誰もいない教室で金髪碧眼ハーフJKとポッキーゲームをしてみた!

なつの夕凪

金髪碧眼ハーフは知ってほしい


「よっしゃー緒方ぁ! さっそくポッキーゲームしようぜ!!」

「はぁあああああ!?」


 それは突然の出来事だった。

 十一月十一日の放課後、クラスメイトの前園凜まえぞのりんがとんでもないことを言い出したのだ。


「別に良いだろ? 楓も委員会に行っていないし、今、教室にもオレら以外誰もいないし」


 楓と言うのはクラスメイトで同じ中学から俺と一緒に高校に進学した望月楓もちづきかえでのこと。イタズラ好きの前園は俺をからかってくるけど、いつもなら楓が俺たちの間に入り、必ず無茶を止めてくれる。

 

「通りかかった誰かにポッキーゲームをやってるの見られたらまずいだろ!」


「大丈夫だって! 校舎に残っている生徒は生徒会や部活組ぐらいだろうし、いちいち教室の中なんて見ないだろ」


「そうかもしれないけど、前園はポッキーゲームがどんなゲームかわかってて言ってるだよな?」

「もちろん! 緒方はオレが相手だと勝てる自信がないとか?」


 前園は小さな舌を出し上唇をチロりと舐め、イタズラな笑みを浮かべ挑発してくる。

  

(はぁ……お前だからマズいんだよ前園!)

 

 金と銀の中間色の薄い金髪ショートを今日は左耳の後ろでサイドポニテにしている。


 雪よりも白い肌と薄い蒼の瞳、小さな赤い唇、北欧と日本のハーフでファンタジー小説に出てくるエルフのような可憐な容貌の彼女は、いつものように制服を着崩しブラウスは第二ボタンまで外されていて、白い首筋から胸元近くまで素肌が見えている。

 プリーツスカートはかなり短いし、白く長い脚は太ももまで丸見えだけど、スタイル良さと整った顔のせいか、カッコよく見えてしまう。


 学園に通う男子は一度は前園に恋をするとまで言われる美少女、それが前園凛。

 

「そんなことないけど」

 

(嘘です。前園さんとポッキーゲームなんてヤバいです! 超ヤバいですって!)


「じゃぁやるか緒方?」

「わかった。後で後悔するなよ~」


「お、言うねぇ~そのまま言葉を返すよ。オレに負けて後悔するなよ緒方」

 

 一人称は「オレ」、普段は少年のようにニカっと笑い、さっぱりした性格から男子だけでなく女子からもイケメンとして人気がある。


 それに引き換え、俺こと緒方霞おがたかすみは、自他ともに認める気弱な陰キャ……前園と勝負したところで全く勝てる気がしない。

 

 しかもどういう訳かこのポッキーゲームは既に逃げられない雰囲気になってる。

 

 やれやれ……。

 

◇◇◇◇


「じゃあ、一応ルールを確認するけど、先に目を離したら負け、ポッキーから口を離しても負け、食べてる途中でポッキーが折れた場合は引き分けで」


「わかった」


 自席の机の上に腰を掛け、足を組んだ前園がポッキーをくわえる。


 スカートの丈が短いから、たまにスカートの中が見えてしまいそう……というか、前園はいつもこんな感じで隙だらけなので何度かピンクやらブルーやら、時にはブラックなアレを見てしまった。今日も先ほど足を組み替えた時、オレンジなアレが見えたような気がする。

 

 胸元の自己主張が激しい大きな二つのお山も動くたびにぷるんぷるん揺れてるし、山の谷間やら山を覆うレースの付いたアレもたまに見えるし……。


 ……どうもすみません。えちぃことは

 

 でも、けしからんと思うので今すぐ脳内から消します。ポチっと。


(エラー、この画像はなので消すことができません! BY緒方脳内コンピュータ♡)

 

(……だそうです。仕方ないですよね前園さん。どうかご勘弁ください。この脳内画像は家宝にします)


「よし、いつでもいいぞ緒方!」


 ごくりと息を呑み、恐る恐る前園……ではなくポッキー近づき、俺も先っちょをくわえる。

 

(やばい、ポッキーって思った以上に短い)


 おそらく長さは十センチほど。

 普段でもこんなに女子と顔を近づけることがない。

 

 目の間に前園が映る。

 

 毛穴すら見えそうな距離でも、前園はやはり綺麗だ――窓から指す夕日に照らされたその容姿は幻想的で見とれてしまう。しかも距離が近すぎるせいか女の子特有の甘いにおいまでしてクラクラする。もうこれだけでノックアウト寸前。

  

「じゃあ、よーいどん!」


 そんな俺の動揺なんてお構いなしに前園の号令で、ポッキーゲームは始まった。

 

――ポリポリポリ


 静まり返った教室に、俺と前園がポッキーを食べる音のみが響く。


 ポッキーは好きなお菓子なので普段からよく食べている。


 チョコをコーディングしたビスケットの絶妙な味が口の中に広がる……はずだけど今は緊張がマックス状態のため、勿体ないけど味わっている余裕がない。

 

 心が落ち着くこともないまま、互いの顔はどんどんと近づいていく。

 

 前園は慌てる様子がない。

 

 澄んだ前園の蒼の瞳に俺が映り込む……。

 

 瞳の中の俺は明らかに動揺している。

 

(やばい、やばい、やばい――! このままだと前園の口と俺の口が……)


―ボキッ!


 残り六センチ辺りで俺が目を反らし、ポッキーはあっさり折れた。

 

「ん~緒方の負け」


 残りのポッキーをポリポリ食べながら前園が勝利宣言……悔しいが反論できない。俺の完敗。


「そう言えば勝った方のご褒美を決めてなかったな」

「え? そんなのあるのか?」


 俺は絶句する。ご褒美ってなんだ? 

 

「当たり前だろ。じゃないと面白くないし……何でも言うことを一つ聞くってのはどうだ?」

「いや……俺はもう負けてるし、後出しで決めたルールとしては重過ぎないかそれ」


「じゃあもう一回勝負するか、緒方が勝てばオレに好きな命令ができるよ。エッチぃ奴隷にするとかね」


「しねーよ!」


「そっかぁ。つまんないなぁ」


 ニヤリと前園が笑う……。

 ご機嫌なエロフ……じゃないエルフ前園様。

 今に見てろよ!

  

「じゃあ行こうか、二本目」


 前園がまたポッキーをくわえる。

 

「おう」


 俺も応じる。

 今度は負けられない。

 

 万が一、俺が勝てたら前園に何をお願いしようかな?

 

「よーいどん!」


 前園の号令で、ポッキーゲーム二本目がスタートした。

 

 蒼の瞳は今度も真っすぐに俺を見据えている。

 まるで何も疑っていないように――。

 

 前園凜は美人で頭が良く運動できるクラスどころか学園全体のアイドル。

 

 気取ったところがなく、誰とでも気さくに話しをして、やる気のない俺にも気にかけてくれる優しいクラスメイト。

 

 そんな前園がいつもまぶしくて。

 

 一緒に過ごす日々が嬉しくて。

 

 何時の頃か俺は前園を目で追いかけるようになっていた。


 前園は俺にとって……。

  










 

 はぁ……そっか。


 前園は他のクラスメイト達と違う。

 

 どうして今まで気づかなかったんだろう。

 

 いや――気づいていたけど今の関係が壊れるのが恐くて気づかないふりをしていた気がする。


 俺と前園ではあまりにも釣り合わないから。

 

 でも……これからはちゃんと前園を見つめたい。

 

 もっと前園を知りたい。

 

 このドキドキする想いを伝えたい。

 

 前園が俺のことどう思っているか知りたい。

 

 前園の目に俺はどう思っているのか聞きたい。

 



 俺は前園を真っすぐに見据える。


 これまでの感謝と全ての想いや願いを込めて――。

 

 俺はもう逃げない。



 ポッキーの残りはあと四センチほどだった。

 

 蒼の瞳には今までにない動揺が広がっていく。

 

 それはいつもの快活な少年の様な前園ではなく気弱な女の子。


 俺の知らない前園がいる。


 でも何かを見つけた時のように嬉しそうな顔にも見える。


 俺はますます胸が高鳴っていく……駄目だもう隠せない。

 

 前園は顔を反らし、ポッキーは『ボキッ』と折れた。

 

 俺は残りのポッキーをくわえたまま、前園はこっちに顔を見せてくれない。

 

「オレの負けか……」


 力なくぽつりと言う。

 

「前園……俺は」

「待って緒方」


「でも……」

「ごめん、もしオレが思ったのと違かってたらと思うとさ……」

 

 前園の声はひどく弱弱しい。


「俺にできることはあるか?」

「じゃあ……手を握って」


「ほら」

「……ありがとう緒方、嬉しい」


 細く白い手をできるだけ優しく握る。

 前園の手は少し震えている。 

 

 俺が前園との関係が壊れるのが恐かったように、前園も恐かったのかもしれない。


 今までどんな気持ちで普段俺に接してくれてたのだろう。

  

 今日だって俺のために勇気を出してくれてたのかな。


(ありがとう前園……あと今までごめん)


 俺はこれまで全然見えてなかった。これからはずっと前園だけを見てるから。 


(今度は俺の番だな……)


「ご褒美は何でも言うこと聞いてくれるんだよな。じゃあもう一度ポッキーゲームをしよう」


「え?」


「今度はポッキーなしで」


 真っ赤な顔と涙を浮かべた前園は驚いた表情を浮かべる。

 

「……いいよ。ずっと待ってたから」


 そして一筋の涙を流した後、俺だけの天使は満面の笑みを浮かべ目を閉じる。


 ……俺たちは今日三度目のポッキーゲームをした。

 

 今度はどちらも逃げなかった。



(End♡)

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