172:ギャルの急襲を受けた

 <星架サイド>



 とは言え、実は中々リアルなアドバイスも一つだけ貰っていた。

 いわく、「男と女では性に対する考え方は全然違う。そこは信頼度とは全く関係なく、厳然とある差異」という話で。


 まあアタシも色んな創作物で見るし、ネットの言説も読んでるワケだから、知識としては知ってるけど。基本的には男の方が女より性欲が強いという。これがまた加齢すると女も性欲が強くなるとか聞いたこともあるけど、少なくとも今の段階では考えなくて良いだろう。


 つまり……あんなポヤッとした康生ですら、内に大いなる欲望を秘めている可能性が高いということ。本当に? あんなに可愛いのに? と思ったけど、アタシの胸の中で甘える時、さりげなく頬や鼻を擦りつけてる事とかあるしな。


 それを認識した上でアタシは……どうなんだろう。人によっては不潔だと思ってしまって(特にアタシのような性経験が皆無な女子は)拒絶反応を示してしまうことも少なくない、というのが莉亜の話だけど……今のところ、幻滅や不快感は特にない。まあ相手が康生だし。欲望に囚われてても、何だかんだ、おっぱいに甘えてくる所は可愛いしなあ。


「……うーん」


 下りのホーム、ベンチに座りながら、莉亜の言葉を更に反芻する。

 いわく、「とは言っても個人差はあるから、沓澤クンがどんくらいの性欲の強さで、どういう嗜好をしてるかくらいは先に把握しておけると、後で焦らないかも。お互い携帯見て良い取り決めなら、こっそりチェックさせてもらうのも手かな」と。


 正直、良心の呵責はなくはない。ただ同時に、言質は取ってあるし、アタシのスマホも康生に見せたらチャラでしょう、くらいに軽く考えたい自分もいる。

 いや、けどなあ。相手の性癖を暴き立てる為に利用するのは約束が違うと思われるかも。


 流石の康生も怒るかな。莉亜は他のカップルなんか目じゃないくらいの絆と高く評価してくれてたけど。だからって何をやっても許してもらえるって話でもないんよね。当たり前だけど。


 しばし黙考。回送列車が目の前を通り過ぎていく。


 うーん…………よし決めた。


 まず、今日明日に焦って結ばれるってことはしない。康生がバリバリ乗り気だった時は再考しなきゃだけど、流石にあの子が突然そんな肉食系に変貌するとは考えにくい。


 だったら、アタシの方がもう映画のワンシーンなんて忘れたように振る舞ってたら、そのうちギクシャクした雰囲気もなくなると思う。


 で、だ。

 康生の嗜好に関しては、ちょっとだけ探る。莉亜の言う通り、実際いつの日か本番を迎えた時に慌てないように予習というか。ただし、本人の許可を得て、堂々とスマホを触る。そしてアタシのも見せる。これで平等。


「このプランやな」


 考えがまとまるのを待っていてくれたかのようなタイミングで、電車の到来を告げるアナウンス。アタシは両腿を掌でパチンと打って、勢いよく立ち上がった。














 <康生サイド>



 今日は撮影の後、園田さんに会うという話だったので、久しぶりに星架さんと会わない日になる予定だった。そのハズだったんだけど……5分ほど前に家のチャイムが鳴り、続いて母さんに階下から呼ばれた。降りてみると愛しのカノジョ様が、妙に気合の入った顔で待っていた。なんか嫌な予感はしたんだよね、この時点で。


 で、まあ部屋に上げたんだけど、


「康生、スマホ見ていい?」


 挨拶もそこそこに、そんなことを言い出した。僕は当然、面食らう。もしかすると園田さんの入れ知恵かなと勘繰った。僕が浮気なんて出来る器じゃないのは、星架さんも分かってるハズなのになあ。


「良いですけど」


 まあ抵抗する意味もない。僕のスマホなんて星架さんと洞口さんを除けば、女の子のアドレスすら入ってないからね。痛くもない腹を探られるのは微妙な気分だけど、それで彼女の気が晴れるなら安いもんかな、と。


「アタシのも見ていいからね」


 代わりに彼女のスマホを渡される。うーん。星架さんも男友達のアドレスなんて入ってないハズだし、見ても何にもなさそうだけど。取り敢えず、僕も彼女のスマホを操作して……そうだなあ、折角だからギャラリーでも見ようかな。

 アプリをタップして、出てきた画像たちを漫然と眺めていく。可愛い店の看板、僕の作った木彫り、気に入ったコーデ、道端の野良猫、スイーツ……幾つかはツイスタにも上げてるから見た覚えのある写真だ。


「ねえ、星架さん、もう」

 

 やめましょう、と口に出しかけて、異変に気付く。星架さんの瞳孔がクワッと開いて、一心に僕のスマホを見つめている。え? な、なに? 一瞬、何かやましいモノがあったかと記憶を探るけど……心当たりがない。そもそも(繰り返しになるけど)女の子の知り合いすらマトモに居ないんだから、やましくなりよううもない。と思ってたのに。


「康生、アンタ……」


「な、なんですか?」


「なんですかじゃない! これは何!?」


 星架さんの大声。スマホをクルリと反対に持ち、僕に画面の方を見せてくる。そこには……


「あ」


 あの日、モデルに使ったジュニアアイドルの画像が表示されていた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る