孤島の王様


 パシャール王は猜疑心の塊であった。


 第二王妃を母に持つ彼は小さい頃から命を狙われ続けた。後継者争いはいくつかの派閥に分かれており、中でも強硬派である第一王妃派の力は相当であった。


 第三、第四王妃の子はすでにこの世を去り、残る後継者候補は第一王妃の子、フランジとパシャールのみ。故にパシャールは毎日のように暗殺の危機に晒されていた。



 だが彼は生き残った。フランジは成人を前に病に倒れ、遂にパシャールが王となった。


 彼の治世は平和そのものだった。


 優秀な官僚達、そして美しく優しい王妃にかわいい息子。国は豊かで外交も実にうまく行っていた。


 しかしパシャールが心穏やかに過ごす事はなかった。小さい頃から培われた、人を疑う心。王となった今でも、それは変わらぬどころか年追う毎に増していく。


 隣国へと出向いた時、護衛の騎士団長が不穏な動きを見せたとして処刑した。


 とある催事で側近の官僚達が何やら企んでいるとし牢獄送りとした。


 王妃が自分を殺し王子に国を継がせようとしていると騒ぎ立て、親子共々遠い国へと追放した。



 やがてその狂気は国民にまで及ぶ。反乱を抑制する為、ありとあらゆる掟を作った。それは国民達がまともな生活を送れない程だった。


 やがて人々は国を出る。農地は荒れ果て王国は衰退していった。


 それを見かねた者達が遂に反乱を起こした。パシャール王は捕えられ絶海の孤島へと送られた。



「貴様はここで野垂れ死ぬがいい!」


 パシャールを船から蹴落とした兵士が唾を吐きかけ去って行った。


 そこはまさに無人の島。人はおろか獣さえいなかった。



 そしてその夜、パシャールは生まれて初めて心穏やかに眠る事が出来た。





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