176:ギャルをハブらなかった
翌日は昼前に集まり、僕の家でご飯を御馳走。メロンを丸々2玉いただいてしまったんだから、当然これくらいはという事で。とは言え一番食べてたのは重井さんだったけどね。
友達のカレシの家族(しかも初対面)が用意してくれた食事をあれだけ豪快に食べられるのは才能だと思う。星架さんも洞口さんも割と遠慮のない人だから、そんな二人に囲まれて、至って普通な感じの重井さんがどんな風に過ごしていたのかって疑問に思ったこともあったけど。最近、実は一番遠慮がないのは彼女なんじゃないかと認識を改め始めている。
「ごちそうさま~。おいしかったです~」
ただまあ、真ん丸のお手々で箸を持って一生懸命に食べてる姿、本当に幸せそうに笑っている顔、そういうのを見ると、母さんも微笑ましいようで。
「はい、お粗末さま」
と幼児と話すような声色で返事していた。
食後。以前話していた通り、洞口さんはちぎり絵の続きに取り掛かった。僕らも付き合っても良かったんだけど、重井さんの一声で少し状況が変わった。
「ねえ、沓澤クン。沓澤クンってアクセサリーも作れるんだよね?」
僕のレジンアートの動画もチェックしてくれたらしい。ありがたいことだ。
「ええ、出来ますよ。複雑な物とかは専用の機材がないと出来なかったりするんで、難しいですけど」
少なくとも動画で上げてるようなのは、いつでも、いくらでも。
「じゃあねえ、指輪とかは?」
「はい。大丈夫ですよ」
リング型のモールドもあるし、レジンも大量購入した残りがまだまだあるし。今からだって作れる。
「じゃあ、1個お願いしようかな~。おいくら~?」
おお、まさかの身内からのご依頼。正直、まだ懐も心許ないから助かる。
「材料費別で1500円とかで、お願い出来ますか?」
「え? そんなに安くて良いの?」
お友達価格ではあるけど、実際ガチで簡単だからねえ。普通に彼女自身が作るのでも……あ、いや、そうか。折角だから。
「なんだったら……教室という形で、一緒に作ってみますか? 星架さんも」
「へえ、面白そう~」
「アタシも良いの?」
「ええ、もちろん」
むしろこの流れで一人だけハブには出来ないでしょ。とか考えてたら、
「うがあ、ウチだけハブじゃー!」
ガチで仲間外れになってしまう人が叫んだ。ごめんね。けど折角そこまで作ってるんだから、洞口さんには是非とも、ちぎり絵の方の完成を優先させて欲しい。
荊鬼の風景もまだ脳裏に残ってるだろうし、鉄は熱いうちに打てってことで。
「康生、ゴメン。ユルチューブの収益入ってからで良い?」
ん? あ、ああ。星架さんまで講習代1500円を払ってくれようとしてるのか。
「別にそんなの」
「ダメダメ。雛からお金取るんなら……アタシも同じ立場なんだから」
言われて気付く。確かに、重井さんからだけ貰って、星架さんは恋人特権じゃ感じ悪いか。今後、何かにつけて僕らだけ互いを優遇し合ってると、残りの二人は疎外感を覚えちゃうよね。
「……分かりました。盆明けに、じゃあ」
「うん。しっかし、もうちょっと早く入ってくれたらなあ。映画も割り勘で行けたのに」
上映期間内に入金があれば、いや、こっちとしては甲斐性見せれたから結果オーライだけどね。
と、そこで幼馴染二人の視線を感じる。何だろうと、目顔で訊ねると、
「いや、やっぱ応援したくなるカップルだなって思ってさ。身内びいき抜きでもな」
「ね~。でもいっそ夫婦になっちゃえば、お財布も一緒だから、こっちも気にならないけどね~」
なんて二人して返してくる。
「夫婦ってアンタ……気が早えよ」
照れて言葉尻が小さくなる星架さん。僕も少し考えてしまったよね。お財布が一緒の生活。
僕も星架さんも、赤い顔を何度か振って熱を飛ばす。そして閑話休題とばかり、
「しかし、雛、指輪なんて何で欲しいの?」
星架さんが重井さんに振る。そう言えば、発端の彼女の事情を聞いてなかった。
「ああ、それな。ウチも聞きそびれてた。って、まさか……アンタもカレシ出来たとか!?」
もしそうなら一人だけ取り残される事になる洞口さんが悲痛な声を出した。
しかし重井さんは、首を横に振る。
「違うよ~。なんかね、最近、つけてた指輪が小さくなっちゃって。新しいの買わなきゃな~って思ってたとこだったんだよ」
重井さん……指輪はいきなり小さくならないんだよ。
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