攻略難度Sクラスの女子から逃れる方法を答えなさい ②


「ふぃー……何とか到着、と」


「あっ、さっきぶりだね冬司。随分時間かかったね」


「まぁ、急所に鉄拳制裁(蹴り)食らったからな……。復帰に時間がかかったんだよ」


「黄華は名家のお嬢様だから、ピアノとか絵の習い事以外にも護身術もやってるんだってさ」


「身を守る為の術で先手打ってくるとかどうなってんだアイツは」


「あはは……」


 困った様笑う白一の左隣の自分の席へと、座った俺は、スっと机から数学のノートと文房具を取り出す。


「ところでその件の桐生院は?」


「黄香なら生徒会の仕事があるとかで、三年生の教室に行ったよ。もうすぐ帰ってくると思うけど」


 そういや、桐生院はつい最近生徒会に入ったんだったか。この学校、生徒会長と副会長以外任命制だから、変な時期に役員補充されるんだよな。


 情報は新鮮さが一番だと考えている俺として少しばかり面倒ではあるが、情報収集に手を抜くつもりはないから別に問題は無い。


「そうかそうか。なら、鬼の居ぬ間に早めに宿題片付けないとな。_____というわけで宿題見せて下さい」


 後々、生徒会に勧誘されそうな面子をピックアップしようと決めつつも、目先の目的はひとまず宿題である。少しの不正も許さない正義のヒーロー(笑)が帰ってくる前にさっさと終わらせてしまおう。


「僕は別に見せてもいいけど……あんまり宿題サボってるとテストで痛い目見るよ?」


「そこら辺は抜かりないから安心しろ。桜峰高校の情報屋の名前は伊達じゃない。それはもう色んな手を尽くしてカクカクグヘへって、内申点を上げてもらうんだよ」


「……何か怪しい笑い漏れてるけど大丈夫?先生脅したりとかしてない?」


 この主人公は俺の事を一体なんだと思ってるんだろうか?こちらとら、高校一の平和主義者として名を馳せるレベルだぞ。


 因みにあの金髪ツインテ含む一部には適用しないがな。アイツらは誰彼構わず噛み付いてくる、理性のない獣だから。友好的に近寄ったら指を噛みちぎられる可能性があるから、先手必勝の男女平等パンチをお見舞いする他ない。まぁ、親友ポジだからそんな事は出来ないけど。


「俺への認識の誤解は取りあえず置いとくとして、ノートはサンキュー!相変わらずの綺麗な字だったお陰ですぐ写せた。流石は『学園の王子様』だな」


「……その渾名辞めてくれない?」


「おっと悪い悪い」


 嫌そうな顔をする白一に平謝りすると、スラスラと答えをノートに写していく。問題文は授業中に書いていたので、さほど手間はかからない。


「よし、終わりっと」


「問題文まで書くなら、ついでに全部やっちゃえばいいのに」


「ついでで解けるほどの知能を持ち合わせていないもんで。いつも誠に感謝しております」


「言葉だけじゃお礼としては足りないなぁ。ジュース奢りね?」


「へへー」


 平伏する俺を見て、百が『それはいらない』みたいな顔で、深くため息をつく。もちろん、家でそれなりに勉強はしているため、普通なら何の問題もなく解けはする。


 ______が、しかしだ。俺のポジションをもう一度思い出して欲しい。……そう、俺のポジションは親友ポジなのだ。普通に宿題を解いてくる様では親友ポジ失格の烙印を押されてしまう。


 俺の役目はここからが本番なのである。


「よし、じゃあノートのお礼と言っては何だが、ちょっとおもしろい話教えてやろうか?」


 答えを写し終わったノートを白一に手渡す

 した俺は、いつもの様にイベントに繋がりそうな会話を始める。


「面白い話?」


 見事に食い付いた百に、俺は内心ほくそ笑む。コイツは同年代の中では落ち着いてる方ではあるが、好奇心は人一倍大きい。こんな明らかに面倒なイベントフラグでさえ、ちょっと盛って話を教えてやれば自ら進んでフラグを回収しに行く。


「あぁ、俺もちょっと小耳に挟んだ程度だが_____何でも、最近学校でが起こってるらしい」


「変なことって……冬司にしてはヤケに抽象的だね」


「まぁまぁ、焦るな焦るな。ちゃんと、一個ずつ説明してくから」


 百は若干目を輝かせながら、俺の話の続きをフンスッと力強い息が聞こえてくるくらいの距離で身を乗り出しながら待っている。


 俺が男じゃなかったら、勘違いして好きになりそうな距離感だぞ。


「近い」


「痛ァッ!?」


 因みに俺は男なので、普通にビンタして顔を遠ざけるが。


「さて、それじゃあまず一つ目は『燃えない焼却炉』だ」


「うぅ、ヒリヒリする……も、燃えない?焼却炉なのに?」


 百が涙目で痛そうに頬を擦りながら、首を傾げる。


「あぁ、何でも毎日毎日、旧校舎裏の焼却炉が水浸しになってるらしい」


「えっ?焼却炉って今時別に使わないよね。水浸しにする必要なんかないじゃないかな?」


「そうなんだよ。別に使わない物に対してこんなことする意味なんてない……でも、誰かが毎日毎日、それもうご丁寧に焼却炉を水浸しにしてるらしい」


 まだ教師陣には噂は伝わっていないが、このまま続くようなら、何処かで教師陣の耳にも入るだろう。


「……何で?」


「それは知らないな。まっ、別に実害なんか出てないし、放っておいて問題ない案件ってやつだな。今の所、委員長の仕事がちょっと増えてるだけだ」


 ちなみに委員長とは、俺達と二年連続同じクラスで、尚且つ二年連続学級委員長を務める女子生徒の通称だ。品行方正で穏やかな性格、しかしながら場を纏める能力なら百にも負けない、ちょっと不思議ちゃんな眼鏡の優等生である。


 因みにこの件の第一発見者は彼女で、俺にこの話を相談しに来たのも彼女だ。彼女としてはあまり大事にはならないようにしたいらしいので、俺の所属する新聞部の力でそれとなく警告の文書を出してくれないかと頼まれたのだ。


 絶賛記事作成中ではあるが、記事制作より早く解決するかもしれない男に投げておくのも、良い選択ではあるだろう。


「冬司は愉快犯だと思う?」


「十中八九そうじゃないか?それか、焼却炉に親殺されたみたいな話かもな」


「どんな状況?」


「……アレだ。誰かがもいで投げた焼却口の蓋が、頭に刺さったとかだ。……きっと多分」


「それは焼却炉悪くないじゃん」


「ごもっともで」


 まっ、これは別にメインで話したい話じゃないから、そこまで深く考えなくても良いだろう。そのうち犯人も飽きるだろうしな。それに、こいつがそれとなく気にかけてくれるだけでも、百が持つ主人公補正で何とかなるだろ。


「次は『旧校舎四階の空き教室』だ」


「……別に何もおかしな所なんてなくない?」


 数秒ほど考える様に俯いた白一だったが、何もおかしなところが見つけられなかったのか、顔を上げると僅かに首を傾げる。


「それがな、空き教室の筈なのに放課後以降、何やらガタガタ物音がするらしいんだ」


「誰かが使ってるんじゃないの?」


「それが、声をかけても誰も返事をしない上に、ちょっとでも聞き耳を立てればピタッと音が止まるらしい。意を決して扉を開けようにも、鍵が掛かかってるだけじゃなくて_________廊下の窓から『誰かに見られてる感覚』に襲われるんだと」


「何それ怖い……」


 顔をちょっと青ざめさせたながら体を震わせる百に、俺は小馬鹿にしたように鼻で笑う。


「別に怯えることなんてないだろ。十中八九ら誰かが新しい部活でも設立した、みたいなオチだと思うぞ。部室としてその教室を借り受けて入るものの未だに、準備中だから居留守を使ったみたいなな」


「じゃ、じゃあ誰かの視線って言うのは……?」


「そんなのはソイツの勘違いに決まってる。放課後、しかも人気が本校舎よりも圧倒的に少ない旧校舎だぞ。『視線を感じる』なんて、その程度勘違いなら普通に起こる」


 このけんに関しては採れたてホヤホヤで、そこまで調べてないから、詳しいことは分からないが、だいたいそんなところだろう。……まぁ、これに関しては俺もちょっと気になるから放課後覗きに行くつもりではある。ちょっと覗くだけなら、別に妙なフラグが立ちそうな案件でもないし。


「安心しろって。コレは俺が放課後ちゃーんと調べといてやるから。何か分かったら教えてやるから、宿題また見せてくれよ??」


「……しょ、しょうがないなぁ」


 よし、ちょっと不気味な話をするだけで宿題をサボれるとか役得かよ。だけど、お前はもう少し怖い話への体制をつけた方がいいと思うぞ。お前ら幼なじみコンビはせめてどちらかがホラーに耐性がないと困る。


 そんなんだから遊園地に行っても、一年の頃から関係性が微動だにしないんだ。


「そんでもって最後は……」


「さ、最後は……?」


 勿体ぶる俺の瞳をじっと見つめる陽向。ゴクリと唾を飲む音がコチラに聞こえてくる程に話を聴き入っているのが分かる。


「_______『一年生のアイドル!天真爛漫な陸上女子!』だっ!!!」


「……。……え?」


 困惑する百無視して話を続ける。


「何でも、一年にやたら可愛いい小動物系の女子が入ってきたらしいんだ!まだ数週間くらいしか経ってないのに、彼女に告白して振られた人数を数えるには片手じゃ足りないんだとよ!」


「いや、あの………」


「しかも胸が!低身長やのにそこそこデカ______」


「_______だから、私の幼なじみを汚すなって言ってんでしょうがぁっ!!!」


「ぶるぁっ!?」


 いつの間にやら帰ってきた負け犬のドロップキックが俺の横っ腹に飛んできた。ついでに俺も飛んだ。いや、飛んだと言うより吹き飛んだ。


 毎度毎度、加減ってものを知らんのかこの負け犬が!俺の好物が煮干しじゃなかったら大怪我してるぞ。カルシウム最高!


「アンタ、本当にいい加減にしないと蹴り飛ばすわよ!」


「黄香、蹴り飛ばした後にその台詞は……」


「毎日毎日、懲りないコイツが悪いのよ!三途の川まで蹴り飛ばしてやるわ!」


「ぐぅっ……くくっ……!残念だが、見えたのは三途の川じゃない_____白だ!」


 横たわりながらカッと目を見開いた俺は、桐生院を指さしながらドヤ顔で語る。見えちゃったからね、仕方ないね。


「……。………!?______死ねぇぇっ!!!」


「____ブルルァっ!?」


 何の話をしているのかにようやく気付いた桐生院がフラフラと立ち上がる俺の頬に強烈なビンタを叩きつける。


「_____おっ、落ち着いて黄香!!!流石にハサミはマズイってっ!?ほ、ほらっ、冬司も謝って!」


 鋏を持って追撃を仕掛けてこようとしている桐生院だったが、その行為は百が必死に止めている。流石はこの俺の認めた主人公だ。幼なじみが法を犯さないように身を呈して止める姿に全米が泣くね。俺は泣かないけど。


「______色気ない下着履いてますね(笑)」


「冬司ぃ!?」


「_________キシュルルルル…………!」


「_______おい、お前ら席に着け〜」


 最早人の呼吸とは思えない音が、桐生院の口から漏れ始めたその時、我らが二年B組の担任 矢車 小麦がやってくる。


 青のメッシュが入った髪に黒縁メガネ、白衣、咥えキャンディと初見だと情報量が交通事故が起こしそうな女教師だ。因みに今年二十七歳。最近周りの友人たちがが所帯を固め初めて焦っているらしい。『不真面目な教師ランキング』第一位に抜擢されるほどの逸材でもある。


「ほら、そこの三人さっさと座れ」


「先生!席に座るのは、コイツを倒してからでも良いですか!?」


「駄目だ、座れ。話の流れは廊下まで聞こえてたから大体察せられるが、お前のパンツより私のHRの方が大切だ」


「先生っ!?」


 尚もキャンキャンと吠える桐生院が面倒くさくなったのか、教卓を気怠さ満載で軽く叩く。


「煽ったそこのバカも悪いが、スカートでドロップキックする方も悪い。多分、他の奴にも見えてるぞ。_____なぁ、日草」


「______えっ、あっ、まぁ……」


 急に話を振られた百が、動揺しながら素直に答える。まぁ、位置的に俺の真ん前に居たコイツの方が良く見えてるよな。


「_______ッ!_______ッ!!!」


 頬を赤く染めながら俺たちを二人をキッと睨みつける桐生院。うぇーい!お前のアプローチに貢献してやったんだから、睨まれる覚えは無いよーだ!悔しかったら、幼なじみ特権と容姿以外を使って百を靡かせて見ろバーカ!


 内心で屈伸運動して煽りながらも、尊敬すべき恩師、矢車先生の指示に従い大人しく席に着く。これ以上取り合うつもりがないと理解したのか、それに続いて桐生院も大人しく席に着いた。口からなんか邪悪なオーラ出てんぞ。なにあれ、呪い?


「よし、それじゃあHRを始めるぞ。まず_____」


 そんな感じで親友キャラの学校生活はつつがなく進んでいく。

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