探偵と犯人と

堕なの。

第1話

「彼女を私が殺したアリバイなどどこにあるのですか?」

 とある山荘、そこには一人の探偵とその助手、そしてそこに泊まっていた何人かの客と、殺された一人の女性がいた。その女性は最近有名になり始めているモデルで、これから、という矢先に起こった出来事だった。詰められている男は、このモデルのマネージャーだ。

「それは、君が持っているんじゃないか?」

 男は飄々としていて、まだ余裕がありそうだ。

「ほら、ポケットにあるものを出してごらん」

 男は探偵に言われるままにポケットの中身を出した。使用済の小さなジップロックと携帯型のハサミ、それと花柄のハンカチ。

「その花柄のハンカチは被害者の女性の物なのではないかね。それにジップロックについているのは怪しげな白い粉。犯人はこいつに決まりだ!」

 何の確認もせずに犯人を決めつけるなどありえない。これにはマネージャーの男も呆れ顔をした。さすがに見かねた助手が口を出す。

「もう少ししっかり考えましょうよ。アンタいつか訴えられますよ」

 助手はこの探偵よりもまともなようで、探偵の行動を諌めようとする。しかし、探偵は言ったことを取り下げる気はないようで、中々話は進まない。

「ところでそこの男性。ウチのモデルのファンですよね。それはファンクラブ限定で販売しているキーホルダーですから」

 マネージャーの男は口角を作った。腹の底が読めない。嫌な大人の笑顔だ。

「一つ質問なのですが、ここに入る際に持っていた水筒はどうしたのですか。透明で、でも水ではなさそうな液体に違和感を覚えていたのですが」

「え、あ、それは」

 男がたじろぐ。よもやこの流れで自分に話が振られるとは露ほども思っていなかったのだろう。冷や汗が顔を伝っていく。

「まさか、お前が犯人なのか!」

「そんな話はしていませんよ。ただ、どうしたのかな、と思いまして」

 男の顔がどんどん青ざめていく。そして俯いて、ぽつりぽつりと話し始めた。

「好きだったんだよ。俺は古参で、あの子に認知されてて。それで良かった、はずなのに。熱愛報道なんて出しやがるから。アイツが悪いんだ。俺たちファンを裏切った。アイツが悪者だ。俺は悪くない」

 必死に、惨めに、男は自分を擁護し続けた。傍から見たら滑稽に映るほどだ。

「人を殺しておいて悪くない、など。ありえんぞ!」

「ウチのモデルに何してるんですか?」

 探偵がキレる。マネージャーは笑顔で、目の奥に怒りを滲ませていた。それは初めからで、マネージャーはずっと目の奥が怒っていた。

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