第4話 家に辿り着く
先ほどの義母の言葉が目に染みたのか、ぽろりと光るものが目元に溢れてきそうになる。
「今になって労いの言葉なんて、きっと聞き間違いよね。でも戻って聞くこともできやしないし」
そう思うとどこからか声が聞こえた。
『戻るならどの時が良いのか?』
その言葉にふと考えてみた。
――今の夫と結婚する前かしら?
……それとも娘が生まれる前?
いいえ、私の不幸の始まりはきっと母が癌で亡くなったときだ。
私が中学生の時に母が亡くなった。母の死は突然のことだった。
若いから発見した時には手遅れだった。それから父も頑張って私を育ててくれたけれど家のことは私がするようになり、忙しくて部活も塾も辞めてしまった。
高校生になった時、父は親戚から再婚を勧められて継母と結婚したけど連れ子の部屋が必要だから早く出て行ってと高校を卒業すると家から追い出されてしまった。父は何か言いたそうだったけれど結局継母には逆らわなかった。
実家を出て連絡もお互いしたことはなかった。あれからどうしているのか全く知らない。一度、見に戻ったことがあったけれど……。
そこには継母と連れ子の楽しそうな笑い声が響いていた。
私の入る余地などなかった。
そこは私とお母さんとお父さんの場所だったのに。
お母さんが生きていたら……。
きっとこんな惨めに追い出されて、いく先もない自分ではなかったのに。
お母さんだって……。
「……お母さんが生きている世界に。もう一度、お母さんに会いたいなあ」
我慢していた涙と共に言葉も零れ落ちてしまった。
『――そうか』
すると目を閉じていたけれど激しい光を感じ、視界が真っ白になった。
「え?」
いつの間にか車内に乗客が乗っていて、車内にざわつきが戻っていた。そして、聞きなれたアナウンスが駅名を告げた。ただし、それは私が追い出された実家がある駅の名だった。
――いやだ。乗り過ごしちゃった?! でも、変ね。実家とは全然関係ない路線だったのに。そう思って立ち上がると自分が中学の制服を着ていることに気がついた。
「ええ! どういうことなの?」
私は気がつけば人波に押されるようにホームに降り立っていた。
何が何だか分からないまま、トイレに駆け込むと中学生の頃の自分が鏡に映っていた。
「まさか、これが私なの?」
……中学生に戻っていた。持っていた鞄を開けると一年生の時の学生証まで入っていた。
学校は徒歩で通学しているけど、今日は塾に通っていた日なので電車を使っていた。
半信半疑で私は自分の実家へと向かった。
あの家はあの頃のままに、そのまま懐かしい姿で私を迎えてくれた。
――そうそう、私が傘で門のところに傷を入れたっけ。
そうして私は家のドアを恐る恐る開けた。
「あら、帰ってきたの? おかえり」
懐かしい声が聞こえて、私は気がつけば走り出していて、お母さんに抱きついていた。
「お母さん。お母さん!」
――生きてる!
「あらあらどうしたの。子どもみたいに。って、まだ子どもだったわね」
「……子どもじゃないよう。でも子どもになっちゃったあ」
ぐすぐす泣きながら私は自分でも訳が分からないことを口走っていた。
「お母さんこそ帰るのが早いよ」
「あ、ああ、ちょっとね。調子が悪くて早引けさせてもらったの」
「え! だ、大丈夫なの?」
お母さんが死ぬのは後二年後だったけれどもしかしたらころ頃から調子が悪かったのかもしれない。ひょっとしたら早めに病院に行けば見つけてもらえるかもしれない。
「お母さん! 病院に行こ!」
「え? いいわよ。大したことないから、少し疲れただけよ。寝れば良くなるわ」
「ダメ! いつものかかりつけの先生ところでいいから!」
そうして渋る母を先生のところに連れて行った。
「もう、子どもがおおげさに心配するので、ちょっと疲れているだけなんですけどね」
そういっていつもの若先生に話すと先生が珍しく渋い顔をした。
「うーん。検査をしてみないと分からないけどちょっとここに影が……」
「え?!」
「やっぱり、最近食欲無いっていって言ってたし、痩せてきたし」
「それはストレスだと……」
「とりあえず大きな病院で検査の予約をいれましょう」
先生の様子にお母さんが慌てた。
「そんな大げさな。それに急に休みなんてもらえないし。今、大きなプロジェクトがあって……」
「命とどっちが大事だと思ってるのよ!」
私はつい叫んでしまっていた。
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