第3話
「うっ、ううっ……」
こっ、ここは……
「あら、起きたのね」
「っ!? レベッカ!!」
そうだ、私は冤罪を着させられて無理矢理牢屋に!
松明が灯る薄暗い牢屋で目を覚ました私は、鉄格子の向こう側で楽しそうに嗤っているレベッカに駆け寄る。
すると、豪華な扇子を広げたレベッカが口元を隠した。
「公爵令嬢である私を『レベッカ』呼ばわり……もしかしてあなた、私と同じ転生者なの?」
「そうですけど。ということは、あなたも私と同じ転生者だったのね」
まぁ、レベッカが『聖女』の称号を得たと知った時点で分かっていたけど。
冷たい鉄格子を強く握る私に、レベッカが笑みを深める。
「えぇ、それも8歳の時に前世の記憶を思い出したの」
「っ!?」
10年前に前世の記憶を思い出したの!?
「そういうあなたは、つい最近思い出したのかしら?」
「……その通りよ」
それも、数日前にね。
「あらあら、それはご愁傷様」
「ハッ、思ってもいないくせに」
そうじゃなきゃ、本編開始前に魔王を倒そうなんて思わないはず。
鼻で笑った私を見たレベッカが突然、昔話を始めた。
「最初は、『私が悪役令嬢!?』って愕然したわ。でも、前世の記憶を思い出した時、ヒロインはまだ聖魔法を発現させてなかったから、大好きな乙女ゲーの世界を救うために動いたわ」
「断罪回避のためじゃなくて?」
こういうのって、大抵は断罪回避のために動くじゃないの?
「それもあるけど……私も、前世で『チューリップ国の聖女様』はやり込んでいたから、少しでも早くこの世界を救いたかったの」
「レベッカ……」
「それに、ヒーロー達とそれなりに接点があったら、『前世の知識を使って彼らと協力すれば、魔王を倒せるんじゃないかな』と思って」
「でも結局、魔王とは和解したんでしょ?」
「まぁ、そうね。正直、ゲームとは違う展開で驚いたけど……何はともあれ、この世界を救えて良かったわ」
懐かしそうに話すレベッカを見て、不意に彼女が『聖女』と呼ばれていることに疑問を覚えた。
「でも、悪役令嬢であるはずのあなたが、どうして聖魔法を使えるの?」
ゲーム本編で、悪役令嬢レベッカが聖魔法を使えるという話は一度も出ていないはず。
「それは、我がアーネスト公爵家が元々、聖女を排出する家で私が聖女の血を受け継いでいたからよ」
「えっ!? そうなの!?」
「えぇ、そうよ。でもまぁ、私も偶然、書庫で聖女に関する古い記述を見つけて知ったから、恐らく最後に聖女を排出したのは随分前よ」
「へっ、へぇ~」
そう言えば、ゲームのレベッカは大の勉強嫌いで、『自分の適正魔法も知らない上に、屋敷の書庫に立ち入らなかった』ってプロフィール欄に書いてあったわね。
まさか、偶然の産物でもう1人の聖女が現れるとは。
レベッカの話を聞いて納得していると、扇子を閉じたレベッカが突如、悪役令嬢らしい笑みを浮かべた。
「でもまぁ、ゲーム本編が始まる前に全クリしたお陰で、私の目的も達成出来そうだし」
「目的? 断罪回避が目的じゃなかったの?」
「もちろんそれもあるわ。だけど、せっかく世界を救って聖女に選ばれたのだから……ね?」
何だろう、断罪された時と同じ嫌な胸騒ぎがする。
レベッカの笑みに険しい顔をした瞬間、レベッカが鉄格子に近づいた。
「私はね、ヒーロー達と逆ハーを作って、ず~っとチヤホヤされたいの♪」
「っ!? あんた、本気で言っているの?」
この国は一夫一妻制なのよ。それを転生者が覆そうっていうの?
「もちろん、この国が一夫一妻制である知っているわ。でも、考えてみて。この国にはキース様を始め、見目麗しいイケメンがたくさんいるのに、たった1人しか選んじゃダメって理不尽すぎない?」
「……あんたの前世、実はビッチだったの?」
「だから!!」
私の言葉を思いっきり無視したレベッカは、笑みを潜めると扇子を閉じた。
「私は逆ハーを実現させるために、隠し攻略キャラを含めたヒーロー達とヒロインの間に接点を一切持たせなかった。その上で、あんたを国外追放するようキース様を唆したのよ」
「なっ!」
それじゃあやっぱり、あの時キース様に囁いたのは、私を国外追放するための真っ赤な嘘だったのね!
下唇を噛んで鉄格子を握る私を見て、下卑た笑みを浮かべたレベッカが高笑いをした。
「アハハハハッ!! 逆ハーが叶う上に可愛いヒロインの悔しそうな顔を拝めるなんて!悪役令嬢として転生して良かったわ!!」
「っ!! レベッカーー!!」
あんただけは……家族を奪ったあんただけは、絶対に許さない!!
その翌日、私は朝日が昇ると共に国外追放された。
そして数日後、レベッカは特例でヒーロー達と逆ハーレムを築いた。
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