一秒という時間

 時間は有限であるというが、その時間は大体の場合が己の人生の時間であり、この世界の時間である場合は少ない。この世界の時間が有限か無限かは、この世界は永遠に続くのか、もしくはどこかで終わってしまうのか、つまりこの世界は有限か無限かを問うことになる。しかし、ちっぽけな人間一人が無限の大きさを持つかもしれぬ宇宙について考えるのは傲慢である。その問いは、人間にとって愚問であろう。だが、人間ほど頭が良い生き物はいないし、人間ほど馬鹿な生き物もいない。神から授かったその知能を馬鹿げた使い方で使うのが人間なのだ。


 これは、知能を馬鹿げた使い方で使う人間の、1つのどうでもいい気付きである。


 一秒という時間は人間が決めたものだ。セシウムが9192631770回振動したら一秒と、人間が決めた。おそらく、一秒を決める時はどんな時でも必ず一定であることが、何よりの条件だっただろう。それが約束されたものなら、もっと分かりやすく納得もしやすいものが他にあるような気がしてくるが、ちょっと頭をひねって考えてみると、意外にないんじゃないかと思えてくる。


 セシウムが9192631770回振動すると、一秒経つ。

 一秒経過で、セシウムが9192631770回振動する。


 少し考えてみよう。

 十秒を数えたりする機会はいろいろあるだろう。私にもそのような機会はある。その機会がある度に、私は「てか、一秒って意外となげえんだな」と思う。そう、一秒という時間は意外と長い。

 ストップウォッチで時間を測るとき、0,1秒が経過するのがはっきり見える。パソコンのタイピングでは、私は一秒に5~6回キーを押している。50mというそれなりに長い距離を、人間は7~9秒、つまり一秒の7倍から9倍の時間で全力疾走する。小説を読む時に一秒に1文字のペースで文を読むなら、それは遅い。絵を一瞬だけ見せると言われて、絵を一〜二秒の間見せられるようなことはない。そう、一秒という時間は意外と長い。

 セシウムが一秒に9192631770回振動するのが妥当だとは思い難いが、きっとセシウムが6000000000回振動するのにかかる時間が物凄く短いということはないだろう。約0,56秒…といったところか。一瞬だけ見せられる絵も、0,56秒以内には見られなくなるだろう。そう、一秒という時間は意外と長い。

 そう、一秒という時間は意外と長い。


 だが、しかし。

 世界中で有名な、支度にかける時間40秒。あの映画を見てあのおばさんが少年に支度を命じた時に「40秒で何出来るんや」と思った人は少なくないだろう。少なくとも私はそう思った。そりゃあ、朝の支度ではなくてもしばらく家を離れることになる時の支度に40秒など短いに決まってる。つまり、40秒は意外と長い一秒の40倍なのに、私達は短いと思う。つまり、一秒という時間は長いようで短い。

 カップ麺は一秒の180倍の時間である3分で作れて、それを数えると長いが、数えなければ短い。2時間の映画は一秒の7200倍の時間を要し、それを見るにはそれなりに暇でないといけないが、いざ見れば結構すぐに見終える。某と付けざるを得ないネズミの国で9時間以上、一秒の32400倍以上の時間遊んでても、遊び足りないと感じる人がいる。つまり、一秒という時間は長いようで短い。

 1グーゴルは1の後に0が100個連なった101桁の数である。そんな、アラビア数字に直す必要性も感じられないほどの数だが、セシウムが1グーゴル回振動するのに気が遠くなるほどの時間は、きっと要さないだろう。一秒で9192631770回も振動しているのだから。つまり、一秒という時間は長いようで短い。

 つまり、一秒という時間は長いようで短い。


 私達は、長いと感じることも出来れば短いと感じられることも出来る一秒を、積み重ねることで進む時間の上を踏んで生きている。その一秒達は大切にされる時がある。私達が大切な時間を過ごす時だ。その反対に、なんとも思われない時もある。常に一秒経つことを意識する人間は本当に珍しい。

 どんなに大切な一秒も、贔屓されることはない。年を迎える直前の一秒だって、特別に長くなるだなんてことはない。セシウムもそんなサービス精神は持ち合わせていないはずだ。


 私は別に、一秒一秒を常に大切にして生きろとは言わない。だが、時々でいいので一秒経つことを気にかけてみて欲しい。そうした時、一秒一秒の時間は気にかけてくれたことを嬉しく思うかのように、私達に一秒一秒が遅く感じるような魔法をかけてくれるだろう。




 十一回目のリハビリ、素晴らしい。

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