第4話
悪役令嬢の策略により国外追放されてから1年後、私はチューリップの隣国フリージア帝国の帝都にある治癒院で治癒師として働いていた。
「アリサさん、患者の治癒をお願いします!」
「はい! 分かりました!」
高笑いをしたレベッカが地下牢を出て行った後、私はチューリップ王国と距離を置いているフリージア帝国に身を寄せることを決めた。
と言うのも、フリージア帝国は別名『治癒師の国』とも言われ、治癒師に対しての待遇がとにかく手厚い。
何せ、帝国内の治癒師ギルドで治癒師の資格を提示して登録すれば、仕事の斡旋だけでなく、住居も紹介してくれる上に、名前などの戸籍も変えることが出来るのだ。
お父様から勧められて治癒師の資格を取ったけど……まさか、ここで役に立つとは!
心の中でお父様に感謝しつつ、帝都の治癒師ギルドを訪れた私は、治癒師の資格を提示して登録すると、すぐに名前を『アリア・キャンベラ』から『アリサ』に変えた。
遅かれ早かれ『アリサ・キャンベラ』という名前は、聖女に害を与えた罪人の名前として広まる。
だから、ヒロインと一字違いで前世の名前である『アリサ』にした。
それに、顔も知らない生みの親が付けた名前を、育ての親が大事そうに呼んでくれたから、あまり変えたくなかったしね。
「ほら、アリサ! さっさと行かないと、また院長に怒られるよ」
「うっ、うん! 分かった!」
同僚に急かされ、カルテを受け取った私はそのまま診察室に入った。
それにしても、残業無しで週休二日制が確保されている職場……前世でブラック企業の社畜として働いていた私からすればなんと素晴らしい職場!
今働いている治癒院を斡旋してくれたギルドのお姉さんを心の中で拝んでいる、診察室に患者さんが入ってきた。
「アリサちゃん、今日はよろしく」
「はい、よろしくお願いいたします!」
早速、患者さんから話を聞きながら容態を確認した私は、治癒が必要なところに手を翳すと治癒魔法を唱える。
すると、黄緑と白の光が患者さんを包み込んだ。
「アリサ、休憩に入って!」
「はい!」
診察室を出て、休憩室で同僚と一緒にお昼を食べていると、突然同僚が私の手を取った。
「どっ、どうしたの?」
「いや~、改めてアリサの治癒魔法はすごいなって思って! さすが、帝都イチ……いや、帝国イチの治癒師!」
「あっ、ありがとう……でも、あなたを含めてここにいる治癒師はみんな素晴らしい方達よ!」
言えない。本当は、隣国から追放された聖女の力を持った元貴族令嬢なんて。
でも、ここにいる治癒師達がみんな素晴らしい方達ばかりなのは本当だ。
「エヘヘッ~、アリサに褒められると悪い気がしないなぁ」
照れている同僚に曖昧な笑みを浮かべた私は、自分の手に視線を落とす。
フリージア帝国に来て1年、『治癒師アリサ』は今や帝都で有名な治癒師の1人として広まっていた。
まぁ、どんな怪我や病気も聖魔法を混ぜた治癒魔法で治しているから、有名になっても仕方ないだろうけどさ。
「でも、『アリサが来てから不調を訴える人が減った』って院長が嘆いていた気がする」
「本当?」
「本当だよ。それに、治癒師の先輩達も『アリサの技術は盗めなくても、患者さんに接する姿勢は盗まないと!』って張り切っていたよ」
「そっ、そうなのね」
それは、私が先輩達に言えることなんだけど……
チューリップ王国にいた時とは明らかに忙しい。
でも、あの頃を同じくらい充実している。
「はぁ、いつまでもこんな日が続けばいいのに」
「ハハッ、何それ」
楽しそうに笑う同僚の前で、そんなフラグみたいなことを口にしたからだろう。
昼下がりの帝都に、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。
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