第3話 お泊り会!
完全に私たちの上で馬乗り状態となった二人は、何だか物凄く褒めて欲しそうな眼差しをこちらの方へ向けてくる。
その瞳はそれはもうきらきらだ。
「えっとね、私たちのことを想いながら作ってくれたんだってことが伝わってきて、凄い嬉しかったよ。表紙もメルヘンで可愛いし、製本とか装飾も手作りとは思えないくらい丁寧で凝ってて綺麗だし!」
「ラティナたちのこと描いてくれた絵もすごい可愛かった!」
「あとね、二人が使い慣れていない標準語で一生懸命読んでくれたことにも心が温かくなった! 二人とも、こんなに素敵な絵本を作ってくれてありがとね!」
「ショコラ、ミルフィ、ありがとー!」
「ふへへ、ご主人様たちに喜んでもらえたのだ! 嬉しいのう!」
「そうじゃなー。ふふっ、嬉しいのー♪」
私たちの実直な感想に対して二人はとても喜んでくれた!
ラティナがそんなミルフィとショコラの頭をなでなでしてあげると、二人は更に頬を緩ませて照れくさそうにはにかんだ――
◇◇◇
さて、そもそも私たちは集まって一体何をしているのかというと……そう、楽しいお泊り会だよ!
場所はシスティレシア最奥地に聳え立つ巨大な世界樹――の極太の枝の上に生えている巨木の上に建っている私たちのツリーハウス。
今朝私たちが長い長い眠りから目覚めて、それに気付いた二人が感極まって押しかけて来たところから開催される運びとなったお泊り会は、現在は私たち姉妹の寝室のベッドの上でゆっくりまったりなフリータイムへと突入している!
メンバーは女神である私――アルムと、最愛のラティナ。
そして、綺麗な水色の髪を弾ませている一人称〝わらわ〟で天真爛漫元気いっぱいな方がショコラで、美しいピンク髪を靡かせている語尾〝なのじゃ〟でまったりしつつも若干お茶目な方がミルフィだ。
ちなみにショコラとミルフィは、かつての私たちが無意識に周囲へ放っていた神域とこの地に滞留していた超高濃度の魔素とが衝突した際に生じた凄まじいエネルギーの本流から偶然にも生成された二対の核を基に誕生した存在であり、その正体はなんとこの世界に置いては歴とした原初の最高位精霊さんなのだ!
私が命名するならば――ショコラは色んな魔物を生み出せるっぽいから〝魔物の精霊さん〟で、ミルフィは何か世界樹と所縁があるっぽいから〝世界樹の精霊さん〟とでも言ったところかな。
そんな原初の最高位精霊さん二人と私たちとの付き合いはかなり長い。
何てったって、この地がまだ瘴気で覆われていた頃に二人が誕生して、それ以降ずっとの付き合いなわけだからね。
だけど、実はこうしてお喋りをしたこと自体は数える程しか無かったりする。
というのも何を隠そうこの二人、誕生した当初は精霊さんでもなければ人型でもなく、ショコラは〝お洒落なツノとヒラヒラが生えた半透明でぷよぷよな楕円形の可愛らしいマスコットっぽい動物〟で、ミルフィは〝木の枝のようなツノと美しい翼と尻尾を持つ猫みたいな可愛らしい動物〟の姿をしていたのだ!
つまりは二人とも当初はただの動物だったから、そもそも話すこと自体が出来なかったんだよね。
別に不仲だったからお喋りをしなかった――とかじゃないから、その辺は安心してほしい。
そんな当時の二匹が誕生した瞬間に偶然にもラティナを抱っこして散歩をしていた私が通り掛かり、その見た目の愛らしさからペットとして我がツリーハウスへお持ち帰りをしたのが二人との出会いであり付き合いの始まりだった。
以降ずっと神域を無意識に周囲へ放ち続けていた当時の私たちと同じ屋根の下で長年の時を過ごしてたことによって二匹は神聖な存在へと塗り替えられていき、結果として最高位精霊さんへと昇華を果たすことが出来た――ということらしい。
その際〝人化〟も習得したことによって、〝二匹〟は〝二人〟となり、〝ペット〟から〝対等な家族〟として一緒にじゃれ合ったりお喋りしたり出来るようになったというわけだよ! 凄く嬉しいね!
これは余談だけど、 二人が最高位精霊さんへと昇華を果たして人化した状態で私たちの前に初めて現れたのが、今から大体八千年くらい前らしい。
らしい――というのは、そのすぐ後に私たち姉妹は長い眠りに就いてしまい、再び目覚めたのが今朝のことだったので、その辺の時間間隔が全く掴めていないからだ。
それにしても、そんな長期間も爆睡してたなんて我ながら本当にびっくりだよ!
それはもう一度も目覚めることなくラティナと一緒にすやっすやのぐっすりだった――という話は、今は置いておこう。
そんな話よりも、私たち四人は〝家族〟であり、飼い主とペットのようなある種の上下関係も今はなしの〝対等〟な立場のはずなのに、困ったことに二人は私たちに対しての〝ご主人様たち呼び〟と〝様付け〟を一向にやめようとしてくれないことの方が今となっては重要だ。
――とはいえ翌々考えたら、私たちに対して二度も強烈なダイブを噛まして押し潰した挙句、現在進行形で馬乗りを決め込んでいる事実からも分かるように、決して遠慮しているとかそんな感じではないのは伝わってくる。
とすると〝ご主人様たち呼び〟と〝様付け〟には何か譲れぬ想いというものが込められているのかも知れない。
だったら……うん、今は無理にやめさせる必要は無いのかも知れないね――
――なんてことを考えながら、私も二人の頭をなでなでするのに加わった。
当然、お手製絵本を作ってくれていたことへの感謝の気持ちも忘れない。
あぁ、ショコラとミルフィの気持ちよさそうな表情に、なんだかとても癒される。
◇◇◇
やがて私たちに撫で回されて満足したらしい二人は退いていき、向かい側へと戻っていった。
「というわけで……以上! わらわたちのお手製絵本の読み聞かせ会は――」
「――これにてお仕舞お仕舞なのじゃー♪」
「「わー!」」
舞台の閉幕を告げると共に、ベッドの上で座りながら綺麗なお辞儀をする二人に対して、私たちは押し潰された体勢のまま再び拍手喝采を贈った。
「それでもってな――はい、ご主人様たちよ。この絵本の原本はご主人様たちへプレゼントするのじゃ」
「ほわぁ、ありがと! 大事にするね!」
「どっかその辺にでも飾っておいて欲しいのだ!」
「表紙も雰囲気があって綺麗だから、部屋のインテリアにもなりそうだね」
二人から絵本を受け取ったラティナはとても嬉しそうだ。
嬉しいのはとっても良い事!
それにしてもこの絵本、雰囲気そのものが私たちのツリーハウスの温かみと非常にマッチしているから、どこに飾っても何か凄くいい感じになりそうだ。
特にこの寝室に飾った場合なんかは、そのメルヘンチックで可愛らしいデザインが私たちの眠りに癒しと彩りを添えてくれるに違いない。
あとで専用の額縁……いや、イーゼルを作って、傍の棚に飾ることにしよう。
額縁と違ってイーゼルだったら読みたいときに手軽に手に取れるしね。
「さて、それじゃあ次は何しよっか?」
ご機嫌なラティナをなでなでしつつ、私は次にやりたいことの案を募る。
ちなみに二人によるお手製絵本の読み聞かせ会の前はというと、私たちからの提案で二人には人化を解いてもらい、マスコット化したところを思いっきり撫でまくり愛で倒していた。
「はいはいはい! わらわ、ご主人様たちが明日からの〝外の世界〟での冒険でどんなことをしたいのかずっと聞いてみたかったのだ!」
「ふむ、確かに具体的な事に関しては何も聞いておらぬからのー。わしも気になるのじゃ」
そう――実は私たち、〝冒険をしてみたい〟っていう昔からの夢を叶えるために、明日からしばらく〝外の世界〟へ冒険に出かけるんだよね!
ちなみに〝冒険〟と銘打ってはいるけど、雰囲気的には〝色んなことを経験しつつ遠くへお出かけ♪〟みたいな感じの超絶ゆるふわっとしたものを想定している。
だから冒険には旅行感覚でこの先何回も出かけちゃうこと間違いないだ!
あっ、そうそう。〝外の世界〟っていうのは、この大森林システィレシアの外に広がっている世界のことね。
「それじゃあ、次はそのことについて色々お喋りしよう。ねっ、ラティナ!」
「うん! いっぱいお喋りしよー!」
「――っとその前に、もう時間もだいぶ遅いから皆で一緒に横になっちゃおう」
「なっちゃおー」
「「おーなのだ!」なのじゃ♪」
というわけで私は起き上がりつつラティナからお手製絵本を受け取って、それを置くついでにベッド傍の棚に置かれたランタンに頑張って手を伸ばして灯りを程よく弱めた。
そしてラティナを抱き締めたまま再びごろんと横になる。
「ところでご主人様たちよ。お節介やも知れぬが、冒険の荷造りは終えておるかの?」
「朝起きたらやるから大丈夫大丈夫!」
「お姉ちゃんといっしょにがんばるの!」
「ふふっ、ならば良い。では、わしも横になるとするかのー」
張り切って拳を天へ掲げるラティナの姿に微笑みながらミルフィも私たちの隣に横になった。
それからショコラが寝るスペースを確保するために私たちはぎゅっと身を寄せる。
ベッドは窓がある壁にピッタリと寄せられていて、寝る順番は窓側から私・ラティナ・ミルフィ・ショコラとなった。
「しかし、ご主人様たちのベッドにわらわたちも一緒となると、かなり狭いのう」
「でもでも、この狭さがお泊り会っぽくて逆に良くない?」
「うむ! それはそうなのだ!」
「みんなといっしょに寝るの、あったかーい」
「ふふっ、あったかいのー」
「それじゃあ毛布掛けるのだ! それー!」
そんな他愛のないお喋りを交えつつ、最後にまだ寝っ転がっていないショコラが大きなもふもふ毛布を私たちに掛けてくれた。
それからショコラもベッドに横になって、仲良く四人で毛布から顔を出す。
薄暗い寝室。
心落ち着く木材の香り。
暖かく揺らめくランタンの優しい灯り。
皆で同じベッドで横になって、寝るまで楽しくお喋り。
うん、これぞお泊り会って感じで素敵!
ともあれ準備が整ったところで――
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