第3話
目の前に現れた人間の女の子に、私の思考は完璧に止まっていた
「あなたは……? 誰?」
「それはこっちのセリフ……! いや」
慌てちゃだめ! あたしは魔王なんだから落ち着かなきゃ!
ふっ……ふふっ……の、のんきなものよねっ。どんな方法でこの部屋に入り込んだのか知らないけれど、それ相応の覚悟をしてきたはずよね……!
「名を名乗れ! ここが我が魔王の部屋だと知っての行動なのだろうなぁぁっ!?」
やっちゃった。最後声が上ずってしまった。いいわよどうせこの人間は生きて帰れないんだから! この世から消える相手が何を知っていようがお構いなしよ!
「魔王……? ではあなたが魔王様なのですか?」
「そうだっ! 貴様、人間がこのようなことをして無事に帰れるとは思うまいぃっ?」
今度は声が震えた。どうしよう、びっくりしすぎて動揺が収まらないんだけどぉ!?
こんな時はチョコを食べれば鎮まる……いや今食べたら魔王のイメージ台無しよ! 畜生お菓子も食べられないじゃない!!
「魔王様なのですね? では……自己紹介しますねっ!」
その人間の女の子はスカートを広げて、膝を少し曲げて、挨拶をした……なぜか、頬を赤く染めて。
「私、セレスと言います。魔王様のお嫁になりにきましたっ!」
「はっ……」
この時、私の動揺は頂点に達してしまった。口を大きく広げて、ティーカップをテーブルに置いて指をあの人間に向けて……
「はあああああああっっっ!!!???」
とびっきり大きな声を出してしまった。魔王の威厳なんてあったものじゃない。
「うふふっ。サプライズ成功ってところかな?」
「あんた……いや、貴様、我をからかっているのか!?」
あたしはキッとそいつを睨みつけた。それでもその女の子は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねて小躍りしている。
おかしい。威厳ある魔王の眼光を受けてもなんでそんな風に平気でいられるのよっ。これじゃ動揺してるあたしがおかしいみたいじゃない!
「貴様正気かっ!? 我を嫁に迎えようなどと抜かすとは、虚言ならせめてもっとマシなものを用意しておくべきだなっ」
「えー? じゃあ……魔王様を私のお嫁にもらいにきました!」
「変わってないではないかっ!! 言い方を変えただけじゃない!!」
なんなのよコイツぅ! 魔王を目の前にしているのよ? なのになんであんな風に……あんな風に恋する乙女の目をしているのよおぉ!!
「その戯言が本気であったとして、いつ貴様がこの我に惚れたのだ!? 貴様とは初対面のはずだっ」
「えー? 女の子に恋した理由を話すだなんて……はぁっ、しょうがないなぁ」
なんであたしコイツにため息つかれてるのよ? なんでそう慈愛と哀れみのこもった目を向けられるのよ?
「昨日夢で見たんです。とっても素敵な方が出てくる夢を」
「ふんっ所詮小娘だな。そんなおとぎ話のような話をこの魔王が信じる訳が……」
「本当なんですっ! 長い髪が素敵な女の人っ! 私に向かって手を差し伸べてきてくれたんです!」
その子は実践するように、髪をかき上げる動作をして、片腕を出して差し伸べるポーズを取った
それ、どこかで見たポーズ……確か……確かそれは……っっっっ!?
「まっ……まさか、昨日の”夢見の魔法”……?」
「そうっ! やっぱりあれは魔王様が見せてくれたんですねっ!」
その子はパンっと手のひらを合わせて嬉しそうに笑った。
その様子にあたしは頭を抱えた。まさかそんな理由で惚れられたなんて……!
あと自分自身の動作をマネされるのって、思っていたよりも恥ずかしいのね……
なんで魔王として征服活動をしたのに黒歴史が増えるのよ……
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