攻略難度Sクラスを想定していた生徒が○○だった時の気持ちを答えなさい ③

 苦行も苦行の荷物持ちを乗り越え、一年生の情報を得た俺は気分上々のまま。学校へと登校した。すると、朝一番から、何やらが騒いでいる百と桐生院、そして白糸と言う女子生徒の姿があった。


「________幽霊を見た、だぁ?また突拍子もない事を……」


「本当なんだってば!_____ねっ、黄華もみたもんね!?」


「そうよ!アレは見間違いなんかじゃないわ!と言うか、アンタも弁当箱取りに行くくらいならついて行ってあげなさいよ!」


 俺の机をバンバン叩きながら「薄情者」だの「詐欺師」だの口汚く罵ってくる桐生院。俺もそんなことになるなんて思ってなかったんだから無茶言うなよ。と言うか、俺がついて行こうとしたのに、遠慮したのは百だし。


「それは僕が大丈夫だって言ったんだよ。まぁ、現在進行形で後悔してるけどね……」


「そ、そうなのね_____って、ムカつく顔するんじゃない!殴るわよ!?」


「____ふっ、貴様程度の打撃なぞ、いとも簡単に受け流して見せようぞ」


 勝利のダンスを踊りながら手招きしてやると、挑発に乗った桐生院が拳を鳴らしながら此方に近付いてくる。


「……上等じゃない。アンタと私の格の違いを見せてあげ____べぐっ!?」


「ダメだよぉ。生徒会が教室で暴力沙汰なんて起こしたら、速攻クビじゃないのぉ?」


 飛びかかる寸前の桐生院の頭に強めの手刀を落とした白糸が、頭を抑えて蹲った桐生院に困り顔で注意をする。


 黒髪に赤渕眼鏡をかけた、見るからに真面目そうな彼女の名前は白糸 紬。桐生院の親友で、その縁で俺達とも中学の頃から縁のある友人だ。


 喋り方もゆっくりで結構マイペースの不思議ちゃんだ。しかし、色んな人間から学級委員長に推薦されるほどには人望もあり、独特な雰囲気とそれなりの容姿から、男子人気も高い女子生徒である。


「ごめんねぇ、二人ともぉ。この子、何時まで経っても血気盛んなんだぁ」


「痛い、痛い!?ちょっ、ツムちゃん、痛いってば!」


 ビシビシと連続で頭を叩かれた桐生院が半泣きになりながら、必死に白糸の手を掴もうともがいている。因みに白糸の攻撃は防御不可だ。……何を言ってるか分からないと思うが、本当にそれしか言いようがない。


 今だって、桐生院は白糸の服にすら触れられていない。因みにこの学校の七不思議の一つである。


「知ってる知ってる。毎日毎日噛み付かれてるしな。本当に困った狂犬だよな」


「誰が狂犬よ!」


「おすわりぃ」


「うぐっ!?」


 白糸の不思議パワーで押さえつけられた桐生院は、力の限りもがくもそのまま近くにあった椅子に強制着席させられた。


「……いつも思うけど、どうやってるの?」


「うーん、企業秘密ぅ」


 もがく桐生院の頭に顎を乗せつつ、気だるそうにそう言った白糸。


「そっかー」


「のほほんと会話する前に助けてよ!?」


 百と白糸がほんわかした雰囲気で談笑していると、押さえつけられた狂犬が馬鹿なことを言い出す。お前はそこでお座りでもしてろ狂犬が!お前が噛み付いてくると、百の話が聞けないだろうが!


「それで、幽霊って言ってたけど何を見たんだ?」


「あっ、そうだったそうだった。その話をしようと思ってたんだ!えっとね……」


「スルー!?まさかのスルー!?ちょっと待_____」


「______はなちゃん、しっ、だよぉ?」


「………!…………!?」


 白糸の傍でパントマイムを始めた桐生院は放置し、陽向の話を詳しく聞く。


「昨日、冬司と別れた後、職員室で鍵を借りてから教室に向かったんだ。日が完全に沈み始めててちょっと不気味だったけど、それ以外は特に何も気になる事はなかったし、普通にいつもの学校だったんだ。」


「一応聞いておくが、桐生院とはいつ会ったんだ?さっきの反応からして、途中で会ったみたいだが」


「教室出て、鍵を返しに職員室に行ったら、丁度黄華も生徒会室の鍵を返してるところだったんだ。もう暗かったし送って行くって言ったら、『まだ仕事がある」って言われてさ」


「手伝ったんだろ、どうせ」


「印刷室からプリント取ってくるだけだったからね。二人でやったら早く片付くし」


 笑顔でそう言ってのけるとは、流石は正統派主人公。そうやって幼なじみの好感度を順調に稼いでいくんだな。でも、ソイツからの好感度はもうカンストしてると思うぞ。


「そんな訳で二人で印刷室に行ってプリント取って職員室に帰る途中に非常階段を降りていた______その時!」


「幽霊を見たのか」


 無言で首を縦に振る二人。


「_______啜り泣く声に、クスクスと笑う声が非常階段に木霊して、それはもう怖かったよ……。しかも、謎のラップ音まで聞こえてくるしさ」


「……待て待て、まさか音だけじゃないだろうな?幽霊『見た』って言ったんだし、勿論目視____」


「してるわけないじゃないか」


 おいおい、根性無しか。と言うか、桐生院は「当然じゃないの」みたいな顔で頷くんじゃねぇ。ヘタレコンビって呼ぶぞ。


「それって誰かが啜り泣いたり、笑ったりしてただけじゃないのぉ?」


「そうだな……ちょっと感情がジェットコースター過ぎる気がしないでもないけど、その可能性の方が高いだろうな。そもそも、声の主が同一人物じゃない可能性も高いし、十中八九誰かいたんだろ。今どき、何でもかんでも幽霊なんて流行らないぞ」


「……でも、人の気配なんて全然なかったんだ。僕達印刷室の行き道でその階段通ってるし、その時は人っ子一人居なかったよ?」


「四階で誰か泣いたり笑ったりしてたんじゃないか」


「なんか適当になってない?」


 印刷室は三階で、職員室二階にある。となれば、帰り道に通る一階は必然的に除外されるので、残る候補は四階になる。


 四階は文化部に割り当てられた部屋が結構あるし、部活帰りの生徒達がなにやら、動画でも見ていたのかもしれない。


「……やっぱり誰か居たのかな?」


「十中八九そうじゃないのか」


「そうだと思うけどぉ」


「_______それは無いわよ。あっ、やっと声出た……」


 ようやくパントマイムを終えたのか、桐生院が安堵したような表情のまま俺達の言葉を否定する。


「もうすぐテスト期間だから、四階にある文化部は基本的に活動休止中よ。それに生徒会室はにあるし、誰かがあんな時間まで居残りしてたら、流石に気付くわよ」


「あっ、そう言えば、もうすぐテスト期間だった」


「ミーティングで絶対その話あっただろ」


「あんぱんとテレビの試合の事で頭がいっぱいで……」


「お前……」


「……そ、そんな目で見ないでよ。六割は昨日の試合の事だし」


 サッカー大好き人間の百からしてみれば、部活が休みになってしまうのは中々に辛いらしい。成績が悪ければ、スタメンに入る権利すら失うらしいので、サッカー部のメンバーはそれはもう必死に勉強しているのをよく見かける。コイツは頭が良いから必死になっているところは見たことは無いが。


 ……俺?平均点取れれば、まぁ良いやって感じだ。そんな事に時間割いてる暇なんて俺には無いのだ。


「……つむちゃん、また勉強教えて」


 ちなみに、桐生院は生徒会なんてものに入ってるくせして、そこまで頭は良くない。俺より下だ。ちなみに百は学年五十位以内で白糸は学年三位と上澄みも上澄みだ。


 因みにその二人ですら叶わないのが、高嶺だ。彼奴が一位で張り出されている順位表しか俺は見たことがない。他は結構入れ替わったりしてるのを見るが、一位だけは不動。どうなってんだアイツ。


「……ねぇ冬司。テスト期間になったら僕らも勉強会しない?」


「そうだな。折角やし、先輩に頼んで勉強見てもらうか」


 因みに先輩とは、文芸部所属の図書委員だ。一学年上の生徒で、常に学年トップの成績を維持し続けるこれまた『天才』である。まぁ、コミュ障と運動音痴でいい具合にバランス取ってるけど。


 因みに百のハーレム要員でもある。学年差というハンデはあれど、覚醒すれば桐生院と拮抗するレベルのポテンシャルを持った存在でもある。


「……アタシも行くわ」


 嫉妬心を剥き出しにしながら、そんな事を言い出した桐生院。……残念だが、勉強に関してはお前の領分じゃない。


「バカは一人で英単語帳でも読んどけよ」


「なんですって!」


「_____おすわり」


 俺の胸ぐらに掴みかかった学習しない馬鹿が、床に正座させられるまで二秒とかからなかった。

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