P03:空に落ちた日【03】

「ゲ、ゲンチ、トッタゾ! デワ……」


 バトルマシンは起き上がると脚に装着されたホイールを使って後退を始めた。

 アリアには後ろ向きに走るジェットコースターにでも乗っているような感じに思えた。モニターに映る景色は急速に後ろに流れていく。

 すると、先程まで転がっていた窪みに何発も着弾した。正しく間一髪だ。


「うわー……危なかったー」


 正しくジェットコースターのように左右に身体を振られて楽しくなってくるアリア。


「それにしても凄いわね。動く部屋ごと移動――」

「――コックピット!」


 余裕なさそうに訂正してくれた。


(そうか。コックピットの方がカッコいいわよね)


 感心していたら、今まで自分が居たであろう場所にどんどん何かが落ちてきて爆発が近づいてくる。轟音が響いて激しい振動が襲ってきた。


「ひゃーーー! こ、この部屋は大丈夫なの?」

「ヘヤ……イマ、ノッテルノハ、ノ、コクピット!」

「バトル……へー。そう呼ぶんだ」


 すると、アリアの視界に二足歩行するロボットが視界に入った。


「あのロボットは?」

「ロボット……アレガ、バトルマシン」

「あぁ、あんなのに私も乗ってる……の?」

「……」


 少し呆れるような雰囲気を感じる。


「何よっ! 私バカな子じゃないわ――」

「――シタヲ、カムナヨ」


 オリハはアリアの反論を無視して呟くや否やホイールの回転数が上げて空転させる。その勢いでドリフトのように横滑りして一気にビルの陰に隠れた。ビルの壁にピタリと横付けして動きを止めると爆風が真横から襲ってきた。敵は姿を見失ったのか爆発が止まり静寂がまた戻ってきた。


「オリハ……どうするの?」

「コウイウ、トキハ、ノゾキミー」


 BMバトルマシンの頭部から折り畳まれた細い棒を展開し始めた。そこには小さなカメラが先端に付いていて、壁からカメラだけをそっと出して敵を覗き見している。敵BMは無防備に近づいて来るが、その後方には四、五体が同様に此方に向かって進んでいるのが見えた。


「マズイ、カナ? ズット、ネテタカラ、エネルギーガ、スクナイ……」

「何? お腹空いちゃったの? んふふ、オヤツ持ってないしなぁ」

「ア……アノ……アトデ、ホキュウ、テツダッテクレル? ドウカナ?」


 少しオドオドしているオリハ。こんなに大きな機械を自由に動かせるのに、やっぱり弟みたい。

 ウインクしてから宣言。


「オリハ! さっき約束したでしょ。補給でも何でも手伝ってあげるから!」

「ヤ、ヤクソクッ! ヨーシ、ガンバルヨー」


 機械音声マシンボイスでオリハが元気に叫ぶと、一斉にコクピット内の機器が稼働し始めた。アリアには画面に表示される記号や文字の意味は全く分からない。突然にオリハからオドオドした感じは消えて、FMラジオのDJのようにネイティブ発音で喋り出した。


engage enemy now.

(現在、交戦中)

detect multipul little energe.

(複数の小型エネルギーを検知)

move to counter attack sequence.

(反撃態勢に移行する)

targets lock.

(複数の目標を固定)

mode change ATENA.

(高機動モード『アテナ』に移行)

are you ready?

(準備を確認する)


 椅子に座ったままワクワク顔のアリア。


(オリハ……本気出す時はイケボでしゃべるのね。ふふふ、少しカッコいいわよ!)


 イケボで何かを喋り終わるとゲームパッドがシュルシュルとコンソールに仕舞い込まれた。それと同時に椅子の左右から操縦桿が現れた。アリアが操縦桿をおっかなびっくり握ろうとすると、勝手に動き出した。何となく、操縦桿の動きのまま自分達が動いている気がした。


「凄いね、上手に動かすのねー、カッコいいわ!」

「ハイ、トイエ」


 オリハが余裕なくアリアに問い掛ける。


「えっ、なに?」

「イキタケレバ、ハイ、ココデ、オワリタケレバ、イイエ、トイエ」

「な、ナニそれ? そりゃ死にたくない、死にたくないよ! だから、ハイ、ハイだよ、即決だよ、絶対にハイだよ」


 慌てて答える。ここで間違って機嫌を損ねたら、それこそ命に関わる。ここは応援一択だ!


「オリハ、がんばってー!」

「ケイヤク、セイリツダ。デハ、ツカマッテイロ!」


ok.

(了解)

the order has been approved.

(指令を承認する)

mode change ATHENA complete.

(『アテナ』移行完了)

ready go!

(反撃開始)


 イケボのセリフが終わるとシートベルトがギュッと締まってシートにしっかりとホールドされた。身体の動かなさを確認していると、全面のスクリーンには多数のグラフやプログラムのような文字の羅列、そして図鑑のような映像が画面に展開された。そしてそれは数秒で全て消えて外の風景だけになった。

 言葉を失って固まっていると、突然ヘルメットのようなものがシート背後から出てきて被らされた。視界を失われて焦るアリア。


「ちょっと! 何も見えないのは怖い……わよって、すっごーい」


 文句を言っているとヘルメットの中のモニターには、まるで自分で地上に立って自分の目で見ているような視点の映像が映し出された。


「これは、VRね! スゴイわ!」


 自分の頭を動かすと映像が連動する。動かせば動かすほど、あまりのスムーズさに肉眼かモニター越しの映像か分からなくなり混乱するほどだ。


「オリハ、凄い綺麗な映像……ひぃっ!」


 突如として身体がシートに押し付けられる。VRモニターに映る風景は恐ろしい速度で後ろに流れていく。正しくジェットコースター。ただしレールもない場所を滑るように進んでいく。

 言葉を失うアリアを無視して高速機動で移動するオリハのBM。ビルや電柱を縫うようにすり抜けていく。遠くに動く何かが見えると急減速する。勢い余ってビルの壁に肩がぶつかって停止する。


「ギャッ! 痛たた……ってキャッ!」


 壁にぶつかった衝撃にベルトが身体に食い込む。ベルト越しに撫でていると突然の眩しい閃光にアリアは悲鳴を上げた。オリハの持つ大型のライフルからマズルフラッシュが数回ほとばしっている。

 敵BMに当たったか確認する前に移動を開始して次の標的を狙う。オリハが本気で動かし始めてからは、アリアには何をしてるか全く分からなかった。ただ、ギュンギュン動くと何故か敵が目の前にいる。それを一体ずつ確実に倒していってくれた。

 応援くらいしか出来ない。


「いけーっ! オリハ、がんばれー!」


 と言う訳で、五、六体のロボットが、ものの数分で全てガラクタに変わってしまった。


(カッコいい……ちょっと惚れ直しちゃった)


 装甲車も含めて全て瓦礫にしてしまうと、VRモニターの電源が落ちてヘルメットが座席の後ろに戻っていった。操縦桿も座席の左右に仕舞われて、目の前のコンソールには最初に表示されていた顔文字だけとなっていた。


「ハイ、オワリー」


 オリハの機械音声からも緊張の色が消えたように感じた。アリアもホッと一息。胸元のシートベルトのバックルの真ん中を押すとベルトも座席に仕舞われた。


「ふぅ……あ、操縦桿も締まってくれたのね。広くなって快適よ!」

「ウ、ウン……」

「ホントにありがとう。オリハ、見直したわ!」

「ウン……」


 何故か静かになってしまうオリハ。少し不安に思っていると、おずおずと声をかけてくるオリハ。


「アノ……デワ……ゴ、ゴ、ゴホウビ……クダサイ……」


 何故か緊張しているオリハ。


(そっか、忘れてた。ご褒美かぁ。どうしよう、お菓子とか無いよなー。でも、んふふ。『ご褒美ください』だって。甘えん坊な感じね)


 コンソールの顔文字を人差し指でツンツン突くと、いちいち顔文字が焦る顔に変わる。

 ちょっとアダルトな感じで攻めることにした。


「ねぇ、ご褒美って何が良いの? えへへっ、キスとか? あっ……まさかパンツの写真でも撮るの? この、エロAI。まぁ……命助けてくれたし、それくらいなら……なーんてね!」

「イヤ、ソレハモウヤッテイル」


 瞬時にスカートの乱れを直して両足を閉じる。


(えー、今更隠しても遅いかな? でもリベンジポルノ絶対反対。これは教育的指導が必要ね)


 咳払いしてから風紀委員をイメージに注意開始。


「盗撮はダメで……」

「ヤラセテ……」

「へっ?」


 想定外の回答に困惑するアリア。今度は姉になった気持ちで注意開始。


「お……お姉ちゃんは許しませんよ!」

「ア……エット……ヤ、ヤラセテクダサイ!」


(えっ? もしかして……もしかして……もしかするのー? お姉ちゃんに『やらせて』なんて、エッチ過ぎよ)


 アリアは勝手に姉弟モノをイメージしてしまい背徳感がプラスされる。


(いえ、ダメよ、そんなのダメよ! でも、『やらせて』ってアレのことじゃ無いかもしれないし……)


 一応最後の確認をしてみる。


「な、何をよ……」


 問いかけに答えず、コンソールの顔文字が土下座し始める。画面を見ていると、椅子の肘掛けからベルトが飛び出てきて手首の辺りを縛り付けられる。


「ち、ちょっと! 何するのよっ!」

「ハァハァ……」


 息の荒くなる機械音声。ペダルのある辺りからもベルトが出て来て足首も縛られる。身を捩ってみるが、全く逃げられない。少し怖くなるアリア。


「冗談ならやめなさい! お姉ちゃん、怒るわよ!」

「オ、オネガイ! モ、モウ……ガマンデキナイ!」


 リクライニングが勝手に動き出し少し背もたれが倒れていく。


「ハァ、ハァ……ア、アリア……」


 話を聞かないオリハにキレ気味に叫ぶ。


「ちょっと、ちょっと、や、やめなさい、このドウテイ野郎!」


 すると、ピタリと動きが止まった。ホッと一息。優しく宥め始めるアリア。


「ねぇ、無理矢理はダメで……」

『カタカタ……カタカタカタ』


 コクピットこの部屋全体が震え始める。


「な、なに、なに? 何なの?」

「ド、ド、ド、ドウテー、チャウワーー!」


 癇癪を起こして腕を振り回し、足踏みしながら怒り散らすBM。中にいるアリアにはどうなっているかは勿論分からないが、ヤバそうな状況だけは分かる。激しく揺れるコクピットの中で椅子に固定されてしまっているが頑張って宥める。


「ねぇ、ねぇ……お姉ちゃんの言うことを聞いてー、ちょっと落ち着いてーって、ちょっと!」


 その時、ピタッと揺れが治った。そして、コンソール下のハートが描かれたピンク色の蓋が開いてマジックハンドが飛び出て来た。真っ直ぐアリアの身体に向かってくる。


「いやーーーっ!」

「ヤサシク、スルカラ、スコシダケ、デイイカラ……」


 震えるマジックハンドはスカートの中に入っていった。


「ひぃーーーっ、ダ、ダメーーっ……」



♡♡♡



「はぁはぁ……んっ! はぁはぁ……」


 身体全体は赤く火照り汗が滲む肌を晒すアリア。

 マジックバンドが引っ込んで蓋が閉じた。


(うぅ……終わったのかな?)


「手足……外してよね……」

「アッ、ハイーー!」


 不機嫌に伝えると、慌てたように手足を拘束するベルトが外れ椅子に収納されていく。痕にはなっていない。痛くなかったし、その辺りの配慮は優しい。

 ささっとパンツを上げてブラを整える。


「もーーっ、うぅっ……今まで見られたことも無かったのに……」

「ヨカッタヨ、アリア」


 満足げなオリハに怒りが湧く。


「ひ、酷い……鬼! 悪魔!」

「マ、マタ、オネガイシマス」


 キッと顔文字を睨みつけてプイッと頬を膨らませる。


「イヤよ! フン!」


 すると顔文字がスゴイ勢いで震え始める。文字の色が青くなり、土下座もし始めた。気弱な姿と戦っている時のギャップに少し可笑しくなる。


「ふふ、もう……そういえば、途中でプルプルって震えたら急に元気無くなってたけど、どうしちゃったの?」

「ンッ! アァ……アノ……」


 突然に激しく狼狽える顔文字。音声も今までで一番しどろもどろだ。



――実は、オリハのAIは『女の子とのエッチなこと』について以前のパイロットの記憶から学習していた。しかし、そのパイロットもだったのでマトモな学習はできていなかった。オリハも興奮しすぎて本格的にエッチなことをする前に、かなり中途半端に早い感じで果ててしまっていた。


 流石は超々高性能AI人工知能。変なとこまで完璧にシュミレートしている



「ウゥッ……キ、キニスルナ……イエ、キニシナイデクダサイ……オ、オネガイ……イワナイデ……」


(なんか顔文字も声も凄く申し訳なさそうよ……)


 因みにだが、アリアも初めてだったので本格的に行為が始まる前に相手がイッてしまったことには気付けない。


「ふーん、体調悪かったり、怪我とかじゃないのね?」

「ハイ……スミマセン。キンチョウシテ……ア、アノ……キライニ、ナラナイデクダサイー」

「ふーん……変なの。じゃあ、今回は命を助けてくれたお礼ってことで許してあげる!」


 パッと顔文字も声も明るくなる。


「ハイ! ツギモ、ガンバリマス!」

「無理矢理エッチなのはダメよ! 分かった?」

「ハ、ハイー……」


 アリアは、自分の方がかなり優位に立ったと感じられた。命を救ってくれたのだから、だけなら我慢しなきゃダメか、そうも考えていた。


(それにしても……一人でする時より興奮しちゃった。さっきのを思い出すと……あっ、ダメよ! きっとこの子の教育にも良くないわ。うん、しっかりしろ、アリア! エッチなのはダメ!)


「ツギハ、サイゴマデ、ガンバリマス」

「なに宣言してるのよ! このエロAI!」



――危機を救うオリハ。そこには無償の愛は無かった



――そう、オリハはアリアがタイプだった



――イケ、アリア。オリハと共に生きる為に



Sector:01 End


二人の絆の回数:一回

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