第15話 新しいキャラ付けとトラブルメーカー
「安心しろ、お嬢様の評判は悪くなってない」
次の日、集まった四阿でエリックはそう言った。
「でも、完全に言葉使いを間違ってたんだ。周りのご令嬢達の様子もおかしかったし・・・」
俺は、夜会での出来事をエリックとお嬢様に打ち明け、頭を下げて謝ったところだった。エリックは安心しろと言ったが、ヘマしたのは確実だ。
「ごめん、あんなに言われてたのに失敗した。リーシャに罠にかけられそうで、焦ったんだ」
俺はエリックの辛辣なダメだしと、お嬢様の叱責を覚悟した。だけどエリックもお嬢様も、全くそんな素振りを見せない。
「大丈夫だって言っただろ?いや、むしろ良い線を攻めたかもしれないぞ・・・」
どう言う意味だ?
何故かエリックは満足げに頷いている。お嬢様も、夜会前はあんなにしつこく注意してきたのに、あまり気にして無さそうで、
「だいたい、ちょっと立ち振る舞いを習ったからって、私のような侯爵令嬢が務まるはずが無いじゃない。お前の失敗なんて織り込み済みよ。まぁ、ダンスでヘマしなかっただけマシだわ」
「それに、お嬢様の評判は元から地に落ちてますからね。ふむ・・・今回の夜会は思わぬところで、イメージ改善に役立ったかもしれないですねぇ」
「ちょっと地に落ちてるって・・・エリック!それ、どう言う意味よ!?」
いつもの言い争いが始まりそうだったので、俺は慌ててエリックに聞いた。
「良い線を攻めたとか、イメージ改善ってどう言う事だ?俺、絶対にやらかしてるけど・・・」
「だけど、リーシャの罠は上手くかわす事が出来たんだろ?もう一度、その時の状況を詳しく説明してくれ」
俺は、リーシャとのやりとりを再現し、その時の周りの様子を説明した。するとお嬢様はなんとも言えない、むず痒そうな表情で俺に言った。
「お・・・お前、人前で良くそんな、気障ったらしいことが言えるわね」
「え?」
「お嬢様、これはこいつの素です。これで今までどんだけ、周りの女子を舞い上がらせてきたことか」
「は!?俺、そんな事した覚えは無いぞ!」
「お前は気づいて無かったけどな。何せ完全に天然だ」
エリックは何を言ってるんだ?
「け、喧嘩を売られたり、争い事が起きそうなときは、相手を褒めると回避できるんだよ。ハンスさんの暴力だって、最近はこれで防いでたんだ」
エリックは呆れたように肩をすくめた。
「普段でもやってるんだよ。だからお前、メイド達には受けが良いんだよな。それに男相手でも通用してたんだから、女子に使ったらヤバいのは分かるだろ?まぁいいさ。おかげでお嬢様に良いキャラ付けが出来た」
「良いキャラ付け?」
「何よ、それ?」
エリックはニヤリと笑った。こいつがこういう笑い方をするのは、心底悪巧みを楽しんでいる時だ。
「お嬢様は、同年代の女子の中では高身長。スラリとしてるが骨格はしっかりしていて、出るとこは出てない。しかも黙ってりゃ、普通に美少女です。少しきつめなとこも高ポイントですしね」
出た!エリックの褒めと貶しのハイブリッド。
「ちょっと!美少女ってとこしか認めないわよ!」
案の定、お嬢様がいきり立つ。
「落ち着いてくださいよ。そんな年齢的にも中性的で、容姿の整ったお嬢様が、男言葉で甘い言葉をささやいたんですよ?そりゃ、夢見がちで世間知らずな小娘達はのぼせ上がるでしょうよ」
(エリック・・・滅茶苦茶、口が悪いぞ)
「何せ、あのリーシャですら丸め込んだんだからな。大したもんだ」
「別に甘い言葉をささやいた訳じゃないし、丸め込んだつもりも無いぞ!」
くっくっくと楽しそうに笑うエリックに、俺は若干引いてしまう。
するとお嬢様が不機嫌そうに口を挟んだ。
「ちょっと!さっきから出てる、そのリーシャって、いったい何なのよ?」
腕を組んで、面白く無さそうな顔をしている。
「一応、貴族の子なんでしょ?どうして、貴方達が知り合いみたいに話すわけ?」
俺とエリックは顔を見合わせた。どう説明すればいいだろう?どうしてか、お嬢様は機嫌を損ねてるみたいだ。これはエリックに任せる方が良いかな。
エリックもそう思ったのか、リーシャの説明を始めた。
「リーシャは昔、私とアッシュが居た孤児院に一緒にいたんですよ。言わば、同郷みたいなもんです」
「え?」
お嬢様が驚きに目を見開く。
「何それ!?だって子爵令嬢なんでしょう!?」
「多分、引き取られたんでしょうね。俺達の方が先に孤児院を出たから、経緯は知りませんけど、昔から容姿だけは抜群でしたから」
エリックはだけをやたらと強調して言った。
「見かけの良さを使えると思ったファンドール子爵が、養女にしたんでしょうよ。年は確か、お嬢様と同じですよ。だけど性格は真逆・・・ん?でも似てるとこもあるか・・・」
エリックは考え込む様に口元に手をやった。
「何よそれ?全く意味が分からない無いわよ」
うん、俺にも分からない。
「一言で言えば、彼女はお嬢様と同じトラブルメーカーなんです。だけど、お嬢様は思った事しかやらないし、口にも出さないでしょう?周りが被る迷惑も、我儘の尻ぬぐい程度で済みます。比べてリーシャは内面と行動が乖離してるんですよ。彼女の言う事やなす事は、彼女の心の内を示しているとは言えなくて、それによって周囲が気付かぬ内に自ら落とし穴に嵌るというか・・・」
(エリック・・・説明が難し過ぎるよ)
俺とお嬢様がぽかんとしてるのを見て、エリックはため息をつきながら首を振った。
「簡単に言えば、彼女はとんでもない嘘吐きだって言う事です」
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