第5話

「はぁ!? お義姉さまのくせに生意気よ!」



 尊大な態度をとるアリシアに、私は一歩も引かなかった。


 思えば、この義妹は私から奪ったものはすぐに飽きて捨てていた。

 だからこそ、惜しみない愛情と『居場所』と呼べる場所をくれたフォール様を奪われたくない!


 険しい顔で互いに睨み合っていると、突然フォール様が私の前に立った。



「フォール、様?」

「大丈夫、俺の婚約者はカーラしかいない」



 優しく微笑んだフォール様は、アリシアに不敵な笑みを向けた。



「いや~、初恋の人を婚約者に迎え入れられると思ってに乗ったのだが……まさか、こんな展開になるとは。これには、君のお父上や国王夫妻もさぞかし驚くだろう」

「「えっ?」」



 茶番劇?


 アリシアと共に首を傾げた私に、フォール様は壮大な茶番劇を話した。





 それは、私とお母様がリスタット領に旅立つ少し前。

 貴族の間で、お父様と当時まだ高級娼婦だったお継母さまとのスキャンダルが流れそうになった。

 国の忠臣として、スキャンダルが流れるのは避けたかったお父様。

 その上、病弱だったお母様が長くないと知っていたお父様は、平民だった2人を家族に迎え入れたいと考えていた。

 あわよくば、アリシアを未来の国母に据えたいとも思っていたらしい。

 そこで、お母様と私がリスタット領でお世話になっている隙に、お父様は国王陛下と王妃様に当時3歳のアリシアを非公式に会わせ、2人にスキャンダルを揉み消すよう懇願。

 アリシアの天使のような可愛さの虜になった陛下と王妃様は、お父様のスキャンダルを揉み消すと共に、アリシアを未来の国母に据えることを約束した。

 その結果、貴族令嬢アリシアが王太子殿下の婚約者になるまでの繋ぎ役として私が選ばれた。





「だからあの日、お父様は私のことを『用済み』とおっしゃっていたのね」



 バリストン侯爵家を出ていく際に告げられたお父様の言葉を思い出し、悔しさで震える手を強く握る。

 すると、フォール様の大きな手が私の手を優しく包んだ。



「家の事情で社交界にあまり出られなかったカーラは知らないだろうけど、君の義妹とフィリップの仲は貴族の間では有名だった。だから俺は、王宮で君のお父上とフィリップが、国王陛下に婚約者の交換を懇願した際、了承した上でカーラを俺の婚約者にするよう仕向けたんだ」

「フォール様……」

「結局、俺も君のお父上と同じようなやり方をしてしまった。本当にすまなかった」

「いっ、いえ! フォール様は何も悪くありません!」



 悪いのは、私をアリシアの踏み台にした人達ですから!


 必死で首を振る私に、申し訳なさそうな顔をしたフォール様が甘く微笑む。



「ありがとう、カーラ。心優しい君を妻に出来る俺は、世界一の幸せ者だ」

「っ!?」

「さて」



 顔を真っ赤にした私から手を放し、再び不敵な笑みを浮かべたフォール様は、愕然とした表情をするアリシアに視線を戻した。



「真実を知っても尚、君はカーラと婚約者を交換するか?」



 煽るように問い質したフォール様に、アリシアは動揺しつつも虚勢を張った。



「あっ、当たり前でしょ! あんな厳しい所にいるより、こんなド田舎で暮らしたい方が、よっぽど楽だわ!」

「アリシア! あなたいい加減に……!」

「分かった」



 再びこみ上げてきた怒りをアリシアにぶつけようと椅子から立ち上がった瞬間、ポツリと呟いたフォール様が力強く私を抱き寄せた。



「フォ、フォール様!?」



 いきなり何を!?


 突然のスキンシップに困惑していたその時、真顔のフォール様が地を這うような低い声で義妹を脅した。



「ならば、君の父上に伝えろ。『王族の覚えがめでたくとも、不貞野郎が溺愛している娘からの要求は、リスタット辺境伯家の人間として断固拒否だ』と」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る