攻略難度Sクラスを想定していた生徒が○○だった時の気持ちを答えなさい ②
「_______あっ、お弁当箱学校に忘れた」
「マジか」
改札に入る直前でそんな事を言い出した陽向に、俺は思わずため息が出る。
「……まだ学校空いてるかな?」
「開いてるのは開いてるだろうな。……しょうがない、ダッシュで行くか」
踵を返した俺の右手を百が引き止めるようにグイッと引っ張る。
「別にお弁当箱くらい一人で取りに行けるよ。態々付いてきて貰うのも悪いし、冬司は先に帰ってて!」
「______あっ、ちょっと待っ……!」
百は俺の返事を待たずに軽やかな足取りで学校の方へと駆け出す。……アイツ、暗いの苦手なのに、夜の学校とか大丈夫なのか……?
……まぁ、アイツの足の速さなら、日が落ち切る前に学校から出れるか。
此方に向かってぶんぶんと手を振りながらも、もの凄い速さで遠ざかっていく百を見送った俺は、大人しく改札をくぐる。
それにしても、サッカー部一の快足と名高いアイツがビビるレベルの速さって、噂の一年生はどんだけ足が速いんだろうか。
百のヒロインになり得るかも知れない存在ととしてスペックはある程度把握しているが、実際彼女の走りは見たことがない。出来れば今日確認するつもりだったのだが、あまりにもイレギュラーな事が起こったせいでそれは叶わなかった。
……まぁ、これからも放課後は学校に残るし、いつかは見れるか。
「_______わっ!」
「_______のっひょい!?」
電車が来るまで本でも読んでいようかと鞄を漁っていると、唐突に耳元で大きな声が響く。
「______藍崎か……。心臓止まるっての」
バクバクと早鐘を打つ胸を抑えながら、後ろを振り向くと、『してやったり』みたいな顔をした、紺色のネクタイをした女子生徒がいた。
「センパイ、『のっひょい』てなんです?友達多い私ですら、初めて聞く類の叫び声ですよ」
ニヨニヨしながらそんな事を言ってのけたコイツの名前は、藍崎 紅音。赤みがかかった茶髪に綺麗と言うよりは可愛い系の顔立ちをした、一年A組所属の女子生徒だ。
自身の整った容姿を客観的に理解しており、非常に計算高い立ち振る舞いをする、所謂小悪魔系だ。しかし、あらゆる行動があざとく、一部の同性から嫌われているが、本人は毛ほども気にしていない。本人曰く、「嫌っている人間より、私の事好きな人間の方が多いのでノープロブレムです」との事だ。
俺や百、そして桐生院と同じ中学に通っており、その頃から親友キャラの俺をこき使ってくる、強かで生意気な後輩である。
「……思い返してみると今のちょっとキモかったんで、やり直して貰ってもいいですか?もっと、可愛く叫んで下さい」
「無理だろ。と言うか、そもそも人の叫び声にケチをつけるな」
あと『キモい』は止めようか、シンプルに傷つくから。それと一応言っとくけど、叫び声上げる原因作ったのお前なんだから、ダメ出しするなよ。
「それで、何の用だ?」
「ふっふっふ、一人寂しく帰路に着く寂しんボーイちゃんに構ってあげるのも、可愛くて賢い後輩ちゃんの役目ですからね」
「……そうですか」
成程、つまりはいつも通りちょっかいを掛けに来たと。……コイツ基本的に猫かぶっていい子ちゃんだけど、俺に対しては常にでウザさMAXなのは何とかならないのだろうか。
「あれー、何か冷たくないですかー?ほーらほら、可愛い可愛い後輩ちゃんですよー?」
「はいはい、可愛いでちゅねー、凄いでちゅねー、おかちたべまちゅかー?」
「うわっ……」
……そんなにドン引くなよ、傷付くだろうが。
自らの身体を抱き抱えながら俺から距離を取ったその表情には、間違いなく嫌悪が浮かんでいる。いや、確かにキモかったかも知れないけど、先にぶりっ子したのお前じゃん。
「センパイ。ぶりっ子は可愛い子の特権ですよ?」
「……それは遠回しにブスって言ってんの?」
「にゃはは」
何だその「言わなきゃ分かんねぇのかハゲ」みたいな顔は。貴重な情報源じゃなかったら、お前が弄んだ人間暴露してるところだぞコノヤロウ。
「……ところでセンパイ、今日ってこの後暇だったり______」
「暇じゃないよ」
「ありがとうございます!いやー、ちょっとした荷物持ちが欲しいところだったんですよー!」
「……話聞いてた?」
「……?」
マジで分かんねぇ時の顔止めろよ。「……?」じゃねえよ。と言うか、答えを聞く気がないのに何で聞いてきたんだ?頼むから、言葉のキャッチボールしようぜ。お前の場合投げっぱなしだから、言葉のキャッチボールじゃなくてドッチボールだよ?
「えーと、今日は俺疲れてて_______」
「先輩がご執心の一年生の情報ありますよ?」
「______んー!元気ハツラツ頑張っちゃうぞー!」
自分でもびっくりするレベルの手のひら返しをしてしまった。俺の手首ネジ切れてないか?一応、確認してみるが、既のところでネジ切れてない。ギリギリセーフだ。
この何かと情報が不足しているこの時期に、荷物持ちだけでその対価が得られるのならば、身体に鞭を打ってでも荷物を持とうでは無いか。これも親友ポジをキープする為に必要なプロセスだ。
「センパイのその現金なところ嫌いじゃないですよ」
「奇遇だな。俺も自分のこういうところ大好きだ」
ニヤニヤしながらからかう様に茶化してそう言った彼女に、此方も茶化して答える。……全く、中学と変わらず世渡りが上手な後輩だ。
「じゃあ次の電車に乗って、五駅先のショッピングモールにレッツゴーです!」
「へいへい」
俺は藍崎にされるがまま、ズルズルと出口が近い停車位置まで引きずられていくのだった。
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