第6話

「それは……本気なのか?」


あたしへの嫁入り宣言はその場にいる魔王軍全員を固まらせた。武器を向けているあたしの部下達の内の一人が絞り出すように尋ねた。


「もちろん本気です! 私、セレスは……魔王様に、一目惚れしちゃいました……!」


胸に手を当てて、あたしをまっすぐに見て言いやがった。その様子に、ますますあたしの部下たちは硬直する。というか誰か女同士だろと突っ込みなさいよ。あたしもコイツも女だっての!


「……分かった。あなたの覚悟、しっかり確認させていただきました」

「ええ、あなたの思いは軽いものではないようですね」

「ええっ!? ちょっとあんた達!?」


あたしの部下たちは武器を次々と下ろして、あの娘から離れていく。それどころか敬意を示すように背筋を伸ばして立った。


「何してるのよっ? 早くあいつを倒しなさい!」


部下たちの理解できない行動につい素の話し方を出してしまう。これまでも割と結構素で話しちゃったと思うけど。それでも突っ込まざるを得ないっての!


「いいぃぃやったぁぁあああ!!!!」

「っっ!?」


部下の一人が武器を床に捨てて、思いっきり万歳をした。

他の者も武器を、兜や鎧を捨てて叫び始めた。


「ううう……主様についにお嫁ができるとは……!!!」

「ううぅぅ……ありがとうございますぅぅっ!! 主様をよろしくお願いしますぅぅぅ!!! あぁぁわたくし嬉しさで涙が止まりませんんん!!!」

「セレス様……ですね? 主様はワガママですがああ見えて割と可愛らしい所も多いので、辛抱強く付き合ってくださいませ!」

「我らが魔王軍って、この通りかなりの女所帯なんです。それなのに魔王様は誰にもなびかないから心配していたんです!」


うっさいわね余計な心配しないでよ! あとはあたしはノーマルだっての! あいつなんか興味が出る訳……うっ……良く見ると顔が良い……っ


「ばんざーい! 今日は我らが魔王様の婚約記念日だー!」

「てっきり私は、主様はこの先結婚できるか心配していたんです!」

「あぁ……魔王様は私が狙っていたのに……でも二人ともお似合いだし仕方ないかっ」

「セレス様はこれから魔王様の豊満なお身体を好きなようにできるなんて……羨ましいですっ!」


おい誰かあの二人を叩き出せ。なに他の奴らも手を取り合って「分かるっ!」なんて頷いてるのよ!


部下たちの殺気が渦巻いていたあたしの私室は、あっという間にあの娘を囲って歓迎ムードに変わっていた。

あの娘自身も、目の端に涙を浮かべて「私っ魔王様を絶対幸せにしますっ!」って言っている。その言葉にも部下たちは感銘を受けたのか胸に手を当てて涙を流している。

あたし。軍の編成を間違えたのかもしれない。

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