第15話 魔石の売却

 野営地から出発した私たちは、予定通り昼前にチーヨフの町に到着した。

 早朝に出発したことと、町が近づいたため魔物とも遭遇せずにすんだわ。

 私たちは早速、魔石の売却へ向かった。


「やぁ、いらっしゃい。今回は早かったな、ベンリック」

「ああ、ちょっとね。よろしく頼むよ、リー」


 魔石の売却は、カーイット商会で行う。

 番頭のリーさんがベンリックさんと、親しげに話し始める。

 彼はシュークリモ王国で、ベンリックさんと同じ学校に通っていたご学友らしい。


「今日はこの子たちに、町での仕事を教えようと思ってね」

「おお、ようやく代替わりかい?」


 リーさんが、私とレフィの顔をマジマジと見る。

 その気迫に立ちすくんでいるレフィを、私は肘でつつく。そして、挨拶をするように耳打ちした。


「ぁ……レフィールです。よろしくお願いします」

「アルルです。よろしくおねがいします」


 私たちのやりとりが面白かったのか、リーさんはニッカリと笑う。

 清々しくて、愛嬌のあるおじ様だな。


「ああ、よろしくね」

「じゃぁ、さっそく始めようか。レフィ君、台帳と魔石の箱を用意するよ」

「はい!」


 ベンリックさんに補佐されながら、レフィが商談に入る。

 魔石の重さや質を見ながら、リーさんがどんどん鑑定していく。

 リーさんの鑑定はとても早くて正確で、魔石を並べるだけのレフィが焦るほど。

 おかげで、あっという間に鑑定が終わってしまった。


「では、こちらの金額でよろしいですか?」

「えっと……?」

「問題なければ、署名して大丈夫だ」

「わかりました」


 買取金額の書かれた領収書に、レフィが署名する。

 これで魔石の売却は完了ね。無事に商談が終わって、良かったわ。


「初仕事おつかれさま。これからもよろしくな、レフィール君」

「あっ、はい。よろしくお願いします、リーさん」


 商談が終わると、リーさんがおどけた様子で私に話しかけてきた。


「いやぁ、緊張したな。宮廷魔術師さまに、横でジッと監視されて」

「ごめんなさい。でも今は、ただのアルルです」


 どうやらリーさんは、私が元・宮廷魔術師だと知っていたようだ。

 ベンリックさんから、話を聞いていたのだろう。


「それでもやっぱり、すごい魔法を使うんだろう?」


 リーさんは楽しそうに、会話を続ける。


「少し前に、町で魔物の襲撃騒ぎがあってね。宮廷魔術師さまが、救援に来てくださったんだ」


 王都から離れたチーヨフまで来て下さるなんて、ありがたいことだと。

 とても興奮した様子で、リーさんは語り続けた。


「町の衛兵たちが総出で食い止めてた大群の魔物を、たった二人で殲滅するんだから。本当に、すごかったよ」


 たった二人で、王都から遠い地に派遣された宮廷魔術師……。

 私の脳裏に、とてもよく知る人物の顔がよぎる。


「アルルさんと、同じ年頃の女性だったな。確かラ、ラ……ライラート! ライラートさんだ! もう一人は……ネル……いや、違う……何だったかな?」

「ネストル」

「そうそう、ネストル! 貴族っぽい坊ちゃんだったよ」


 思い出せてスッキリした、という顔のリーさん。

 もうこの話を聞いただけで、二人の様子がまざまざと目に浮かぶ。

 実績作りのために、ネストルがこの町に派遣された。そしてライラートは、補佐役兼お世話係で同行させられたのね。


「その二人は、かつての同僚です。元気そうでしたか?」

「そうだねぇ、何度か遠目で見ただけだからなぁ……いや、でも」


 商売仲間から、色々とウワサは上がってきてたな。と、リーさんが言い加える。


「ライラートさんは、大変そうだったよ。坊ちゃんの方が、あちこちで騒ぎを起こしてたみたいでな」

「そう、ですか……」


 予想はしていたけど、ライラートはやっぱり大変な仕事を押し付けられているのね。

 せっかく町まで来たのだし、後で彼女に手紙を書こうかしら……。


「二人の話が聞けて、良かったです。ありがとうございます、リーさん」

「いやぁ、今度は直接会えるといいな」

「はい!」


 ひとしきりの会話を終えると、私たちはカーイット商会を後にした。

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