コレクター


 彼が十歳の頃から集めているもの。それはとあるマンガのキャラクターのフィギュアだった。その数全部で48体。それを全て集めるのが彼の夢であり生きる糧でもあった。


 彼がコレクションを始めた頃には、すでにそのフィギュアは生産中止となっておりコンプリートするのはかなり困難な道のりだった。きっと必ずお金が必要となってくる。


 そう考えた彼は必死に勉強をした。友人も作らず机に噛り付く。フィギュア以外に金は使わず、遊びに出掛けることもない。青春の全てを勉強とフィギュアの収集に捧げた。


 そのお陰で良い大学に入り、そして良い会社にも入社できた。社会人になっても、ただひたすら仕事に精を出しフィギュアのコレクションだけに情熱を傾けた。恋人も友人も彼には必要なかった。



 そして三十年という月日をかけ、ようやく47体まで集めることが出来た。


 残るは1体。



 彼は執念の炎を燃やした。来る日も来る日も血眼になりながらそれを追い求めた。


 そして遂にある日、彼は最後の1体を探し出した。全財産をつぎ込みようやくそれを手に入れることが出来た。




 フィギュアを保管するためだけに作った部屋には47体のフィギュアと空いている台座がひとつ。彼は震える手でそこに最後の1体を置いた。


 

 とうとう長年の夢が叶った。全てのフィギュアが揃ったその光景に彼はこの上ない悦びと感動を味わった。


 しばらくの間、彼は涙を流しながらそれを眺めていた。



 しかしそれはやがて虚無感へと変わっていく。燃え尽き症候群というやつだろうか。満たされたはずなのに、彼の心は徐々に暗くなっていく。まるで蠟燭の炎が消えていくように。



 彼はおもむろに1体のフィギュアを手に取った。それは彼の一番のお気に入りでもあった。そして彼はそのままキッチンへと向かう。


 鍋に水を入れ火にかける。ぐつぐつと煮えたぎった頃合いで彼は手にしていたフィギュアを鍋に放り込んだ。


 ドロドロに溶けていくフィギュア。彼はそれをじっと眺めていた。



 そして再びフィギュアが飾られた部屋へと戻った。そこには47体のフィギュア達が整然と並んでいた。


 そして唯一ぽっかりと空いている台座がひとつ。



 彼はそれを見つめながら固く決心した。


 一生を賭けてでもそれを手に入れてみせると。






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