P16:海と水着と盗賊団【03】
「誰それーーっ!」
『――バイパー団って言ってるだろー! ガハハ!』
『――バリー! 目立つんじゃねー。女と金だけ早く攫えよ』
『――うるせー!
スピーカー越しにがなりたてながら、二十メートルほど沖合から一機だけが近づいてくる。もう一機は神経質そうに辺りをキョロキョロさせながら銃を向けている。
『――ったく、早く済ませろよ』
浜辺は一瞬でパニックになっていった。
「きゃーーーー!」
「バイパー団よー!」
「助けてくれーー、殺さないでくれーー」
周りの観光客が逃げ始めた瞬間、BMが空に向けて銃を数発撃ち放った。全員ビクッと動きを止める。
『――はい、動いたら全員コロスからなー』
走り始めた水着の人達も銃声を聴くと震えることしかできない。銃口を向けられるとしゃがみ込んだり意識を失ったりしていた。
「もう終わりだ……」
「殺さないで……殺さないで……」
悲鳴や諦めの声がそこかしこで聞こえてきた。
私達の前までBMを移動させると一機がハッチを開けた。中に居るのは如何にも盗賊団といった風体の男だった。
「ウヒョー! たっぷり可愛がってやるぜ!」
『――よし、そこの似た水着の二人、若い方の二人組だ。そっちはバリーのコクピットに乗りな!』
「私達?」
どうやらアリアとローズのことを言っているようだった。怯えるローズ。そっとイヤホンをするアリア。
「うへへ、そっちのオッパイとモデルみてーな細いヤツはドミーのBMが来るまで待ってなよ」
『――しゃーねー。少し待ってろ』
もう一機も警戒しながら浜辺に近づいてくる。そちらに目を奪われていると、突然ボロい袋がアリアの目の前に飛んできた。
「そこの女、集金係だ。お前が周りのヤツらから金目のものをその袋に入れさせろ。集めたらこっちに来いよ。お前、タイプだから可愛がってやるぜ。グハハハ!」
一応袋を確認。親指と人差し指で摘んで持ち上げてみる。
(汚い。それに臭いー!)
周りの人達はバリーのセリフを聞いて財布をアリアに渡そうとしていた。しかしそのまま海に投げ捨てた。
周りの海水浴客は驚いて声も出ない。
「嫌よ! 汚いし。何で盗賊の片棒を担がなきゃいけないのよ!」
盗賊相手に両手を腰にして叫ぶ水着姿のアリア。
「だ、ダメよ。怒らせたら私達、殺されちゃう……」
不機嫌そうになる盗賊の男。それを見て怯えている周りの人達。恐怖に座り込んでしまう。
「じゃあ、仕置きだな……」
『――バリー、全員殺すなよ。お前は手加減ってものを知らないからなぁ』
「うるせー、そん時はそん時よ! そのネーチャンを恨みな!」
躊躇無く銃を乱射する盗賊団のBM。後ろの方で海の家が数軒バラバラになって燃え上がった。
「なんて事をするの!」
アリアが叫ぶと、汚いものでも見るような目で睨みつけてきた。
「お前……面倒だな。死んどけよ」
ライフルを構えて浜辺に固まるアリア達十人ほどに狙いをつけた。怯えるローズ、パティオ、その他の人達。カミナはバイクに跨るや否やスピンターンしてハンガーの方に浜辺を全速力で走り出した。
「クソッ! 少し待ってろ!」
『――待つわけねーだろ!』
もう一機がカミナのバイクに狙いをつけ、容赦無く射撃し始めた。しかし透明な何かに銃弾が防がれた。
『――んー? 何だ、何に弾かれた?』
「へへへ、ドミー、お前バイク一台倒せねーのか」
『――うるせーぞ、バリー。何か嫌な予感がする。ソイツら攫って一回戻るぞ』
「あっ、そうか。おい、さっきの女三人、早くこっちに来い!」
ライフルをアリア達に向ける。アリア以外の全員、腰が抜けたのか座り込んでいる。しかしアリアは一歩前に出ると腰に手を当てて仁王立ちだ。
「そんな臭そうなBMに乗るわけないでしょ!」
照準の前に立ちはだかるアリア。
「じゃあ、まず私が相手するわよ」
ローズとパティオの前で水着のアリアは仁王立ちを崩さない。
「エロいことでもしてくれるのか、水着の姉ちゃん?」
『――陵辱回かよ! 興奮するなぁ』
「うへへ、お前ら三人は早く俺のBMに乗りな! アジトで気持ちイイこと死ぬほどしてやるぜ。うへへへ!」
アリアはここでニヤリと微笑みながら叫んだ。
「オリハ、来なさい!」
『――アイヨー』
アリアの後ろの空間が割れてコクピットが現れた。ふわりと浮き上がったアリアがコクピットに吸い込まれると、また空間が閉じるかのように見えなくなった。
実際には熱光学迷彩を纏って待機していたオリハがアリアを乗せただけだ。ハッチを閉めてしまうと手品よろしくアリアは消えたように見えた。
「な、なな何だ! どこ行った!」
『――センサーからも生体反応が消えた! 魔法かなんかかよ?』
バリーも流石に危険を察知してか、後退しながら無闇に乱射し始めた。が、その瞬間ライフルが爆発した。それを見たドミーがライフルをローズ達に向けるが、今度は撃つ前にライフルが爆発した。
オリハが正確にライフルを射撃していた。一瞬で二機とも右手ごと武装を失った。
「流石オリハ!」
アリアはオリハの中でブンブン腕を振り回してバリーとドミーを威嚇していた。オリハの正確な射撃に感激して、今度は身体を左右に揺らしてオリハを誉めまくり。
「キャーー! オリハ、カッコいいー! 素敵よー!」
「ソレホドデモ……アルヨー」
水着にパレオ姿のアリアがコクピットではしゃいでいると、何故か顔文字が挙動不審になっていく。
「ハァハァ、アリア、スコシダケ……」
どうやらアリアの太ももの感触に興奮するオリハ。それに気付くがアリアにはどうすることもできない。ハートマークの蓋が徐々に開いていく。
「きゃーー! ヘンタイー!」
違う声色の『きゃーー』がコクピットに響く。太ももを椅子から浮かすとアングル的に絵面がエロくなる。それはそれで興奮するオリハ。
「オネガイ、サキッチョダケデ、イイカラ……サキッチョ――」
「――やめろ、バカーー!」
ハートマークの付いた蓋から出てこようとするマジックハンド。それを阻止しようと蓋を閉じようとするアリア。
「イタイ! フタニ、ハサマッテル、イテテ!」
「こらーーっ! 今はダメに決まってるでしょ!」
ドタバタしているうちにカミナ機もやってきた。スピーカーで威勢よく叫んでいる。
『――お待たせー! 動くなよ、動けば撃つ』
「へっ、言うこと聞くバカがいるかよ!」
キャノピーを開けたままバリーは大声で叫ぶと左腕に装備されたグレネードの砲身を向けようとした。瞬時に反応したカミナのライフルが容赦無く開いたままのコクピットに銃弾を叩き込む。
「死ぃ……ゲフッ!」
一瞬血煙が舞い上がると刹那に火花が散った。一瞬の静寂の後、BMの上半身が爆散した。
『――バリー! この野郎、仇討ちだ!』
ドミーがスピーカー越しに叫ぶとバリーと同様に左腕に装備された二十ミリ機関砲をカミナに向けた。しかし、熱光学迷彩に隠れたオリハが左腕を狙撃する。
「私は警告したぜ!」
直後にカミナが粒子ビームを敵BMの上半身に直撃させると、こちらも爆散した。
『――辺りに反応は無い。もう大丈夫だ!』
カミナがスピーカーで叫ぶと周りから歓声が上がった。すると、オリハも熱光学迷彩を解除した。突然現れるBMに驚く周りの人々。
カミナは危険が無くなったことを確認すると、キャノピーを開けてローズとパティオの前に降り立った。キャノピーを開くオリハ。中には震える身体を押さえ付けるように自分を抱くアリアがいた。
「人が乗ってたのよね、アレには……」
血煙を上げながら爆発するBMの姿がまだ脳裏に焼き付いていた。
「自業自得だよ」
「カミナさん……」
「見なよ、アレを」
カミナが指差す方向には海の家の残骸があった。そこでは身内や友達の死を悲しむ悲鳴にも似た叫びが上がっていた。
「何人かが死んだらしい。私達はその仇を討ったんだ」
「そんな……」
ローズやパティオも胸を撫で下ろして喜んでいる。この騒動でカミナとアリアはこの街のヒーローになっていた。皆が笑顔をこちらに向けている。皆が褒めてくれる。
でも、アリアの心は晴れなかった。
アリアは武器を壊せば両手を上げて降参してくれると思っていた。そうしたら警察が来て逮捕してくれると思っていた。
(実際は違った。盗賊団は優しい人達に容赦無く銃弾を浴びせる。だから、カミナもオリハも盗賊団に容赦無く銃を向けた)
アリアの身体の震えは止まらなかった。
(私も……同じことをする時がくるのかな。その時、私は……どういう決断をするのかしら……)
その答えは、まだアリアには出せなかった。
◇◇◇
ローズの実家の宿屋の近くまで来たオリハとアリア。熱光学迷彩を使ったまま、宿屋の近くの道路の植え込みまで来ていた。透明なままBMを降着ポーズにする。
「ツイタヨー」
「もう……ローズのとこに着いたんだ……」
アリアは水着から着替えてもいなかった。オリハから降りてローズや皆と会話する気にもなれなかったので、そのまま少し遠くの砂浜でオリハの中から夕陽を見つめていた。日も落ちて暗くなってきたので、宿屋に戻ろうということで、オリハに連れてきてもらっていた。
「ゴホウビー」
「……ゴメンね。そんな気分じゃ無いの……」
少しだけ、自分の考えに折り合いをつけることができた。とはいえ気分が晴れたわけでは無い。一刻も早くシャワーでも浴びて一眠りしたかった。
そんなアリアの暗い回答に不機嫌になるオリハ。
「エーーッ」
「送ってくれてありがとう……少し休ませて」
賑やかな通りがアリアの心を逆に寂しくさせた。シートベルトを外してコクピットから降りようとするが、何故かアリアにゴーグルをはめるオリハ。
「えっ、コラッ、降りるんだって」
「サンザン、ジラシテオイテ、オアズケハ、ダメ」
ここで久々に椅子から拘束ベルトが出てきて両手両足を縛られてしまう。
「お預けって……ちょっと、何するのよ!」
「オシオキ。コノママ、ミンナニ、アリアノ、ハダカヲ、ミテモラオウ」
「へっ?」
ゴーグルのVRモニターの電源が入ると、まるで植え込みに一人で椅子に座っているようだった。ローズの宿屋の周りは人だかりで、お祭りをやっているど真ん中にいるような感じに思えた。
そうなると、急に水着でいることが恥ずかしくなる。反射的に手で隠そうとするが、拘束されてしまっている。
「ちょっと、ヘンタイ! 手を外してよ!」
「ハァハァ……アリア、ミズギ、カワイイヨ……」
椅子に当たる柔らかな太ももの感触に興奮しすぎて正気を失っているオリハ。パカっとハートマークの蓋が開き、マジックハンドがスルスルと伸びてくる。
「ダメだって、みんな見てる!」
「メイサイ、ツカッテルカラ、ミエナイヨ」
優しく椅子に縛られたままのアリア。VRゴーグルのお陰で、あたかも外で水着のまま椅子に縛られているように感じる。
「いや、これは恥ずかしいって!」
「アレー? ミラレテ、コウフンシテルノカ?」
マジックハンドが水着をそっと外していく。アリアからすると、人通りの多い通りの真ん中で裸にされていくようにしか思えない。あまりの羞恥におかしくなりそうだった。
そっと優しくオリハが呟く。
「ゼッタイ、ミエナイカラ。アリアモ、スゴイ、コウフンシテルシ……」
「あんっ、こんなとこで……ダメーッ!」
♡♡♡
「はぁはぁ……うぅ、変な趣味に目覚めちゃう」
「スゴク、ヨカッタヨ、アリア」
ゴーグルが外れると、見慣れたコクピットの中でマジックハンドが脱がせた水着を着せてくれているところだった。
「ヘンタイ! この露出狂、バカ!」
「デモ、ドチラカト、イウト、アリアモ、ノリノリダッタヨ」
アリア、直前の情事を思い出す。確かに『もっと見てー』とか、『私の恥ずかしいとこを見てー』とか叫んじゃってたことを思い出した。
「あ、アレはちょっと気分が昂って、そうよ、ノリで言っちゃっただけよ!」
「エロイ、アリア、カワイイ」
真っ赤になってプンスカのアリア。
「もう当分ゴホウビはお預け!」
「エーーッ、ユルシテー、ユルシテクダサイー、」
――新たに露出趣味を目覚めさせてしまうアリア。クセになると大変だぞ
――でも悲しい出来事を忘れる為に、偶には気持ちイイことも必要だ
――イケ、アリア。オリハとなら乗り越えられる。悲しみも、新たな性癖も、二人で乗り越えていけ
Sector:05 End
二人の絆の回数:五十一回
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