177:陰キャを勘違いさせた

 <星架サイド>



 しかし、指輪か。盲点だったなあ。康生には誕プレ、レジンテーブルでファイナルアンサーしちゃったしな。まあテーブルもメチャ綺麗だし、あれはあれで欲しいから良いんだけどさ。


 流石にその上、指輪までねだれんわな。さりとて自分で作って自分で着けるのもなあ。独り身だった時なら、全く気にならんかっただろうけど、今はなあ。


 いや待て……逆転の発想は出来ないか? アタシが作った指輪。それをプレゼントしたら喜んでくれる人。


「あ!!」


「わあ!? 何ですか?」


 レジン液と着色剤を何本か見繕っていた康生が、肩を跳ね上げた。


「あ、ごめん。いやさ……ペアリングとかに出来ないかなって」


「え? ええ、別に同じのを2つ作るくらい造作もないですよ」


「あっと……そうじゃなくてさ。費用的に」


 ただでさえツケにしてもらってるのに、もう1つ分の材料費とか厚かましいっつーか。


「いえいえ。レジン液はそんな大して高くないですよ。着色剤も。そもそも指輪くらいだったらそんなに量は使わないですし」


 康生が軽く笑う。ガチで安い物(例えばジュースとか)を割り勘しようと言った時にされる苦笑だった。つまり気を遣ってくれてるワケではなさそうで。


「それに、えっと、僕とのペアリングを作ってくれるんですよね? だったら」


「あ、ちがくて。康生のじゃなくて」


「え……」


 康生が絶句。ショックで顔が強ばってる。


「星架、アンタ、まさか浮気」


「ち、違うっての! ママとパパに贈ろうかなって」


「あ、ああ。そういうことですか……良かった」


 康生の時が動き出す。息まで止まりかけてたみたいで、「ふう、はあ」と立て続けに吐いた。


 信用してよ、と不平を漏らしかけたけど……いや、今のはアタシが悪いか。先に両親へのプレゼントって切り出せば良かったわ。


「な、なんか自意識過剰みたいで恥ずかしいです」


 落ち着いたら今度は項垂れてしまった康生。アタシはその顔を胸に抱いて、髪を撫でる。


「いや大丈夫。ウチも普通にまたバカップルが記念品作るんだろうなって思ったし」


「ね~。話の流れ的に、沓澤クンとのペアリングと思うのが普通って言うか」


 千佳と雛乃もフォロー。

 康生はそこでようやく気を取り直したみたいで、アタシの胸から顔を上げた。


「まあ、はい。分かりました。でもいきなりプレゼントって……何かあったんですか?」


 ちょっと最後の方は聞きずらそうに。ああ、なるほど。またママとパパの間で一悶着あって、アタシが傷ついたんじゃないかと心配してくれてるのか。


「んにゃ。そうじゃなくてさ、今月末、30日が二人の結婚記念日なんだよ」

 

「ああ、なるほど」


 言葉は少なかったけど、アタシがそこをキッカケに少しでも二人の仲が改善しないかと淡い期待を抱いている事も察した「なるほど」だと思う。


「じゃあ最高の物にしないとですね。何か装飾を入れるってのも手ですよ。小さなドライフラワーとか」


「へえ! そんなのも入れられるんだ?」


「はい。硬化さえ邪魔しない物なら概ね」


 飛び出してたりは厳しいみたいだね。でもそっか、花かあ。確かにアリやね。あ、でも。


「アタシ、今あんまり持ち合わせが、さ」


「星架。キャンプ代で取ってあるカネ使えよ」


「いや、それは」


「また盆明けにユルチューブの収益分が入るんだろ? そこで補填しときゃ良いじゃねえか。キャンプはいつ行くか未定だけど、少なくとも盆の間には行かんだろ」


 ま、まあそうだけどさ。千佳への感謝に手を付けるって、凄く抵抗があってさ。それで映画も諦めかけてたんだし、今だって康生にツケ頼んだんだし。


「気持ちはありがてえけど、ウチとしても流石に麗華おばさん達の関係改善の方が優先だぞ」


「千佳……!」


 はあ、マジで良いヤツすぎるな。


「なんだったら、私が少し貸しておくよ~。私だって千佳と同じ気持ち。おばさん達には、ちっちゃい頃お世話になったしね~」


「雛……!」


 ちょっと鼻の奥がツンとする。マジで友達に恵まれすぎだな、アタシ。ここにいる皆、大好きだ。

 と、最後の一人、康生が非常に申し訳なさそうな顔をしてるのに気付いた。え? な、なんだ?


「あのー、言いにくいんですけど、大体の装飾は100均で揃いますよ? てか僕のストック分、普通に使ってもらって良いですし」


「……」


「……」


「……」


 ドライフラワーとか言うからさ。もっと高い物をイメージしてたよね。


「100均……」


 すげえな。たった100円で何でも買えちゃうな。アタシらの友情さえ敵わんのな。


「なんか……すいません」


 謝る康生の頬を八つ当たり気味にモチモチしておいた。

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