第5話

「こうなったら……出会えっ! 出会えー!!」


あたしは天井に向けて魔力を打ち出した。このやり方ならコイツを直接的に傷つける訳じゃないから魔法を使えるはず!

ゴーンッ! ゴーンッ! と鐘の音が鳴り響く。警鐘だ。この音が鳴り響くと部下たちがあたしの元へとやってくる仕組みだ……にしたってちょっとうるさすぎるから後で音量を調節しよう。


「魔王様っ! 何事ですか!」

「敵襲ですかっ!」

「魔王様を守れっ!」

「侵入者だ! 生かして返すな!!」


ドアが開かれてドタドタとあたしの部下がやってくる。私室とはいえもう少しドアの種類は考えた方が良いかもしれない。人一人分が入れるサイズの扉だから、今みたいになだれ込むように入って来るには明らかに今のドアでは不向き、というか間抜けよね……


「魔王様……もしやこの者が……!」

「あぁ。侵入者だ」


部下の一人があたしとその娘を見た。


「なるほど……手練れには見えませんが、ここまで来るということはそれ相応の実力の持ち主のはず、みんな! あいつを囲めっ!」

「おー……すごいね」


あたしは腕を組んで息を吐いた。手こずらせてくれたわね。でももう終わりよ……というか何であいつあんなに余裕なのよ? あんた今武器を持った魔王軍に囲まれてるのよ? 魔王城にいるような精鋭揃いなのよ? 勇者であっても簡単には倒せないはずなのよ?


「一応聞いておこうか。おい小娘、貴様がわざわざ我らが主、魔王様の私室にまで押しかけた理由はなんだ?」

「うむ、まあどのような理由があっても貴様の運命は変わらないだろうがな」

「言ってみなさい。せめて私たちを楽しませてみせてよ」

「……」


剣、槍、斧、杖。ありとあらゆる武器を全方位から向けられたあの娘は、少しうつむいた後、顔を上げて言った。

頬を赤く染めながら。


「私は……魔王様と結婚しに来ましたっ!!」

「「「「……………………」」」」


その場にいる全員が沈黙した。部下たちみんなが目を点にして固まる。


「私っ、昨日魔王様に夢を見せられたんです。あの美しくて可愛くて、素敵なところに私はその、その……恋しちゃったんですっ! だからっ……私っ! 魔王様のお嫁さんになりに来ましたっ!!」

「「「「…………………………………………」」」」


あぁ。もう帰りたくなってきた……でもここあたしの部屋じゃん。帰るってどこに帰れば良いのよぉ……

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