173:ギャルに冤罪をかけられた

「ロリコン」


「だから、消し忘れてたんですってば」


「ロリコン」


「星架さんの小学生時代を再現する為にモデルにしただけで」


「ロリコン」


「消すのが惜しくて持ってたとかじゃなくて」


「ロリコン」


「だから」


「ロリコン」


「……」


「ロリ澤製作所」


「な!? 製作所は関係ないでしょ!」


「製作所ってことは、アンタ個人がロリ澤なのは認めるの!?」


「ロリ澤じゃないですよ! 言葉のアヤでしょう、今のは!」


 てか、なんでこんな事になってるんだ。いきなり来て抜き打ちチェックみたいな事して、僕に濡れ衣を着せて。いやまあ、消し忘れてた僕もアレなんだけどさ。て言うか存在自体を忘れてたから、いつか同様の事故が起きてた可能性は高いけど。

 ……まあ今はいずれにせよ、汚名を晴らすのが最優先課題だ。


「星架さ」


「ロリコン」


「……」


「ロリコン」


「……重井さんのお父さんが務めてるのは?」


「ゼネコン」


「……姉さんが連戦連敗なのは?」


「街コン」


「星架さんが今いるのは?」


「ロリ澤製作所」


 ダメか。意識を逸らす作戦は不発だ。

 そこで星架さんは「キイ~」と歯軋りでもしそうな表情で、頭を抱えた。


「前から怪しい所あるとは思ってたけど、まさか真正だったとは」


「だから違いますって! 信じて下さいよ!」


 星架さんの快気祝いのためだったのに。心を込めて作ったのに。いくら言っても晴れない濡れ衣に、だんだん腹が立ってくる。


「ペタンコスキーなのか……」


 なおもそんな事を言われる。なんで信じてくれないのか。

 

「口で言って信じてくれないなら」


 僕はいい加減、焦りと苛立ちで、思考が変な方向に陥っていたんだと思う。

 星架さんに膝立ちで近付いていく。そして彼女が何か言う前に、


 ムニッ


 その胸の膨らみに掌を押し当て、指を沈めた。


「どうですか? これで信じてもらえましたか? 僕が好きなのは星架さんの胸です。子供のなんて興味ありません」


「……」


 驚いた表情のまま固まっている星架さん。半開きの口から「え? あ?」と小さな声が漏れている。なんで意表を突かれたみたいな顔してるんだろう。これ以外に信じてもらう方法はないんだから、仕方ないのに……

 いや、本当にそうか? もう一度、星架さんにあげた快気祝いと画像を見比べてもらったら、もう少し納得してもらえたんじゃないか。或いは、今は彼女の方も感情的になってしまってるから、もう少し時間を置いてから話し合うという手もあったんじゃないか。


「……えっと」


 急速に頭が冷えてきて、僕はそっと彼女の胸から手を離した。や、やってしまった。いくら恋人同士とは言え、相手の了承もなしに触れてしまうなんて。


「ご、ごめんなさい! 信じて欲しくて、頭がそればっかりになってしまって!」


 頭を下げる。星架さんの膝が視界に入った。微動だにしない。未だ彼女は混乱の最中なのか。


「……ビックリした」


「ごめんなさい」


「う、うん。アタシも冷静じゃなかった。おかげで頭は冷えたけど」


 言葉通り、いつもの星架さんの声音に戻っていた。静かに怒ってるとか……ないよね?


「そうだよね。アタシと付き合ってるんだから、大きな胸が好きに決まってるのにね」


 大きな……? 思わず僕は視線を上げて彼女の胸部を見てしまう。自称Cカップだけど……


「あ?」


「いえ、なにも」


 何も言ってないのに、心を読まれた上に先回りされてしまった。


「……ごめん。いきなり予定外に家に来て、スマホ見られて疑われて。そりゃ怒るよね?」


「怒る……もあるけど、それ以上に悲しかったかも」


 怒りの根源は、いくら説明しても星架さんが信じてくれない悲しさ、寂しさだと思う。


「悲しい、か。そうだよな。アタシが逆の立場だったら、うん悲しい」


「星架さん」


 ……やっぱり「なあなあ」で済ますのは良くなかったのかも知れない。恥を堪えてでも、お互いの意見を交換しておいた方が逆に尾を引かないのかな、と思う。


「えっと、あの、前の映画のアレ」


「……え? あ、うん」


「もちろん僕も男なので何の興味もないと言ったらウソになります。だけど、その、僕たちはまだ高校生で」


「うん」


「でも僕はもう星架さん以外考えられないですから。その……いつか必ず」


 心臓がバクバクしてる。本当に自分の口から出たセリフかと、頭の中の冷静な部分が驚いていた。あの告白からこっち、僕はどんどん思ったままを話せるようになってきているみたいだ。


「康生……いつになく積極的」


「ダメでした?」


「ううん。ちょっとドキッとした。やっぱ男の子なんだなって」


 今までこういう方面のリードは星架さんに任せっきりだったもんね。そういう負い目もあって勇気が出せたのかも知れないな。


「……いつか、ね」


「はい。きっと星架さんが愛おしすぎて、我慢できなくなる日が来る気がするから」


「わ。ホント積極的だ」


 笑い合う。不思議な感覚だ。話題は凄くセンシティブなのに、話してしまったら、気がスッと楽になった。たぶん彼女も同じなんだろう。やっぱり僕らの間では、なるべく抱え込まないで二人で話した方が良い結果に繋がるんだな。

 そんな風に、改めて彼女との絆を強く感じた一日だった。まあ……抜き打ちはもう勘弁して欲しいけど。

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