第25話 信じてくれるのですか!?

 困惑する俺の横で、お嬢さまとロレンスは、側妃様や、他の王子や王女の話に花を咲かせていた。

 するとエリックは、ぱんぱんと大きく手を叩いて、


 「そんな事より、問題はリーシャの事でしょう。どうするつもりです?」


 そこで(ん?)と訝しく思った。どうしてエリックが俺に敬語を使ってるのか不思議に思ったのだ。


 「いや、まぁ・・・俺は、なるべくあいつと関わらないようにするだけ・・・」


 そこまで言って、ハッと気づいた。しまった!ロレンスがいたんだっけ!


 「そっ・・・わ、わたくしは・・・だから・・・」


 慌てて言い直そうとして、しどろもどろになってしまう。

 エリックがそんな俺を見て、渋い顔で眉間を親指と人差し指ではさんで首を振った。

 するとロレンスがこてんと首を傾げながら聞いてきた。


 「ねぇ、エルシーとアッシュって、とても変だと思うのよね」


 ドキッと胸が鼓動する。


 「へ、変って何がでしょうか?お・・・ほほ」


 取り繕うようにお嬢さま言葉を使ってみるが、ロレンスは濃い顔でキラリと瞳を光らせた。


 「最初はね、アッシュの事は私と同じ性質だと思ってたのよ。だけど一緒に仕事をして分かったわ。アッシュの中身って、まるっきり身分の高い貴族のお嬢様みたいなのよねぇ」


 ドキッドキッ!


 (ヤバい・・・し、心臓が・・・)


 どうやらロレンスはかなり鋭いようだ。

 助けを求めるようにエリックの方を見たが、腕を組んだまま方眉を上げて、ロレンスの言う事を黙ったまま聞いている。

 そして当のお嬢様はと言えば、話を聞いてるのか聞いてないのか、いつもと変わらぬ様子で、すましてお茶を飲んでいる。


 (え!?焦ってんの俺だけ?)


 するとロレンスは俺に目線を移した。


 「それにね、エルシー?」


 「は、はははい!」


 ロレンスに見つめられ、勝手に背筋がのびた。


 「あなた、貴族のお嬢様にしては花や庭木に詳しすぎるのよ」


 「・・・っ」


 「最初は単にお花好きのお嬢様なのかと思ったけど、それにしては知識が多すぎなの。手伝ってくれる時も、手際が良すぎるし。それにね、この屋敷の庭園についても不思議に思ったのよねぇ」


 「な、何がですか?」


 冷や汗をかきながら聞き返す。


 「わたくしがここに来た時には確かに少し荒れてたけど、以前はかなりきっちりとお世話されていた庭だったはずよ。それは直ぐに分かったわ。だけど、確か前任の庭師は仕事を怠けたから、クビになったのよねぇ?」


 「え、え~っと・・・・」


 (どう言って誤魔化せば良いんだ・・・?)


 「だとしたら、この庭を世話していたのは庭師見習いのアッシュのはずよね?でも一緒に仕事していてアッシュには庭師の知識がほとんど無い事が分かったわ。これはどういう事なのかしら?」


 ロレンスの追及に俺は言葉に詰まってしまった。


 (駄目だ・・・言い訳が思いつかない)


 そんな俺を見ながら、エリックは深くため息をついた。


 「これ以上ロレンス様をごまかし続けるのは難しいでしょうね。肝心のお嬢様には取り繕う気が全くありませんし」


 そう言うと俺の姿で優雅にお茶を飲んでいるエルシアーナお嬢様をジロリと睨む。


 「ロレンス様には全てお話したうえで、協力を願いましょう。信じて頂けるかどうかは分かりませんが・・・」


 「エ、エリック!?」


 「あきらめろ、アッシュ」


 だけど俺は不安で仕方なかった。


 (こんな荒唐無稽な話、信じろなんて・・・)


 だけどロレンスは濃い顔に興味を持ったという表情を浮かべて、エリックを促すように前のめりになった。


 「話してちょうだい。わたくしは結構、柔軟な考え方の持ち主だと自負しているから。もしかしたらあなた達の力になれるかもしれなくてよ」


 「柔軟な考え方・・・」


 俺は公爵子息でごつい体と濃い顔、そして庭師の腕と貴婦人のような物腰のロレンスを見た。


 (確かに)


 そう思ったけど、口には出さなかった。


 「では、最初からかいつまんで説明させて頂きます」


 エリックはそう言って、真面目な顔でロレンスに向き直った。



           ◇◇◇



 「なるほどねぇ・・・そういう事だったの。これで疑問が解けたわ」


 エリックが俺とお嬢様の体が入れ替わった経緯を説明した後、ロレンスは納得したように何度も頷いた。


 「え!?信じてくれるのですか!?」


 思わずそう聞き返してしまった。だってこんな摩訶不思議な話を、大人が信じてくれるとは思ってなかったのだ。


 ロレンスは「うふふ」と笑った。


 「もちろん信じるわよぉ。疑問が解けたって言ったでしょ?アッシュはともかく、エルシーは全く演技してないんだもの。今までずっと違和感を感じていたのよ。それにあなた達・・・特にエリックが、こんな作り話をするわけはないものね」


 ロレンスがそういうと、エリックは彼に慇懃に頭を下げた。


 「ありがとうございます、ロレンス様」


 「それにね。わたくし、同じような話を前に聞いた事があるのよ」


 「え!?」


 「どういうことでしょう!?」


 ロレンスの言葉に俺とエリックは聞き返した。ずっと素知らぬ顔でお茶を飲んでいたお嬢様も顔を上げてロレンスに目を向けた。


 「体が入れ替わってしまうという話・・・よ。正直に言うとこの話、あまり他言してはいけないの。この国でも王家か公爵家しか知らないと思うわ」


 その言い回しにエリックは眉をひそめた。


 「聞くことで、後でロレンス様にご迷惑がかかりませんか?」


 「そうねぇ・・・でもあなた達は言わば当時者でしょ?このまま放っておく方が、後から困ったことになりかねないと思うのよ」


 (なんだ、それ・・・)


 ロレンスの思わせぶりな言葉に、不安が募る。エリックの表情も固い。

 しかし、そんな空気を全く読んでくれないのがエルシアーナお嬢さまだ。


 「ちょっと!いい加減にさっさと話しなさいよ、ロレンス!そこまで言っといて、先を話さないなんて、いやらしいわよ!」


 お嬢さまは紅茶のカップをテーブルに置くと、


 「王家か公爵家しか知らない話なんて、聞きたいに決まってるでしょ!さっ、どんな話なの?早く教えてちょうだい!」


 そう言ってテーブルに両肘をつくと、両手で自分の頬をはさんだ。


 (お~い、男でその立ち振る舞いはちょっと)


 少しキモいだろ?と思ったけど、口には出さなかった。


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