189:陰キャが話題に乗り遅れた

 <星架サイド>



 早速その夜、千佳と雛乃に事の顛末をレインで話した。あと数日しかないし、もしかすると予定を空けられない可能性もあるかと危惧したけど……


『よっしゃー! おじさんに感謝だな。秋まで待たないとかなって思ってたけど、車で現地まで運んでくれるんなら別よ』


『ね~。山まで行けば涼しいだろうけど、道中の暑さがネックだったもんね』


 と行く気満々な返信。予定なんぞあるハズないだろう、とのこと。まあ夏休み最終週の子供たちなんて放っておかれる運命か。ド平日だしな。


『明日、詳細な予定組もうぜ。ウチ、朝は歯医者だから、午後の2時くらいで良いか?』


 千佳、ワクワクが抑えられん感じだな。歯医者でブルーだったところに、午後から楽しみが入ったのもデケえのかもだけど。


『私もそれで良いよ~。場所は~?』


『康生んち』


『了解』


『オッケー。私、明日は歩いて行くね~』


 !?


『雛、康生は最近、足腰も強くなったし、体力もついてきたって嬉しそうに言ってるから、その、あんま遠慮せんでも』


 とは書きつつも、アタシが送迎するワケじゃないから、勝手に康生の代弁みたくするのもアレだけど。


『そうじゃないよ~。体重が増えすぎたから、パパに怒られたんだよ~。まだ適正くらいだと思うんだけどな~』


 それで適正なのは新弟子検査くらいだよ。

 まあでも、遠慮しての話じゃなくて良かったよ。グループの間で、そういうのはナシにしたいし。


『て言うか沓澤クンは~?』


 雛が訊ねる。グループレインなのに彼だけ沈黙してるから、不思議に思ったんだろう。


『仕事中。ちょっとずつユルチューブ経由でアクセ製作の依頼、入りだしたんだよね』


 星架さんのおかげだって無邪気に喜んでたけど、実際はそれだけじゃない。アタシのフォロワー周りで普通にクチコミの評判良いからな。


『良い肉買いましょうって息巻いてたわ』


『おお! お肉♪ お肉♪』


 雛ちゃん、大喜び。


『また親父さんに怒られんぞ?』


 千佳ちゃん、水を差す。


『むう』


『まあご飯を控えたら、多少は大丈夫でしょ』


 アタシは助け船。と、そこで、康生からのメッセがポップする。仕事は終わったみたいだね。


『皆さん、何の話を……重井さんが歩く!? そんなパターンがあったんですか!?』


 2周遅れくらいで驚いていた。














 翌日。予定通りの時間に集まったアタシたちは、当日までの、やることリストを作っていく。


 そしてそれに従い、まずはキャンプ場の予約確保。最初に目星をつけていた所が、もし埋まってたら、また違うところ探さなきゃね、と話してたけど、杞憂に終わった。


 まあ盆も過ぎ、子供たちもダラダラ残りの夏休みを過ごしてる時期だし、今になってキャンプという家族やグループは少ないのかもね。

 そしてパパの引率がついたのも、予約をスムーズにした一因だと思う。子供だけで火を扱うのと、信頼度がダンチだかんな。


「買い出しは、前日で良いか?」


「うん、あんま早いと野菜とかお肉とか悪くなるかもだからね~」


 雛も食べ物の話になると、活発になる。


「あと近くに川があるんですよね。だから魚の掴み取り体験とかも出来るらしいです」


「え? 聞いてねえぞ」


 千佳の目が輝く。そんな面白そうなこと、早く言えよ、といった感じだ。あれ? けど。


「イワナ、書かなかった?」


 予定リストを改めて確認するけど、書き漏らしてたみたい。あ、そっか。みんなの意見を聞いてから決定しようと思ってて、忘れてたんだった。


「ははは、ごめんごめん。ボケてたわ。取り敢えず参加で良い系?」


「もち」


「私も大丈夫~」


 二人ともオッケー。康生もコクンと頷いていた。


「あとは、バーベキューセットとかは、向こうにあるんだよな? 持ち込みは炭だけか」


 アタシの書き漏らしのせいで、千佳が慎重になっとる。まあでも当日になって、現地で「あれが無い、これが無い」ってならないように、クロスチェックは大事か。


「けどさ~」


「ん?」


 何となく、キャンプとは関係ないことを言い出しそうな雰囲気。おやつの話か?


「星架、本当に良かったの~? 大切な話なのに、キャンプのついでみたいになって」


 食べ物の話じゃなかった。むしろ、アタシを気遣う内容だ。なんかゴメンな、雛。


「うん、正直、それくらいの気持ちで居ないとキツイ。アンタらみんな居てくれるのも、心強いし」


 それに仲間が居る安心感があっても、キャンプのついでの軽口みたいに言おうとしても、多分いざとなると口が重たくなるんだろうしな。なんせ、人生の一大岐路と言っても過言じゃない、そんな重要な話なんだから。


「……星架さん」


 キュッと手を握ってくれる康生。うん、まだ大丈夫だよ。頷き返して、


「さ。今はまず目先のこと考えようぜ。とりま買い出し関連だな」


 なるべく明るい声を出して、場の空気を戻した。

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