攻略難度Sクラスを想定していた生徒が○○だった時の気持ちを答えなさい ⑤
「先日に引き続きお邪魔させていただきます!」
褐色の肌に、後ろで一纏めにされた茶髪。高校生にしてはやけに小さい体躯。されど、高校生の中でもずば抜けた暴力的とでも言うべき圧倒的な胸。
ロリ巨乳とジャンル分けされる、本当に実在するか疑わしがったルックスを持った生徒、それが佐山 茶南。天真爛漫な性格と、誰に対してもわけ隔てのない態度、そして強烈なルックスで構内の『付き合いたい女子ランキング』三位に急浮上した、逸材だ。
……近くで見ると、モテる理由がよく分かる。やっぱり、男は圧倒的
「目付きがいやらしいわ」
「______ンギャアアアアっ!!?」
いつの間にやら横に移動してきていた、高嶺が俺の両目に指を突き刺した。そう、ナチュラル目潰しである。
「_____何すんだお前ぇっ!?」
目の前が真っ暗になった俺は、蹲りながら恐らく横に居るのであろう高嶺に抗議する。
「この部室では依頼人を性的な目で見ることを禁止しているのよ。違反したのだから、目を潰されるのは常識じゃないのかしら?」
「知らねーし、聞いてねーよ!ルールってのは、事前に周知させるから成立するもんであって、自分の胸の中に大切に仕舞っとくだけじゃ、何の意味もないんや!無い胸に仕舞って______オブルァッ!!?」
蹲った俺の腹が容赦なく蹴り飛ばされ、俺は無様に地面を転がった。そして、そんな可哀想な俺を足蹴にする高嶺。
「貴方、昨日の忠告をもう忘れたのかしら?_____次に胸の話をしたら首を?」
「……ねじ切る」
「私は有言実行の女なの。大丈夫よ、ちゃんと遺体は遺棄してあげるわ」
遺棄じゃなくて、ちゃんと埋葬してください。
「……ご、ごめんなさい」
「駄目よ」
「そこをなんとか」
少しだけ視界を取り戻し始めた俺は、流れるように地面に頭を擦り付けた。それはもう、絨毯が焦げるくらいに。
「摩擦で絨毯が着火したら許してあげる」
「それ俺の頭皮丸焦げじゃん」
「ご不満かしら?」
「若ハゲだけはご勘弁を……」
俺の誠意が届いたのか、高嶺は溜息を吐きながら顎で自身の座る横の席を指した。どうやら、ねじ切りの刑はご勘弁願えるらしい。
「……ごめんなさい、この性欲の塊の性で話が逸れたわね。好きに座って頂戴」
「_____。_______あっ、はい!失礼します!」
意外なものを見るような目でポカンと口を開けていた佐山だったが、高嶺の言葉で目を覚ましたのか、素早い身のこなしで席に着いた。
「……」
「………」
「「「…………」」」
紅茶を淹れる音だけが部屋に響く。
えっ、気まず……。
気まずい雰囲気が部屋を支配している。それもそうだ。知らない男が生えてきた上に、初っ端からあんなやり取り見せられたらこうなるよな。
……うん、だからね?
「______場を上手く回すのは二人ともと面識あるお前の役目だろうが!!!」
何、優雅に紅茶口に運んでんだお前!そんなんだから、友達の一人も出来ないんだよ!自己紹介促したり、状況の説明したりとか色々やるべきことあるだろ!
しかしそんな俺の訴えに対して、やれやれみたいな表情で首を振る高嶺。
「私に場を回せなんて、無茶なこと言わないでくれるかしら」
「そんな無茶でもねーよ!?お互いの紹介を軽くしたりするだけで、場の空気は意外と回りやすくなるんだよ!おい、なに優雅に紅茶啜ってんだぁ!」
お前が紅茶を啜ってた性で、約二人が酸欠になりかけたんだぞ。高い絨毯持ってくる前に換気扇でも持ってこい!
「_______はぁ……。もう、早くも心が折れかけてるけど、軽く自己紹介と行くか。俺の名前は桜谷 冬司。……多分だが、聞いたことくらいはあるだろ」
「____あっ!あの噂の『信用出来ない生徒ランキング』一位の人ですか!?」
「……待って?俺、そんなランキング知らないんだけど
そのランキングを作ってるやつに心当たりはあるが、そんなランキングを作っていたとは知らなかった。
「そっちは佐山 茶南……さん、だよな?」
「あっ、呼び捨てで大丈夫ですよ!お二人とも先輩ですし」
「そうか、じゃあ改めてよろしくな佐山」
「はい、よろしくお願いします!!!」
ランキングを作った奴に対しての復讐を決意しつつも、約立たずの高嶺を放置し会話を続ける。……うん、噂通り、コミュ力も高いなこの子。そりゃあ、男子女子共に人気出るわ。見習えよ、俺の横の人。……おい、空のカップ口に運ぶな。
「それにしても、依頼主が噂の特待生とは思わなかったぞ。______なぁ、高嶺?紅茶飲んでるフリなんか辞めて、会話に入ってもらっても?」
「……別に動揺なんかしてないわよ」
言ってないよ、そんなこと。
うん、表情は確かにいつも通り仏頂面だね。でも、行動が明らかに動揺してる人間のそれなんだよ。……コイツ、何であらゆる面で天才的な才能あるのに、コミュ力だけ絶望的なんだよ。ステ振り間違いすぎだろ。
「どうせ聞いてないだろうから説明するな?___この横におる置物からの依頼で佐山の依頼を手伝うことになった、らしいけど聞いてる?」
「え……?」
「ハッハッハッ、やろうなぁ!____おい、どう思う?」
……フイッ、じゃねぇよ。なに露骨に目逸らしてんだ。確かに俺の加入は急だったかもしれないが、スマホで連絡とるなり、どうにでもなったろ。
「まぁ、私レベルの天才でもミスくらいあるわ。気にしないで_______ごめんなさい」
俺の視線が痛かったのか、顔を逸らしながらも謝罪の言葉を口にする高嶺。……コイツ、もしかして俺の想像より何十倍もポンコツなんじゃ_______いや、よそう。仮にも先日まで『ラスボス級』だと俺自身が定義してた存在なのだ。もしここで此奴がポンコツだと定義しようものなら、俺は自身の審美眼をこれからガラス玉と呼ばなければならなくなる。
「一応、此奴が許可取って無かった時のために依頼内容は聞いてなかったんやけど……正解だったぽいな」
「そこは本人から直接聞いて貰おうと思ってたのよ」
「だからって、依頼主に説明しとかない理由になるか?」
「なるかもしれないじゃない」
ならねーよ、馬鹿が!なんでそんな考え足らずの頭でテスト全教科満点取れてんだよ!不思議でしょうがねぇよ!
往生際の悪い高嶺は放っておいて、俺は目の前に居る佐山の目を見て、問いかける。
「噂を知ってるなら、俺に依頼内容を明かすのは不安かもしれない。何せ『信用出来ない生徒ランキング』一位だからな」
学校の情報屋として情報を売り飛ばしている人間だ。必要な役職だし、天職だとも思っているが、割とろくでもない人間だ。対価さえあればどんな内容も平然と話すあたり、ひょっとしたら学内で一番ろくでもない人間と言えるかもしれない。
「______依頼内容は絶対漏らさないって約束する。だから佐山さえ良ければ、俺にも依頼内容を教えて欲しい」
俺としては、高嶺と契約した手前自分の手で依頼の解決まで行きたいところではあるが、別に俺が干渉しなくても、信用出来る人間を紹介することは出来る。
思ったより高嶺がポンコツだったので、色々と過程は変わるかも知れないが、この学校には百やら百やら百が居る。アイツの主人公補正と人脈があれば大抵の事は解決出来るだろう。……というか、して来たのをこの眼で実際見てきた。安心安全の信頼と実績がある。
「……まぁ、嫌なら俺の親友に_______」
「だ、大丈夫です!誰かが流してる噂なんかより、実際に話してみた自分の印象を信じた方が絶対にいいと思いますから!」
俺の言葉を最後まで聞かずにそう言いきった佐山は、思わず目をすぼめてしまいそうになる位に明るい笑顔でそういった。……何この子……噂以上に良い子何だけど。俺の穢れ切った心が浄化される可能性すらあるぞ。
自身の属性が変化してしまう可能性に恐怖しつつも、ちょっとそれも悪くないかなと思ってしまっている自分がいる。何だこの気持ちは……!まるで、アザラシの赤ちゃんを見ている時のように穏やかな気持ちだ。
「それで、依頼内容はですね……」
少しだけ、口に出すのをはばかんだ様に口を一の字に結んだ佐山だったが、直ぐに覚悟を決めたようにバッと顔を上げて次の言葉を紡いだ。
「______実は最近誰かから嫌がらせを受けてて……」
「_______よし、ソイツ殺そう」
思わず出たそんな言葉に同意するかのように大きく頷いた高嶺の姿が、俺の視界の端に映ったのだった。
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