第23話 薔薇は薔薇
お嬢様には王子に気に入られるように厳命されてはいるけれど、正直どうやって良いかも分からないし、どうせだったら、俺はお嬢様には本当に好きな相手を目指して欲しい。
二人は口喧嘩ばかりしているけど、妙に気が合ってるところもあるのだ。
だから、お嬢様には悪いけど、俺は正直に自分の気持ちを王子に伝える事にした。
「やっ、その・・・私が夜会に来てるのは、そうせざるを得ない事情があるからでして・・・」
そう言うと、王子は一瞬、片方の眉を上げたが、直ぐにどこか達観したような目になった。
「なるほどな、婚約者候補に選ばれてしまったら、例え嫌でも君達からは断れないからな」
「い、嫌だなんて・・・まさかそこまでは思わないですよ。なんてったって相手は王子なんですから・・・あはは」
何とか持ち上げようとしたけど、王子の表情はまさに面を被った様になってしまった。目元の仮面がやたらキラキラしてるが、目が死んでいる。
(まいったなぁ・・・)
そう言うつもりじゃ無かったんだが。
俺はどうしたら良いのか、頭を振り絞った。
「何て言ったら良いのか・・・王子は、例えるなら満開の薔薇みたいなもんでして、その見た目の華やかさとか、香りの素晴らしさで、沢山のものが集まって来るんですよ」
「分かります?」と聞くと、王子が顔を上げて、俺を見た。
「まっ、そん中には純粋に薔薇が好きな人もいれば、それを使って金儲けしようとする者もいるだろうし、綺麗な蝶も集まってくれば、悪い虫なんかも寄って来るわけでして」
「それで?」
王子が聞き返してきた。
(おっ!少しは俺の言う事に興味を持ってくれたかな?)
「だけど、薔薇は薔薇ですよね?私はどんな花も好きですけど、薔薇は割と特別な方なんですよ。結構我儘な花で、ちゃんと世話しないと花は咲かないし、すぐに枯れようとするし、虫は付きやすいし、でも世話をして大輪の花が咲いた時は、美しさに震えるぐらいなんです。ほら、王宮の庭にも素晴らしい薔薇園があったじゃないですか! 」
「王妃の薔薇園の事か?」
「王妃様の薔薇ななですね!さすがだなぁ。きっと庭師は良い腕なのでしょうね」
なんか、話が逸れた気はするが、王子の機嫌は直ったようだ。
「だから、私なんぞは『王子様はかっこいいな」なんて遠巻きに見ている一人だと思って貰って良いんですよ」
実際そうだからな。男としては妬けるぐらい、この王子は出来過ぎだ。
「だが、私の婚約者候補にされて、窮屈な思いをしているんじゃないのかい?こんな趣味の悪い夜会に出なくてはいけないし」
王子は仮面をつまんで、顔をしかめた。
趣味が悪いか。どうやら仮面舞踏会はお気に召さないらしい。
「そうでも無いですよ。夜会に来ると、美味いものがたらふく食べれますから」
それ以外に楽しみは無いけどな。
「確かに、皿に沢山盛ってたね」
「おっと見てましたか?」
俺は頭を掻いた。もりもり食ってた所を、目ざとく見られていたらしい。
「女性があんなに食べるのを初めて見たよ」
「いや実は、お代わりしたいところを、今我慢してるところでして・・・」
正直にそう言うと、彼は一瞬目を丸くした。
そして、身をよじりながら吹き出したのだ。
「ぷっ・・・くっ・・・あははは・・・」
(おうっ!大笑いしてんじゃん)
その様子は、大人の仮面を脱ぎ捨てた16歳相応の少年に見えた。
「良いですね。そういうのも、もう少し他の人の前で見せたらどうです?」
俺がそう言うと、王子は虚を突かれた様な顔をした。
「え?」
「取り澄ました顔より、ずっといいっす・・・ごほん、え~、良いですよ。好感が持てます」
「な、何を・・・」
王子は言葉を詰まらせた。少し頬が赤い。照れてるのだろうか?
(ふ~ん、結構可愛いとこあるじゃん)
一国の国の王子とは言え、中身は俺と同い年の少年だ。孤児院を出て以来、エリック以外の友人がいなかった俺は、なんだか嬉しくなった。
「笑うな・・・」
隠す様に片手で顔を隠す王子に、「笑ってませんよ」と言いながら、おれはにやにやしてしまっていた。
そんな時だった。突然、会場の真ん中あたりで「きゃあっ!」と悲鳴が上がった。
(何だ!?)
見ると、そこには目元に派手な仮面を付けた女性が興奮した様に顔を真っ赤にして、さらに自身の赤い髪をも燃え上がらせるようにして仁王立ちしていた。
(メラニー嬢!?)
そしてその足元には、リーシャが頬を押さえて床に倒れ伏していたのだ。
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