第2話 神話の真実


「まぁ、そんな感じでな、ご主人様たちにその気が全くなかったのだとしても、結果的に見ればこの地に住まう者たちに寵愛やらを与えるような形となっておった行為がたくさんあるわけじゃよ」

「見る者の視点が変わればその行為の見え方も変わる、というやつであるな!」

「そうしてこの地に住まう者たちはご主人様たちのことをどんどん崇拝し信仰していってな――」

「何時しかご主人様たちはシスティレシアの象徴にして、主にして、王となった! というわけなのだ!」

「ほへぇ……」

「全く知らなかった……」


 私たちの知らなかった事実の連続で、最早ただただ驚くことしかできない。


「なに、ご主人様たちは神域故に誰も立ち入らぬ最奥地で殆どの時間を過ごしておった上に、つい今朝まで長い眠りに就いておったからのー。知らなくて当然のことであろうよ」

「「なるほどー」」

「きっと他にもご主人様たちが知らないシスティレシアのあれこれがたくさんあると思うが……その辺はまぁ、暇なときにでもゆっくりと知っていくとよい!」

「そうだね。うん、そうするよ」

「そうするー」


 斯くして、ようやく私たちは、いつの間にかシスティレシアの象徴というか主というか王的な存在になってしまっていた経緯を理解することができた。


 ちなみに個人的にこの三択だったら、システィレシアの『主』、時点で『象徴』がいいなー、なんて思ったりしてみたり。

 『主』は親しみやすい感じがあるうえに、既にショコラとミルフィにご主人様って呼ばれてるのでしっくりくる部分もある。

 『象徴』はなんだか響きがかっこいい!

 一方で『王』の場合、他人事だったらかっこいい! ってなるけれど、いざ呼ばれる側だと堅苦しい感じがして落ち着かない。

 たぶん、根本的に堅苦しいのが無理なんだと思う。


 それはそうと――


「やっぱり、私たちも何かした方がいいのかな……? 一応はこの地の主なわけだし……」

「ねー」


 何もしなくても良いとは言われても、一応はこの地の主という立場になってしまったわけなのだから、上に立つ者として何かしら行動をした方が良いんじゃないか――とも思ってしまうわけだ。

 

「なに、ご主人様たちがそこまで気にする必要などない。何せ極論言ってしまえば、この地に住まう者たちが勝手にご主人様たちという存在を頂点に置き、勝手に崇拝し信仰しているだけに過ぎんのじゃからなー」

「本当に極論だね!?」


 何かミルフィが元も子も無いようなことを言い出した!

 いや、まぁよく考えたら実際そうなんだけども!


「じゃが、幾分か気楽になったであろう?」

「何というか……うん、一気に物凄い気楽になったよ」

「うむ、それでよいのじゃ。それにご主人様たちは、本当にただ存在してくれておるだけで、この地に住まう者たちの心の拠り所となっておる。即ちそれは『システィレシアの主』としての役割を既に果たしておるということ。故に、ご主人様たちは何もしなくともよい……、ただ存在してくれておるだけでよいのじゃ」

「そっか。それじゃあ気楽に、いまは何もしない!」


 ミルフィから詳しい話を聞くに、私たちという存在そのものが主としての務めを既に果たしているのならば、確かにこれ以上何かをする必要性は現状ないと言える。

 だったら取り合えず、今のところは何もしない。

 今の私は楽観主義なのだ!

 

 ただ、この地で暮らす者たちが私たちのことを崇拝し信仰してくれているという事実はしっかりと受け止めようと思う。

 それってなんだか凄く嬉しいことだし、それ自体が私とラティナのこれまでの軌跡の一つでもあると思うから――


 ――なんてことを考えつつ、手持ち無沙汰な私は上に乗っかっているラティナのもちもちほっぺをむにむにしていた。

 あぁ、なんて柔らかいほっぺたなんだろう……。

 このまま食べてしまいたい――はむっ!


「あと、ついでに言うとな」

「んむ?」

「ご主人様たちが長い眠りに就いておった間、ご主人様たちが無意識のうちに遣って退けておったシスティレシアの守護管理をわしらが代わりに行っておったわけじゃが――」

「これが結構楽しくてのう! 初めの内こそわらわたちの力量不足故に何かと大変であったが、今では楽しく熟せるようになったのだ!」

「最早わしらの趣味のようなものじゃな」

「うむ!」

「「ほへぇ……」」


 そう……あれは、私たちが長い眠りに就く直前のこと――


 私たちは強烈な眠気で薄れゆく意識の中、人化が可能となり初めて会話での意思疎通が可能となった二人に対して『この大森林を出来れば守っといてほしい』的なことを言い残していた。

 結果、『守護管理』という言葉だけでも大変そうなことを二人に強いるような形となってしまい、ただひたすらに申し訳ないやら頭が上がらないやら――


「さて、本題はここからでな。ご主人様たちの愛するシスティレシアの守護管理、その全てをわしらが正式に引き継ごうと思うのじゃ」

「えっ!?」

「だからな、ご主人様たちはようやく手にした本当の意味での『自由』を、何の柵にも囚われることなく、とくと謳歌するがよい! それこそがわらわたちの願いでもあり、同時に『システィレシアの主』としてご主人様たちが本当に行わねばならない、『唯一絶対にして最も重要な真なる務め』なのだ!」

「「おぉ……!」」


 正直、あの頃の私たちが行っていた無自覚ガバガバ守護管理でよく破綻しなかったなぁ……と、あと祭り状態の私は思っているので、少なくとも私たちよりはしっかりしているこの二人がそれを正式に引き継いでくれるのであれば、その方がシスティレシアのためにもなるし、私たちとしても安心だ。


「だけど、本当に任せちゃってもいいの……?」

「無理してない?」

「全然してないのだ! 寧ろわらわたちに全面的に任せちゃってほしいのだ!」

「その通り、遠慮することはない。それに、その方がご主人様たちも『唯一絶対にして最も重要な真なる務め』だけに専念できるであろう?」

「ふっ、二人とも……!」


 確かにシスティレシアの維持管理という不安要素を信頼できる二人に任せることで、私たちは『唯一絶対にして最も重要な真なる務め』を心置きなく真っ当することができる!


「それじゃあお言葉に甘えて、システィレシアの守護管理は二人に任せることにするよ」

「ショコラ、ミルフィ、お願いね」

「うむ、任されたのだ!」

「任されたのじゃ」

「あっ、でもね、楽しみながらだよ!」

「そうそう、楽しくなきゃ辛いだけだからね」

「なに、既に十分楽しみにながら行っておるよ」

「うむ! だからこその『趣味』であるからな!」

「そっか!」


 何事も楽しくなければ何の意味もないからね。

 その点でも二人ならば大丈夫そうだ!


「――して、ご主人様たちよ」

「ご主人様たちよ!」


 話が一段落したところで、おもむろに二人は押し倒された状態のままの私たちの方へと近づいてくる。

 そして――


「わしらが作った絵本、どうじゃったかのー」

「どうだったかのう!」

「「むぎゅっ!」」


 ――思いっきり二人分のダイブをかまされて、私たちはものの見事に押し潰された!

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創造と破壊の双子の女神は、自由気ままにスローライフを謳歌したい!  ~双子の最強ポンコツ女神のハートフル冒険綺譚~ 杏鈴よつば @CloverDays0723

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