創造と破壊の双子の女神は、自由気ままにスローライフを謳歌したい!  ~双子の最強ポンコツ女神のハートフル冒険綺譚~

杏鈴よつば

第1章 

第1話 双子の女神様と大森林システィレシア

 昔々、世界中の瘴気の捨て場と化していた名も無き大森林の最奥地に、双子の女神様が降り立ちました。

 姉の女神様は、妹の女神様の心身の療養場所を求めて荒廃した世界を彷徨った末に、唯一地形の原型が残されていたその地を偶然にも見つけた為、そこで暮らしていくことを選んだのです。




 そんな大森林はというと、世界中の瘴気の捨て場――というだけあって、恐ろしい程の濃い瘴気に全体が覆われた状態でした。

 魔物すら発生・生息することが困難な程の有り様だったその地には、当然ながら一切の生命が存在していませんでした。

 見掛け上は鬱蒼と生い茂っている草木すらも全て、瘴気の捨て場と化す前の名残のようなものであり、遥か昔に死して尚、瘴気に覆われ土へ帰ることすら叶わず、その原型だけを準えているだけに過ぎなかったのです。




 そんな死した大森林であったにも関わらず、双子の女神様は巨木に家を構え、そこで平然と暮らし始めました。

 なんと、双子の女神様は身体そのものが神域であるために、尽くの生命を拒絶する程の瘴気ですら、一切の影響を受けることがなかったのです。

 それどころか、その身体に触れた瘴気は瞬く間に浄化されていきました。




 双子の女神様が暮らし始めて以降、双子の女神様の神域と瘴気との狭間で二体の生命が誕生したのを皮切りに、大森林の最奥地を中心に少しずつ着実に瘴気は薄れていき、代わりに生命の息吹が大森林全体へと広がりを見せます。

 真なる緑が蘇り、様々な生き物たちの姿も見え始め、時間と共にその数は瞬く間に増えていきました。




 更に双子の女神様は、大森林で暮らす者たちに対して等しく多大なる慈悲と寵愛を与えました。

 豊かな自然と数多もの恵み、暮らしやすく安定した気候、絶対的な平和――などを初めとして、到底数え尽くすことなどできない程のそれらを享受したのです。

 双子の女神様はこの地を愛し、大森林に住まう者たちは皆、双子の女神様のことを心から敬愛し、崇拝・信仰しました。

 その関係性が相乗効果をもたらし、この地を更によいものにしていきます。

 こうして、かつて恐ろしい程の瘴気に覆われていた死の大森林は、数多の生命と豊かな自然が溢れ、その地に住まう者たちの笑顔が絶えることのない、まさに地上の楽園へと生まれ変わったのです。




 それから更に月日は流れ、双子の女神様が暮らす大森林という名の楽園は、

 ――双子の女神様の愛する地――

 という意味を込めて、

 ――システィレシア――

 そう呼ばれるようになり、我らが主である双子の女神様を象徴する地となりました。




 きっと双子の女神様は、楽園となったシスティレシアの景色を眺めながら、今日もこの地を見守ってくれていることでしょう。




 めでたし、めでたし――




 ◇◇◇


 


「――と、いうわけで……アルム様、ラティナ様! わらわたちが作った絵本、どうだったかのう!?」

「どうじゃったかのー?」

「「ふわぁ……!」」


 ベッドの上で開催された、最上位精霊さんであるショコラとミルフィによるお手製絵本の読み聞かせ会が終わり、絵本がパタンと閉じられたのも束の間――


 ――二人は私たち姉妹に向かって思いっきり飛び付いてきた!

 そのまま私は膝の間に座らせていたラティナ諸共押し倒されて、皆の下敷きになってしまう。


「ご主人様たちがこのシスティレシアを築き上げるまでに成した数々の尊い御業をこの地で神話として語り継いでいくために、わらわたちがこうして絵本に分かりやすく纏めてみたのだ!」

「何せご主人様たちはシスティレシアの主――いわば王のような存在じゃからなー。そんなご主人様たちの御業の数々を形あるものに記し残すことも大切だと思ったのじゃ」

「いやいや、二人が創作してくれたお話を後世に残しても―― って、なに!? 私たち王なの!?」

「おー!」


 サラッととんでもない爆弾発言が投下されたことに驚いて、私は『王』という言葉に反応してアホ毛をぴょこんと弾ませるラティナの頭をなでなでしながら、思わず大声で聞き返してしまった。


「少なくともこの地に住まう者たちにとっては、そのような存在じゃなー。のっ、ショコラー」

「うむ、何だったらこの地の象徴として崇められてもおるぞ!」

「何せそれはもう崇拝され信仰されておるからのー。ご主人様たちを祀る立派な神殿まで建てられておったよ」

「神殿!」

「なにその驚きの事実!」


 よく分からないけど、何か私たちの知らないところで物凄い大事になってるっぽい! という事実だけは理解することができた。


「まぁ要するにな、ご主人様たちはシスティレシアに暮らす全ての者たちから、それはもう愛されているということなのだ! つまりはこの地に住む全ての者たちの主! それはもう実質的に列記とした紛れもない王というわけなのだ!」

「「ほへぇ……」」

「とはいえ、ご主人様たちが特別何かをする必要はない。存在してくれておるだけで、この地の者たちは救われておるのじゃよ」

「生きてるだけで偉い、というやつであるな! ご主人様たちは生きてるだけで偉いのだ!」

「「はへぇ……」」


 私とラティナは二人して抜けた返事を返す。

 正直、何を言われているのかさっぱりだけど、この二人がそう言っているのだから、きっと全ては事実なのだろう。


「それにしても、何でそんなことになっちゃってるの? 私たち、特に何もしてないよ?」

「ねー」

「ねっ。私たちはただこの場所で静かに暮らしてただけなのにね」

「ふしぎー」


 私とラティナは当然の疑問を投げ掛ける。


 そう、私たちは誰も寄り付かないシスティレシア最奥地でずっと静かに慎ましく暮らしていただけだ。

 この地に住んでいる者たちに対して何かをしてあげたことなんて、一度たりともなかったはずなのに――


 そんなことを考えているうちに、ショコラとミルフィは私たちの上から退いて、ベッドの上に座り直していた。

 一方の私は、押し倒された状態のままラティナを抱きかかえている。


「簡単なことじゃよ。何せこの地に住まう者たちにとってご主人様たちとは、わしらお手製の絵本に画いてあるようなことを実際に成し、更に様々な寵愛まで与えて下さる偉大で慈悲深い双子の女神様なのじゃからなー」

「いやいや、私たち寵愛とか慈悲とか以前に本当に何もしてないよ? 唯一思い当たるのは瘴気を浄化した件くらいだけど、あれもこの地にまだ生き物がいなかった頃の話だから、寵愛を与える云々とは別物でしょ? それに、その絵本のお話だって二人の創作なんだし――」

「ふっふっふっ。実はこれな、この地に住む者たちの視点からご主人様たちのことを画いてみたもので、紛れもなく全てがノンフィクション! つまりは実話なのだ!」

「実話!?」


 これまた衝撃の事実!

 瘴気の件以外には本当に身に覚えがないだけに、何だか少し怖くなってきた。


「例えば、そうじゃのー……かつてアルム様は、この地を脅かす者共が現れる度にその全てを蹂躙しておったであろう?」

「うっ、うん。確かにラティナを守るために、私たちの大森林に手を出したり荒らしたりする奴らを片っ端から滅ぼしたりはしたけども……」

「それが結果として、この地に住まう者たちをも守護する形となっておったのじゃ」

「ご主人様たちの大森林を大切にしている限りは豊かなこの地に住むことを許され、更に外の野蛮な者共からの身の安全さえも保障される――まさに絶対的な安住の地の完成というわけなのだ!」

「だって! すごいね、お姉ちゃん!」

「そっ、そうかなぁ……えへっ、えへへ」


 ラティナに褒められたのが嬉しくて、思わず照れ笑いをしてしまう私。

 それにしても、私がラティナのためだけに行っていた行為が、そのような結果を同時に齎していたなんて思いもしなかった。

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