なんて何でもいい場合の方が多い。ただ適当な理由を付けて鼻につく存在を自身の下に追いやりたいだけなのだから、別に理由なんてなんだって良いのだ。


「_____まっ、別に今回がそのパターンだって言ってるわけじゃない。もしかしたら、佐山がとんでもない悪女で、十股してる可能性もあるからな」


「そ、そんな事しませんよ!?」


「知ってる知ってる、からかってるだけだよ」


 手を横にぶんぶんと振って俺の言葉を否定す佐山に対して、俺はケラケラと笑う。一応、頭に入れておいて欲しい結末ではあるものの、あくまで白山にとって最悪な結末だと言うだけの話だ。佐山に原因がある可能性だって十分にある。


「……でも、もし本当に佐山さんに非がなかった場合どうするのが正解なのかしら」


 ティーカップの中を覗きながら、呟いた高嶺に白山の背がビクリと震える。


「一番の対処法はその場から佐山が逃げ出すことなんだが、如何せん特待生だからな」


「私も部活は辞めたくないです……走るの、大好きですし……憧れの先輩も居ますし」


 彼女は将来有望な陸上部員だ。此処で彼女を辞めさせるという安易な結末を選ぼうものなら、より大きな厄介事に響く可能性だってある。


「後は陸上部内で佐山こっち側の味方を増やすとかもあるな。……まぁ、今回の場合は根こそぎ向こう陣営におるっぽいから使えないけど」


 主犯はよっぽど警戒心が高いのか、情報が漏れるのを良しとしていない。そこまで警戒しながら徹底的に佐山を潰したいって思ってる相手が居るのに、のこのこ友達なんか作ってたら、間違いなく二次災害が起こる。


「そういう面で言えば、今の時間に相談に来てんのは良い手だ。部が活動してる今の時間帯なら相手も下手に動けないだろうしな」


 何かしらの手段で佐山の行動が主犯に伝わっているとしても、放課後に活動する高嶺の動向を把握しようとした瞬間に、犯人の特定は容易になる。


「他にもちょっとグレーな手なら幾らでもあるけど……間違いなく部活はごたつくと思う」


「それは……」


「貴方、被害を受けている側の人間なのよ?貴方に危害を加えてる側の人間に気を使うなんて、馬鹿らしいと思わないの?」


 俺の言葉に躊躇うような顔をした佐山に、高嶺が呆れたように直接的な言葉を投げ付ける。


「先に相手が危害を加えてきたのなら、その相手が傷付こうが多少は正当防衛が成り立つものよ」


「……や、やられたらやり返すのが正解だなんて私は思えません。それなら___」


「_______自分だけが傷付けば良いなんて考え方は捨てなさい。それは自己犠牲じゃなくて唯の自己満足、尊さなんて欠片もないし唯の哀れ現実逃避に他ならない」


「まぁ、待てよ。まだ、相手がどんな理由で佐山を虐めてるんかなんて分かってないだろ?」


 ヒートアップしてきた高嶺を宥めた俺は、カバンから取り出したノートの中から一枚ちぎって机に置く。佐山の行為が尊い自己犠牲なのか哀れな現実逃避なのかは別として、まずは標的を絞って上手く接触しなければ何も始まらない。


「佐山、今日は取り敢えず帰って、この紙に嫌がらせして来た相手の名前を、全員書いてきてもらってもいいか?」


「全員、ですか?」


「無視されたとかでも何でも良い。こっちは取り敢えず、どこまでの奴らが向こう陣営に居るのか把握したい」


「いじめの関係者を全員潰しに当たるのね」


「……馬鹿か。それにそんな事したところで無駄だら。相手に対策練る時間与えるだけだし、そんなことするなら一発目で首根っこ掴んで決着つけた方が良い」


したり顔で頭のおかしいことを言い出した高嶺の言葉を一瞬で否定すると、高嶺が僅かにムッとする。


 ……実際、高嶺なんて大物が虱潰しに生徒を潰して回ったら、殆どの人間は怯えて暫くは大人しくなるだろう。だが、それでは根本の解決にはならないし、そもそも佐山の依頼の趣旨からもズレてしまう。


「ソレに、この空気で話し合ってもろくな案が生まれないだろうしな。折角の味方陣営で言い合いなんかしても仕方ないだろ?このまま話が永遠に平行線で時間無駄にするとか俺は嫌だぞ。……と言うか、高嶺は依頼主にボコボコに言い過ぎだ」


「……別にそんな風に言ったつもりは無いわ」


「そんな風に言ってなくても、そう伝わってたら一緒だ。今回に至っては、もしもの話をした俺も悪いけどな」


 無表情なのに、明らかに機嫌が悪くなったことが見て取れる。こいつも佐山の事を考えて言っていることは分かるが、些か言葉が強い。


 この依頼は佐山に嫌がらせをしている主犯を突き止める、というもので佐山の行動の是非を論じたところで状況は何も好転しない。


「書いてきてくれたら、そこから俺達がきっちり犯人見つけるけど、佐山も犯人がそういう相手やった場合どうするか考えとくのは大事だと思うぞ」


「……分かり、ました」


「よし、じゃあ解散。______あっ、俺はこの後高嶺と話あるから、佐山は気にせず帰ってくれていいぞ」


 難しそうな表情のまま俯いた佐山は部屋を出る前に一度此方に礼をした後、トボトボと部屋から出て言った。その背中を酷く寂しげで痛々しかった。





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