第10話 女の仕事
「デラおばあちゃん、お願い! 色々と作って欲しいものがあるの」
「どれどれ……見せてごらん」
新しい営業所で必要なものを作ってもらうために、私はデラおばあちゃんの家を訪ねた。
私が書いてきたメモを受け取る、デラおばあちゃん。
おばあちゃんは村で最高齢なんだけど、手芸の腕も最高なの。
子どものころの服は、全部デラおばあちゃん製だったな。それにおばあちゃんは、今でも色んなものを作っている。
「ちゃんと手間賃も支払うし、必要な材料も買ってくるわ。シーツや敷物は、時間かかっても良いから」
「ふむふむ……ふふ、この袋、可愛らしいねぇ」
渡したメモを読み込みながら、おばあちゃんが色々書き加える。
どうやら、仕事は受けてくれるみたい。
おばあちゃんは真剣な表情で、すっかり職人の顔になっていた。
これはかなり、期待できるぞ!
「なんだい。でこ娘、こんなところにいたの?」
おばあちゃんと話していたら、ドリンダさんが訪ねてきた。
一人暮らしで何かと不自由のあるデラおばあちゃんを、ドリンダさんはお手伝いに来ている。
「デラばあちゃん、お水汲んでおいたからね」
「ありがとうねぇ、ドリンダや」
水や薪など、足りないもが無いか見て回るドリンダさん。
一通り確認が終わると、彼女は私の方に目を向ける。
少し様子を見たあと、ズンズン歩み寄ってきた。そしてガシッと、私の腕を掴む。
「あんたもヒマなら、手伝いなさい。ほら、ついて来な!」
「ちょっと、引っ張らないで! デラおばあちゃん、お願いね!」
「はいよ。いってらっしゃい」
挨拶もそこそこに、ドリンダさんに力づくて外へ連れ出された。
外には大きな荷車が置いてあって、傍らにはイリーナおねえちゃんもいる。
「あれ、お姉ちゃん?」
「あらあら、今日はアルルちゃんが一緒に来てくれるの?」
これからタイラー村に食材を買いに行くのよ、と仕事の内容を教えられる。
タイラー村への買い物は、ビス村の人たちの分をまとめて買ってくるのだ。
その人手として、私も捕まったのだな。
「チビィィィィッ!!」
突然、ドリンダさんが大声を上げる。
すると、どこからともなくレッグバード――荷運びなどを手伝ってくれる、大型の鳥が現れた。
この子はもしかして……行商人から買って、ドリンダさんがヒナから育ててた鳥!?
それにしても――
「全然チビくない!?」
「ほら、行くよ!」
荷車をレッグバードに繋ぐと、ドリンダさんはさっさと歩きだしてしまった。その後を、私とおねえちゃんがついていく。
ドリンダさんは、息子のヤール君と二人暮らし。旦那さんは昔、鉱洞内での事故で亡くなってしまった。
女性と子供だけの生活は、大変なものだ。実際に彼女やヤール君の服は、かなりボロボロで――。
「なんだい? 人のこと、ジロジロ見て」
「ううん、何でもないよ。ごめんね、ドリンダさん」
もっと収入が良くなる仕事を、ビス村にも作れないかしら?
安全で、暮らしが良くなるような……。
そんなことを考えていたら、タイラ―村に着いてしまった。
ビス村から、半日ぐらいかかる場所なのに!
「こんにちは、今日もよろしくお願いします」
「やぁ。いらっしゃい、ドリンダ。それにイリーナちゃんと……」
まずは村長さんの家に、挨拶に向かった。
私は初めてタイラ―村に来たから、ちゃんと挨拶しなくっちゃ。
「初めまして、アルルです。よろしくお願いします!」
「おお。じゃぁ、君がウワサの新妻さんだね。結婚おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
隣村とはいえ、意外とうわさが広まるのが早いわね……。
でも、私も顔役なんだから当たり前か。これから、何かと関わる事も多いだろうし。
「必要そうなものは、そこの室(むろ)に集めておいたから。適当に見繕ってよ。他にも必要なものがあったら、言ってくれ」
「はい!」
村長さんに立ち会ってもらって、私たちは荷車に食材を積み込む。
色んな新鮮野菜に、卵に牛乳――
「ヨーグルトもあるじゃない!」
家に帰ってから作れなかった、アノ料理がやっと作れるわ。
レフィやお姉ちゃんに、食べてもらいたかったのよね。
「アルルちゃん、それ……好きなの? 私はちょっと……」
イリーナお姉ちゃんの顔が曇る。お姉ちゃん、酸っぱい食べ物が苦手だからな。
「そのままでも食べられるし、料理に使うとコクが出るんだよ」
「そうなの? お料理に……」
ますます顔に暗雲が立ち込めるお姉ちゃん。
それが面白かったのか、村長さんが笑いながら話しかけてきた。
「どれ。ヨーグルトを持っていくなら、はちみつもどうだい? 持ってきてあげよう」
「うわぁ! ありがとうございます、村長さん!」
それにしても、久々に食材が充実していく。ビス村の周辺は、岩場が多くて農業も酪農も向かない。
村に帰ってきてから、食材の種類が貧相なのが悩みだった。
「いつも食料を譲っていただいて、助かります」
「いやぁ。うちの村も、現金で買ってもらえて助かってるよ」
タイラー村は、ほぼ自給自足の生活をしている。
行商人や旅人・冒険者などを相手に、余剰分を売るぐらいなんだそう。
ちなみにビス村の分は、専用に作ってくれている。
これからもちゃんと、仲良くしなきゃ……!!
「ありがとうございました!」
「こちらこそ。これからも、よろしく頼むよ」
村長さんにお礼を言って、タイラ―村を後にする。
来た道を帰るのかと思っていたら、ドリンダさんが違う方向に歩き出した。
ビス村とは少しずれる、森の方角に向かう。
「さてと。帰りにもう一件、寄っていくよ」
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