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P04:傭兵団ワイルド・スカンク【01】

 塵一つない清潔なコクピット、モニターに映る緑鮮やかな森林の雄大な光景。その森の中を進むBMバトルマシンというロボットの中の私。現実感があまりにも無い。この世界に飛ばされた……いや、落っこちた一人ぼっちの私。

 新品のゲーミングシートのような椅子を倒し仰向けでスマホをいじくるアリア。先ほどバッテリー切れのスマホ片手にダメ元でオリハに充電出来るか聞いたら『デキルヨ』と軽く返ってきた。なのでバッテリーは満充電だ。


「何処にも繋がらないけどね……」


 アンテナは立たない。SNSは誰とも繋がれない。友達の近況も分からない。心細さと我が身の不幸を想い目を瞑ると涙が出てくる。そして、目を瞑ると、このロボットを操縦してくれるエロAI人工知能のオリハがパンツを見ようとマジックハンドでスカートを捲ってくる。


「こらーっ、スカートを捲るなー!」

「バレタ、ウヘヘ、ミテモヘルモンジャナイカラ……」

「やーめーなさーい!」


 マジックハンドを平手打ちするとビクッとしてコンソール下のハートの描かれた蓋の中に引っ込んでいく。


「イタイナー……モー、ケチー」


 痛いらしい……。

 この子、オリハって名前のAIなんだけど、ちょっとエロいのよね。あ、私はアリア。松本アリア、十七歳の女子高生よ。半日前この異世界に文字通り放り出され、成り行きでこのオリハと言うAIが操縦する戦闘機動兵器BMに乗っている。


「何回見ても圏外……」


 理解はしたつもりだけど、どうしてもスマホのアンテナを定期的に確認してしまう。落胆の表情と共に天井を見上げる。前の世界ではスマホが三十分も繋がらなかったら大騒ぎだ。


「心の支えはお前らだけか……」


 パケットが無くなった時の為にお気に入りの曲が数十曲ほどダウンロード済みだ。楽曲をタップするとコクピット全体からの音響に包まれた。ノリノリになるアリア。これもダメ元でスマホに接続してブルートゥースの代わりが出来るか聞いてみたら、『デキルヨ』と言ってくれた。


「やっぱり良い曲を聴くとアガるわー。ありがとね!」

「エヘヘ、ソレホドデモ、ナイヨー」


 森の中を進むロボットのお腹の中でくつろぐアリア。コクピット内はエアコンも効いていて快適で、音楽を聴きながらリラックスし始めると徐々に目が閉じていく。この部屋だけは安心して目を瞑ることができる。外の世界ではそんなことできない。

 そう。ここは異世界。それなのにチート能力もステータス表示も無いまま放り出された。持ち物といえば今着てる制服、体操着のジャージ上下、財布とスマホくらい。


(どうなってるの、神様。悪の魔王を倒して欲しいなら、伝説の剣とは言わないから予備バッテリーくらい渡しなさいっての!)


「まぁ、王様にも神様にも会ってないけどね……」


 目を瞑ったまま突然脈絡のないセリフ。ほとんど寝言だ。


「ナニカイッタカ?」

「えっ? な、何でもないっ!」


 恥ずかしくなって少し声を荒げてしまう。


「ハィッ……」


 目を瞑っていたがマジックハンドは出てきていなかった。こうなると少し心配になる。

 もし、オリハの気が変わって外に放り出されたら、多分私はあの半機族変なヤツらのネックレスにでもなってしまう。考えるだけで恐怖に震える。


(ダメダメ、今はこの子が私の味方。たった一人の味方。捨てられることを想像したら……うぅ、怖い。絶対死んじゃう)


 急に不安になって心細くなる。


「ほらっ、マジックハンド出しなさい」


 手を握って欲しい。そう伝えたいが照れてしまうので優しくは伝えられない。何となく顔が火照る。


「エーーッ……ツネラナイデ……」

「ほらっ」


 ハートの描かれた蓋が開き、そろそろとマジックハンドが出てくる。アリアはそれを自分の手の上に重ねた。


「エッ?」

「手を握ってて。少しお昼寝するから」

「アッ、ハイーッ!」


 オリハのことが少し分かってきた。『この子、ちょっとエッチだけど、とっても強いし思ったより優しい』、そう感じていた。今も優しく手を握ってくれる。


「ふわーっ……じゃあ、おやすみなさい」

「ハ、ハイー!」


 目を閉じてみる。すぐに眠気が襲ってくる。しかし 夢現ゆめうつつのアリアに悪夢が襲ってくる。


 一人森の中を駆けるアリア。外の世界は恐怖に満ち溢れている。あの時の……初めての感覚……思い出すだけで体が震える。

 恐らくは、あれが『死への恐怖』、そして『絶望』。


「ううっ……」

「アリア……? ネタ?」


 でも、今は安心できる。

 ほら、手を握ってくれる。

 ほら、護られてるよ。

 良かった。

 オリハと出会えてホントに良かった……。


「すーっ、すーっ……」

「ネタ、カ……」


 アリアが寝たのを確認すると、BMバトルマシンの二つの目が紅く光った。


◇◇


 エロい夢にうなされるアリア。夢の中では下着姿で椅子に固定されて無数の触手に身体をまさぐられていた。何故か不快さは無く、触手に身体を任せて快感に身を委ねていた。


「んっ……んん……あん、んーっ?」

「アッ、ヤベッ!」


 あまりにリアルな感触にふと目を覚ますと、マジックハンドがスカートを捲っていた。更にもう一本のマジックハンドがパンツを脱がそうと奮闘中だった。スカートで見えないが、既にパンツは太ももの辺りまで下げられた感触がする。


「こ、こらーっ! 何してるのよ!」

「ワー、バレター!」


 二本のマジックハンドを器用に使ってパンツを履かせてくれた。スカートの乱れをそっと直してアリアの両手を優しく握り締めてくれる柔らかな機械の手マジックハンド。その感触に思わず夢の中の淫靡な光景が思い起こされる。


「ヘ、ヘンタイ! 何でマジックハンド増えてるのよ!」

「スゴイ、デショ。ハンドマニュピレーター、ハ、ニホンマデ。アトハ、タイプ、ナラ、モウイッポン、ダセルヨ」


 自慢げなオリハ。どんどん変な想像をしてしまい顔真っ赤なアリア。


「ダイタイ、ミタッテ、ヘルモンジャナイシ……アレ? アリア、ドウシタ?」

「へっ?」

「カオ、マッカダゾ。タイチョウ、ワルイカ?」


 ビクッとするアリア。


(ヤバい、変なことばっかり考えちゃう!)


 目を瞑りながら頭の上の方を両手で払ってエロいイメージを払い飛ばす。すると、マジックハンドがアリアのおでこをそっと触る。


「ネツ、ハ、ナイネー。」

「ひっ!」


 柔らかなマジックハンドに優しく触られてビクッとするアリア。


「も、もう、閉まっときなさい!」

「ヘーイ……」


 コンソール下に収納されて蓋がパタンと閉まった。アリアが不服そうに顔文字を睨む。オリハは今の状況が理解できない。

 その時、『グゥーー……』と謎な音がコクピット内に響いた。


「ン? ナンノ、オトダ?」


 キョロキョロする顔文字。アリアは頬を赤く染めながら片手を小さく上げた。


「……わ、私よ。お腹の音よ」

「オナカノオト……」

「お腹空いたのー! 突然この世界に現れて、一悶着あって……」

「デ、キモチイイコト、シタラ、ハラヘッタカ?」

「ぶっ! うるさい! そもそも悪戯するな! ううっ……大きな声出したら余計にお腹空いてきた……」


 アリアはお昼ご飯を食べてから部活に突入。家に帰れば夕飯というタイミングでこの世界に落ちてきた。そこから半日以上経過しているので、ほぼ丸一日食事をとっていなかった。


『ググゥーーーー……』


 更に大きなお腹の音。恥ずかしさより空腹の方が辛い。もうダメー。お腹を抑えて恨めしそうに顔文字を見つめるアリア。


「ソウカ、ショクジ、ガヒツヨウ、カ」

「そうよ。ご飯食べなきゃ死んじゃうわ。ねぇ、オリハは燃料とか要らないの?」

「クウキ、ヤ、ミズカラ、ホキュウデキル」


(便利なヤツめ)


 今は心底羨ましく思うが、美味しいものを食べるって分かんないのかな、と少し不憫に思う。


「マァ、アリア、カラモ、ホキュウ、シテルケド……」

「んっ? なんか言った?」不機嫌だ。

「イエ、ナンデモアリマセン。デハ、ショクジ、ニ、アリツケソウナ、バショニ、イコウ」


 コンソールに顔を近づけワクワク顔に変わる。


「えっ? どこどこ? 何食べに行くの?」

「エット……アッタアッタ。ヨウヘイダン『ワイルド・スカンク』ット……」

「…………へっ?」

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