第2話

 前世の記憶を思い出して数日後、完全復活を果たした私は、お母様から贈られた深い緑色のドレスに身を包んで卒業パーティーに出席した。

 友人達との会話に花を咲かせていた私は、ヒーロー達と仲睦まじく談笑しているレベッカを盗み見る。


 ハニーブロンドにルビーのような瞳で人目を惹くような容姿に加え、頭からつま先まで洗練された所作……さすが公爵令嬢であり聖女様。



「まぁ、そのお陰で穏やかな生活を過ごせたのかもしれないけど」

「アリア、どうしたの?」

「ううん、何でもないわ」



 とりあえず、卒業パーティーでレベッカが誰を婚約者に選ぶか確認しないと……個人的には、王太子殿下のキース様が選ばれるじゃないかな?


 婚約者候補にあたりをつけた私が視線を戻そうとした時、私と目が合ったレベッカが小さく口角を上げる。


 っ!? 何、この嫌な予感は?


 レベッカの笑みに妙な胸騒ぎを感じた瞬間、レベッカに何かを囁かれたキース様が、私を見つけると険しい顔で指差し、ゲームで何回も聞いた台詞を口にした。



「アリア・キャンベラ侯爵令嬢! 貴様は聖女レベッカに嫉妬し、あろうことか彼女に危害を加えた! よって、貴様を国外追放に処す!」

「っ!?」



 これってもしかして、ゲームでレベッカが断罪されたシーンじゃない!

 というか、どうして私が冤罪かけられた断罪されなくちゃいけないの!?


 思わぬ断罪シーンに言葉を失った私は、慌てて首を振ると震える足でキース様達がいる場所まで駆け寄り、その場で膝を折った。



「お待ちください殿下! そもそも私は、聖女様に対して嫉妬などしておりませんし、危害を加えるなど恐れ多いことをしておりません!」



 そりゃあ、本編が始まる前に悪役令嬢が魔王と和解したことには驚いたけど、それに対して嫉妬なんてしていない。

 むしろ、感謝している。

 彼女が活躍してくれたお陰で、多くの犠牲を出す前に世界の危機が救われたのだから。

 それに、レベッカの周りにはキース様だけでなく、宰相の息子ルカ様、騎士団長の息子アレックス様、そして隠し攻略キャラであるクラウス先生がいたから、危害を加えるどころか近づくことすら出来なかった!


 レベッカを守るよう立っているヒーロー達を一瞥した私は、震える手を胸の前で組んで弁明した。

 すると、パーティーに参加していた壮年の夫婦が突然、私の隣に来て揃って膝を折った。



「殿下、無礼を承知で申し上げます! 私たち夫婦は、王命でアリアを引き取り育てました。ですが私たちは、アリアを本当の娘のように育て、たくさんの愛情を注いできました。だから分かるのです。アリアがそんなことをするはずがないと!」

「そうです! とても心優しく、困っている人には手を差し伸べられる我が娘が誰かを……聖女様を虐めるようなことをするはずがありません!」

「お父様、お母様……」



 病気で1人息子を亡くしたキャンベラ夫妻は、王命で孤児院育ちの私を引き取ると、愛情を知らなかった私にたくさんの愛情を注いでくれた。

 お陰で、使用人達ともすぐに打ち解けられた。

 そして、お母様からは貴族としての知識や礼儀作法、お父様からはあらゆる魔法の使い方を教わった。

 特に、ヒロインの得意魔法である聖魔法と回復魔法は、専用の家庭教師をつけてくれただけでなく、治癒師の資格を取るよう勧めてくれた。


 いつも優しくて頼りになるお父様。時に厳しく時に優しいお母様。


 そんな2人が涙に堪えながら必死に訴える姿に小さく下唇を噛む。

 すると、キース様が鼻で笑った。



「フン、聖女レベッカに危害を加えた時点で、国外追放に決まっているだろうが。おい、お前達! 明日の国外追放まで、その罪人が逃げないよう城の地下牢に閉じ込めておけ!」

「「ハッ!!」」



 えっ!? 明日国外追放されるの!? 無罪なのに!?



「殿下、お待ち……キャッ!」

「ほら、さっさと立て! この罪人が!」

「っ!」



 ちょっと! 本当にやってないんだってば!!



「お父様! お母様!」

「「アリア~!!」」



 突然訪れた今生の別れに抗おうと、育ての両親に向かって必死に手を伸ばす。

 だが、キース様に命じられた騎士達がそれを許すはずがなく、抵抗する私の意識を強引に奪った。


 意識が途切れる直前、乙女ゲーのヒーロー達が冷めた目をしている横で、レベッカが心底楽しそうに嗤っているのを私は見逃さなかった。

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