第2話
「以上が、我が魔王軍の本日の侵略記録です」
「ご苦労。下がって良い」
「はっ」
魔王のあたしが”夢見の魔法”を使った翌日。あたしは自分の私室で部下の報告を聞いていた。部下が部屋から出ていった後に、息を吐く。
「我が魔王軍に物資を提供した村がまた一つ……ふふふ、早速成果が出てるみたいね」
あたしは天井を見上げながら口角を上げてつぶやいた。
外から聞こえる突風の音が心地良い。普通ではないこの荒れた天気はまさに平穏を脅かされた人類の叫びを現わしているみたい。
「でもこの成果に満足してばかりじゃダメよね。征服活動はまだまだこれからなんだから」
紅茶の入ったティーカップを持って傾ける。
外からはガツンッガツンッと鉄を打ち付ける音が聞こえてくる。
恐らくはあたしへの恐怖で動揺して、我を失った末にこの魔王城に直接乗り込んでワンチャン魔王を無力化できれば良いと思っている愚か者だろう。そして、あたしの超強い部下と戦いを強いられている。
「あたしの部下は優秀なんだから。破れかぶれで来るような奴に負けたりなんかしないというのにね」
ガアッン!! ……ガッ……ガッ……ガッ……
この金属の音はすぐに止むだろう。そして我が部下の勝利の叫びに変わるだろう。
いつもよりも紅茶を飲むペースが早くなっていた。あたしも少なからず興奮しているみたいね。
「……何やってるのかしら、あたしは魔王なんだからもっと落ち着くべきなのに」
はやる気持ちを抑えるように、あたしは大好きな甘いチョコケーキをつまんで、もぐもぐと噛んで飲み込んだあと、一気に紅茶を口に含んだ
この優雅で落ち着いた行動。これこそが魔王たるあたしの姿! ビシッ!
ふっ……決まったわね……!
「ふふっ……さあ、次はどの村に侵略しようかしら。東にある大きな村なんかねらい目かもしれ……」
「たぁー!!!」
バリーンっと窓ガラスが割れた。割った犯人はそのまま取れたカーテンに包まれて、突入したときの勢いそのままに地面をゴロゴロと転がって……
「ふぎゃっ……!」
壁に激突して、動かなくなった。代わりに唸り声をあげている。
信じられない光景だったけど、この時あたしは手に持ったままのティーカップを落とさなかったわ。誰か褒めて?
「なっ……えっ……!? …………えっ!?」
ずいぶん地面を転がったけど、割れた窓ガラスが身体に刺さってないかしら。
いやそんなことはどうでも良いの! ていうかアレ人間よね!? ふぎゃって言ってたし、人間で間違いないよね!?
「ぷはーっ!! やったぁー!! 成功だぁー!」
ガバッと白いカーテンを払いのけて、侵入してきた犯人の姿が見えた。
女の子、それも人類の住んでいる街中によくいそうな女の子だ。
鎧や武器なんか全然身に着けていない、せいぜい宿屋や道具屋で働いていそうな子だ。
「ここで合ってるよね……? 一番豪華そうな部屋だし……あ」
「あ」
ばっちりと、目が合ってしまった。
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