第10話 旅の仲間

「ところでヤスマさん、ここの変わった王令っていつ頃から出たのかしら?

 さっき会った商人は去年はなかったって言ってたけど?」


「そうさなあ。

 最初の王令が出たのはたしか2ヶ月ほど前だったかな……」


 ドワーフが赤ら顔で考えながら答える。


「そう、じゃあけっこう最近なのね。この国がおかしくなったのは……」


「……他にはないか? ワシが分かることなら何でも教えてやるぞ」


「じゃあ、この国の王妃様はお元気かしら?

彼女はたしかバルバレスコの出身だと聞いたわ。挨拶できるといいんだけど……」


「……そいつは今はどうかな。

 エゴン王もサシカイア王妃も2ヶ月ぐらい前から姿を見せなくなったからな。

 いや王妃の方は最近、姿を見せたという噂を聞いたか。 

 まあなんにせよ、今は近衛隊長のドレイクが城の全てを仕切っているという話だ。

 王妃に会いたければドレイク司令官に話を通すのが早いだろう。

 まあドレイクもあまりいい評判は聞かないがな……」


 最後は吐き捨てるようにヤスマがこたえる。


「……そう。では王妃に会うのはまたの機会にしましょう。

 じゃあ本題に入るけど、この町の北にできた新しい寺院について

 あなたの知っていることを全部教えて欲しいんだけど?」


「ようやくその質問がきたか。実はお前さん達とその話がしたかったんだ。

 今回の騒動はおそらく北の寺院がらみなんでな。

 ワシは駆け引きが苦手なんで単刀直入に言うがワシらと一緒に北の寺院を調査して欲しいんだ」


 いきなりのドワーフの申し出に、セラは一呼吸おいて考える振りをする。

 話が出来すぎなぐらい理想的な展開だったからだ。

 だがあまりに早く安請け合いすれば、かえって相手に不信感を持たれかねない。


「……こっちとしてもありがたい申し出だけど、他にもベテラン冒険者はいるんじゃない? なんでわたし達と組もうと思ったわけ」


 二つ返事したくなる衝動を抑え、セラは冷静を装って交渉を続ける。


「北の寺院は表向きには戦の神パワードを、祭っていることになっている。

 だがワシらの手に入れた情報では奥の隠された祭壇に邪神を祭っているらしい。

 あんたらが来る少し前にこの街の腕利き達が調査に行ってるが、残念ながら音沙汰が無いんだ。

 おかげで他の冒険者はこの件に関しては、ほっかむりさ。

 邪神が相手なら、寺院の奥にはアンデッド達もいるだろう。ワシも少しは対応できるがワシだけではな……」


「アンデッドか……」


 正直、一番戦いたくない相手だ。

 それに寺院に行った腕利きの冒険者が帰ってこないという情報にも鍋島は危機感を抱いた。

 おそらくザナックの秘密を知っても、簡単には帰してもらえなかったということだな。やはり魔像の入手は最優先で行わなければならない。

 セラの顔はヤスマの言葉で暗い表情になる。


「アンデッド相手の戦闘はベテラン冒険者ほど嫌がるのは知ってるさ。

 危険リスクが段違いに大きいからな。ただし、高位の神官がいれば話は別だ。

 負死者浄化アンデッドブレスという強力な神の加護があるからな」


「それで、わたし達と組みたいというわけね」


「まあ、そういうことだ。そもそも高位の聖職者の冒険者は、

 教会本部に戻って引退するやつが多いんだ。

 教会も死者の魂を呼び戻せる魔法が使える上位の聖職者はとても貴重だからな。

 前線に出して死なれでもしたら誰が死者を生き返らせるんだって話になる。

 だからあんたみたいに、新顔の聖者級神官は珍しいんだよ。

 普通の手続きならしかるべき大層な理由を作って教会に頼んで派遣してもらわなきゃならん。

 それにワシの連れが大の男嫌いでな。

 お主らみたいに女ばかりのパーティはワシらにとってもありがたいのさ」


「信用してもらってありがたいけど、こっちのパーティにも男がひとりいるわよ。

 今もそこのルナさんを品定めしているわ」


 アキラを横目で見ながらセラがほくそ笑む。

 当のアキラは初めて見る大妖精アーヴのルナを、エールのジョッキを持ちながらチラチラと覗き見しており、セラに急に話を振られてあたふたする。


「おいおいセラ、物騒なことを言わないでくれよ。


 俺はこう見えても紳士なんだ。

 こんなきれいなエルフさんに変なことなんてしないよ!」


「まあワシの見立てでも、彼はそう悪い男には見えんがな。

 ルナに興味は持っておるようだが、大抵の男は似たような反応をする。

 ワシがそばについておるし問題はなかろう。

 ルナもお主達ならば特別、不満はないはずだ」


 笑いながらヤスマが連れのアーヴを見ると、彼女も了承したように両手を軽く開いてこたえた。


「わかったわ。それじゃあ、あなた達とパーティを組むことにする。

 レベルはわたし達の方が上だから

 このグループのリーダーはわたしがやらせてもらうわ。

 気に入らないかもしれないけど、みなさんはわたしの指示に従ってちょうだい。

 それと見つけた宝物の分け前は、財団規定のファウンデーションルールで

 やらせてもらうけどいいかしら?」


「その条件で構わんよ。若いがあんたは思ったより、しっかりしとるようだからな。

 今日からあんたらはワシらの仲間だ。

 これからは全面的に協力させてもらう」


 ドワーフが右手を差し出し、セラも握手で返した。


「じゃあ商談成立ね。それじゃあお仲間結成ついでにもうひとつ。

 北の神殿とは別方向なんだけど、

 ここから北東に邪悪な神殿か遺跡みたいなものがあるのを知らないかしら?」


 シナリオによれば邪神官ザナックは、魔法により不死の肉体を与えられているらしい。それは魂を分離して金剛石ダイアモンドに移すという神格イモータルだけが使える強力な超高位魔法だ。

 この宝石がザナック本人の近くにない限り、いかなる手段でも彼を傷つけることはできない。

 本来はそのままヤスマ達の案内で北の寺院に行き、邪神官と対峙してザナックが自分の不死の秘密を自慢げに話すのを聞いてから、いったん退却することになっている。

 それから魔術士学会アカデミーの資料室にある古文書の地図か、寺院の入口に書かれた詩を手掛かりに北東にある神殿を探し出し、死霊スペクターが守る遺跡の最奥の部屋に隠された彼の魂が入った宝石の魔像を手にいれなければならない。

 それからザナックのいる寺院に戻り、彼と交渉または対決するのが本来のルートだ。

 だがセラは手間を省略して、先にセトの神殿に行って宝石を手に入れてから、ザナックと対決しようと考えていた。

 シナリオではザナックは不死の余裕から逃げた敵を深追いしないと書いてあった。

 だが考えてみれば、ゴブリンならいざ知らず、まともな知能がある相手が秘密を知った敵を簡単に逃がしてくれるとは思えない。

 事実、ヤスマの話では先に調査に行ったベテラン冒険者達は帰ってきていないという。

 やはり無敵の相手から逃げるのは、相当に困難が伴うと覚悟しておくべきだ。

 ましてや厄介な魔法を使う神官やアンデッド達が相手なのである。

 この非情なるE&Eのゲームでは、とにかく戦闘は最小限にとどめておきたいのが鍋島の考えなのだった。

 もしヤスマ達が邪神の遺跡の場所を知っていれば、わざわざ決死の状況に足を踏み入れずに済み、徒歩で北の寺院に二度も行く手間も省けるというものだ。


「北東というと竜背骨山脈ドラゴンボーンの方か。そういう場所があるという噂は聞いたような気がするがどこで聞いたんだったかな?」


 ヤスマが考えるように顎髭を触りながら喋る。


「……驚いたわね。人間ヒューマンが邪悪の遺跡のことを知っているなんて」


 先程からライム水を口にしながら、横で黙って聞いていたルナが急に話に割り込んできた。


「ルナさん、あなた知ってるの?」


「昔、聞いたことがあるわ。あなたの言う神殿かどうかはわからないけど、

 汚れた土地があるはずよ。たぶん妖精族エルフの伝承に語られるあの呪われた土地だと思う」


 そう言ってルナが妖精族の伝承をみんなに語る。


 ”龍の背骨に沿って東に進み、森林を抜けるとそこは死の赤い大地。

 死の大地の高き場所には闇の神殿があるだろう。

 生あるものは決して近づいてはならぬ。

 闇の世界に取り込まれ、魂は永遠に地獄を彷徨うであろう”


「近づくのは妖精族の禁忌とされてるから行ったことはないけど、だいたいの場所ならわかるわ」


「それじゃあ、わたし達をその場所に案内できる?」


「もちろんできるけど、伝承が本当ならあの場所は本当に危険よ。

 強力なアンデッド達が恐らく神殿を守っている。

 だから妖精族の伝承ではあの場所に近づいてはいけないことに

 なっているの」


「そういえばワシも子供の頃に昔話で聞いたことがあったような気がしてきたわい」


 ルナの話を聞いて、ヤスマもその伝承を知っているようなことを言い出した。


「情報の出どころは教えられないけど、

 邪神の神殿に行ってどうしても手に入れなければならないものがあるわ。

 それがないと邪神官ザナックをおそらく倒せない」


「邪神官ザナック?」


「失敗したな…… そいつには何か重大な秘密があるようだ。

 アレックスの奴、相手が悪かったか」


 ルナがその名を繰返すと、ヤスマが深刻な表情で顎をさすりながらつぶやいた。


「とにかく危険だけど道案内をお願いするわ。

 アンデッド達はわたしがなんとかするから」


「普通なら絶対にお断りの案件だけど聖女さんがそこまで言うんならやってみようかしら。正直、アンデッドはあたしも死ぬほど嫌いだから」


「助かるわ、ルナさん」


 セラが大妖精のルナに軽く頭を下げる。


「明日からしばらく酒は飲めそうにないのう。

 よーし、そうと決まれば今日はとことん飲むぞい」


 ドワーフのヤスマがジョッキを掲げて叫ぶ。


「ミレア、酒だ、酒だ、酒をどんどん持ってこい。ついでに酒のつまみもだ」


「おうよ、オレも今日はとことんまで飲んで喰ってやるぜ!」


 ケイもドワーフのヤスマに感化されたのか、その勢いに合わせて一緒に叫ぶ。

 その後、宴会は日が暮れるまで続いた。

 調子に乗って葡萄酒ワイン砂糖菓子スイートロールまで全部たいらげたケイは、すっかり酔いつぶれてしまう。

 仕方なく最上階の大部屋まで、寝ているケイをアキラがおぶって連れていくことになった。

 ベッドの上でいびきをかいて寝ているケイの横で、セラが先程ヤスマから聞きだした情報を整理して、アキラとメグに伝えた。


「目標の邪神官ザナックがいるセトの寺院まではここから北西に約15km。

 歩いて約半日ってとこね。

 でも今回はそこに行く前に北東にある蛇神の神殿に向かうわ。

 そこはルナの話だとここから50kmぐらいの場所みたい。

 山の中で馬車は使えないから、徒歩だと3日ぐらいかしらね」


「あのドワーフを簡単に信用して大丈夫なのか?

 敵のスパイってことはないよな?

 以前の冒険で最後に連れの案内者に裏切られて、死にそうになった嫌な思い出が甦るんだが……」


 アキラがゲームの心的外傷トラウマなのか不安そうな目でセラを見る。


「それは今回に限りそれはないんじゃないかと思う。

 シナリオには裏切り者のNPCがいるなんて書かれていなかったはず。

 酒場にいると記されていたドワーフの協力者はヤスマさんで間違いないと思うし。

 ただ気になるのは大妖精アーヴのルナがわたしの記憶ではシナリオには書かれていなかった人物なのよ。

 彼女についてだけは少し注意が必要かもね」


「仮面付けてたり、なんか怪しい感じがするよね……」


 メグもアーヴのルナを素直に信用していいものか、疑問を持っているようだ。


「邪神の遺跡を知っているというのもなんか都合が良すぎなんだよなあ……」


 アキラも同じ考えを口にした。


「まあ敵の可能性がゼロとは言えないけどドワーフ案内人の相棒みたいだし

 罠ってことはないと思うわ。

 今回だけは脚本の仕掛けがわかっているんだから最短コースを進まないと」


「冒険の進行は元ゲームマスターの判断に従うよ」


 アキラとメグの二人が相づちを打つ。


「もう一度確認するけど今回、敵の首領ザナックは強力な魔法に守られていて、

 不死身になっているから絶対に倒せないの。

 そこに気づかずに進軍したら、パーティは全滅するわ。

 こいつを倒すためには邪神の神殿に隠してある魂の入った宝石の魔像を手に入れる必要がある。

 魔像を手に入れて初めてザナックを倒すことが可能になるのよ」


 セラの説明に二人がしかめっ面になる。


「絶対に倒せない敵が出てくるなんてゲームバランスも何もあったもんじゃない。

 このシナリオを作ったやつは性格が悪いよ」


 アキラが無茶な設定の脚本に抗議する。


「まあE&Eの既成シナリオはだいたいそういうのばっかりね。

 やっぱ洋ゲーだからかしら」


「洋ゲーといえば〇イト&〇ジックとかもさ、レベル2にするだけでたいへんだったもんな。一回敵を倒すたびに街に戻らなきゃならないんだぜ。

 彼らは難しいっていうことを、面白いっていうことだと勘違いしているんじゃないのか?」


 アキラ独自の解釈にセラが苦笑する。


「う~ん、アメリカのコンピューターゲームに関してはレンタル制度の問題もあって、必要以上に難しくする必要があったみたいだけど」


「それにしたってなあ、限度があるだろ……」


 アキラは納得いかないという表情だ。


「とにかく今回の話に戻しましょう。

 今回の主な敵は邪神官ザナックと近衛騎士隊長で軍司令官ドレイクの二人よ。

 ドワーフの話では街の警備に約500人の兵士が、城には約300人の兵士がドレイクの命令で配置されているらしいわ」


「それってつまり、どういうこと?」


「正面からドレイクの兵と対峙したら、わたし達でも勝ち目はないってこと。

 ドレイクを暗殺するという手もあるけど、わたし達がやったらおそらく罰則ペナルティね。」


「えうーっ」


「罰則ってなんだ?」


「私とアキラ、そしてメグの三人は善グッドの性格だって言ったわよね。

 善の性格の者はそういう卑怯なことをやってはダメなのよ。

 このゲームでは正義の味方にふさわしい振舞いをしろってことね。

 ケイは盗賊で中立ニュートラルの性格だから敵の暗殺なら大丈夫だと思うけど」


「善の性格ってそんな縛りがあるのか。俺も中立の性格にしとけば良かった」


 アキラがセラの説明を聞いて残念そうにつぶやく。


「でも善の性格はプレイヤーとしては基本的にお得なはずよ。

 手に入る魔法の特殊武器スペシャルウェポンは善専用のものが多いし、

 敵は当然だけど邪悪の性格が多いからね。

 そういう相手には善の武器のほうが効果が高いのよ」


「性格の規律ルールを破るとどうなるんだ? そういうのはあんまり気にしていなかったんだが……」


「詳しくはわたしにもよくわからないけど、神官や魔法使いなら魔法が使えなくなったり、戦士や盗賊なら職業の特典ボーナスが無くなったりするんじゃないかな?」


「具体的に何をしたら罰則になるのかは、よくわからないのか。

 対応が難しいな……」


 アキラが困ったように腕を組んだ。


「だからこのゲームで使われている性格ルールは他のロールプレイングゲームではあまり採用されていないの]


「とりあえずは無難な行動をするしかないのか」


「……そうだね」


 メグもアキラに同調する。


「ただこのルールも悪いことばかりじゃないと思うのよ。

 モラルの縛りが無かったら、プレイヤーの行動が合理的になって

 鬼畜プレイが量産されかねないわ。

 出会う敵はとにかく皆殺し、降伏しても皆殺しとかやっちゃったら、

 殺伐としたゲームになりすぎるでしょ?」


「たしかにそれじゃあ、ただの戦争ウォーゲームだね」


「とりあえず倉橋くんのケイにはボク達みたいな縛りはないんでしょ?

 いざという時には彼に殺ってもらおうよ」


 メグがしれっとした顔で怖い言葉を口にする。


「まあ、いざという時にはお願いするしかないけどね……」


 セラが苦笑いしながらメグに答える。


「明日はルナの案内で邪神の神殿に向かうわ。

 ザナックの魔像を手に入れて奴を先に倒せばドレイクの後ろ盾も無くなる。

 マッカランさんからの紹介状も生きてくるってわけよ」


「やるしかないんだよな……」


 アキラは気が重そうな声で腰の剣に手を当てる。


「わたし達にとっては初めての実戦だからね。

 アキラはとくに無理をしないこと。前線の壁役なんだから。

 危ないと判断したら躊躇なく撤退するわ。

 死者復活の魔法があるとはいえ、成功するとは限らないからね」


「魔法が失敗することなんてあるのか?

 プレイ中にそんな判定は一度もなかったはずだけど?」


「基本的には無いはずだけど、この世界では選択オプションルールが

 採用されているかもしれないわ。

 生き返らせるたびに対象のレベルが1つ下がるとか、

 生き返れる回数に制限があるとかね」


「えうーっ、死にたくない……」


 セラに脅かされたメグが泣きそうな声で叫びだす。


「とにかくこの世界で最も重要なことは魔法の武器や財宝を手に入れることじゃないわ。とにかく生き残ること。そのためには戦闘回数を最小限におさえることよ」


「戦わずして勝つか…… 孫子の兵法みたいだね」


「さすがに戦わずしてこのゲームで勝つのは無理よ。最小限の戦いで勝つの!」


 セラはそう力説すると、鎧の留め具を外し始めた。

 

「それじゃあ、話はここでいったん終わりね。調べたらこの組合には上級冒険者用のお風呂があったのよ。途中の宿と違って、お湯の張られた贅沢なお風呂なの。

 僕達しかいないからアキラも一緒に入る?」


 からかうように鍋島がアキラに声をかける。


「ちょっ、セラ、俺はいちおう男なんだけど……」


「わたし達だって、中身は男のはずでしょ?」


 セラが笑いながら板金鎧を脱いで厚綿服ギャンベソン姿になる。

 さらに厚綿服も脱ぐと、胸元が紐留めされた肌着シュミーズ姿になった。

 汗に濡れた下着が肌に張り付いて、なんとも艶めかしい姿である。

 相手が鍋島だとわかっているアキラも、思わず生唾を飲み込んでしまう。


「……冗談よ。アキラには悪いけどここに残って、

 寝ているケイの面倒を見てちょうだい。

 わたし達が先にお風呂を使わせてもらうわ」


 セラが部屋に置いてあるバスタオルを胸に巻きながらアキラに手を振る。


「なんだよセラ、からかうのはよせよ。本気にして焦ったじゃないか……」


 アキラは動揺してタイルを巻いてズボンを脱ぐセラを見ないように視線をそらす。

 視線の先にいるバーバラも帽子と魔術師用の長衣ローブを脱いで、セラと同じような下着姿になっていた。

 肌着と風船のように膨らんだレース付きの下履ドロワーズがアキラの目に映る。


「メグ、あんた本当に大きいわね」


 肌着の胸元の紐を押し上げるメグの胸を見て、セラがあきれた声を上げた。


「そうなんだよう。すっごく肩がこるんだよう……」


 アキラは色っぽい二人から目をそらし、だらしなく寝ているケイを見ながら時間をやり過ごした。

 二人がしばらくして部屋を出ていくと、ようやくアキラも鎧を外して下着姿になった。

 ベッドの上に座り目をつぶると、むらむらと湧き上がってくる感情を押さえて深呼吸する。


「いよいよ明日から本格的な冒険か。俺にうまくやれるかな……」


 アキラは不安を感じながら、両手を枕にベッドへと寝転がる。

 疲れていたのかそのまま自然に彼の両目が塞がっていく。

 いつの間にか聞こえてくる寝息の音と共に、リースリングの夜は静かに更けていくのであった。

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