第2話

 男は警察に引き渡され、探偵とマネージャーは向き合った。

「疑ってすまない」

「いえ、自分が怪しいことは自覚していますから」

 探偵はまだこの男に違和感を覚えているらしく、眉をひそめた。助手が服の裾を引っ張り、足を思いっきり踏みつける。

「では、私はこれで」

「お、おう」

 マネージャーがいなくなると、助手は声を荒らげた。

「アンタ!ただでさえ間違えて犯人だって言ったのに、まだ疑ってますみたいな顔して。相手が優しかったから見逃してくれましたけど言い咎められたらどうするつもりだったんですか!」

 探偵は釈然としない顔をしていた。まだ疑念は晴れないらしい。

「俺、人を見る目あんだよ。アイツ、ずっと怒ってた」

「そりゃあ自分とこのモデル殺されてその上犯人扱いされたらそうなるでしょう」

「違う、この館に来た時から」

 探偵は首を傾げた。助手は呆れた顔をしている。

「とりあえず帰りますよ」

「はーい」

 探偵は助手に連れられるままにこの山荘を後にした。


「上手くいきましたよ。勘違いしたガチ恋男を同じ山荘に泊まらせて、ソイツの意思でウチのモデルを襲わせること」

「お前、その笑顔の下にえげつないもん隠してるからな。お前の事務所のお偉いさん方の慌てふためく様を見るのは楽しみだ」

「そうですね」

 マネージャーがモデルを殺したという探偵の勘はあながち間違ってはいなかった。手にかけていないだけで、裏で糸を引いていたのはこのマネージャーだったのだ。

「報酬はいつ払ってくれます?」

「もう振り込んどいたから確認しておけ」

「ありがとうございます」

 マネージャーはニヤリと口元を歪ませて笑った。だが、安心してもいられない。

「あの探偵、まだ俺のこと疑ってたよな。たぶん馬鹿な分思い切りがいい。帰ったらすぐ俺のことを調べ始めるだろうな」

 マネージャーは手を顎に当てた。

「…消すか」

 息をするかのように口をついてでたその言葉は明確な意志を持って探偵を傷つけに行く。

 これはとある山荘での殺人事件を皮切りに始まる、探偵と、マネージャーの皮を被った殺人犯の戦いである。

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