170:陰キャとの近況を語った
<星架サイド>
あれから2日が経った。昨日も我が家で動画鑑賞をして遊んだんだけど、どうもまだお互いぎこちなかった。
やってくれたな、クルルちゃん。と思う気持ちもあるけど、同時にあのポケポケ康生にそういうことを意識させられたという点ではナイスとも言える。
けど、いつかは……くらいに思ってたのが急に現実味を帯びてしまったモンだから、アタシの方も心の準備が追い付いてこねえって問題もある。
どうしたいんかな、アタシは。まだ早いって気持ちはあるけど、同時に、すれば更に康生を強く感じられるんだろうなって考えると、今すぐにって気持ちもある。
……アタシって意外にムッツリ?
いや、でもさ。こんだけ好きだったら、当然考えるじゃん。だってキスより上の一体感を味わえるんでしょ。もっともっと近くに行けるんでしょ。
そういうことしてる時の男の子が可愛いって言う感想も聞いたことあるし。そして康生だったら絶対可愛いし。
あの意外に逞しい腕に閉じ込められる感触と、頬を擦り合わせた時の柔らかさのギャップ。あれを素肌全部で味わったら……
「はい、オッケー」
「……っ!」
あぶな。意識飛んでた。またやってもうた。
そう、実は今、お仕事の真っ最中だったりする。給料泥棒ここに推参・パート2。そしてやっぱり、
「なんか今日は色気があって良かったよ」
何故かいつもより好評。
「つか、なんかエッチかった」
うわ、マジか。ダダ漏れじゃん。
「まさか、カレシ出来たとか?」
「あー、えっと」
「言い淀んでる時点で確定だし!」
「うっそ! マジ? あのアイアンメイデンの星架ちゃんが?」
アイアンメイデン呼ばわりが謎に定着してる……
「うがあ! こっちは残業続きで合コンすら行けねえってのに!」
阿鼻叫喚の図。いい大人たちなのに、本当に心が若いよね。
結局、のらりくらりと追及は躱したけど、幼馴染と再会して良い感じになって告った、くらいの情報は明け渡してしまった。本当、いくつになっても女って他人の恋バナ好きすぎやんね。
横中のスタジオから徒歩で10分くらい。都会の一角に自然公園がある。そこそこの面積があり、労働者や家族連れの憩いの場になっている。その公園の中央広場。淡い茶髪、少し露出のある服装の彼女を見つけた。噴水脇のベンチにちょこんと腰掛けてる。
「あ、いたいた。莉亜!」
小走りで近づくと、彼女も緩く笑いながらこちらを向いた。
「ごめん、待った?」
「ううん。お仕事なんだから気にしないで」
とは言うけど、今日も暴力的な熱波だ。来る途中のアスファルトから陽炎(かげろう)とか立ってたし。だから「暑かったっしょ?」と労(いた)わったけど、莉亜はゆるゆると首を横に振った。
「噴水あるから地味に涼しいよ、ここ」
あ、確かに。他の場所より体感温度がだいぶ低い。アタシも隣に掛けて、カバンからミニ扇風機(結局買った)を出して、莉亜の顔に当ててあげる。
「クレープでも食べようか」
彼女の指さす先、移動式ワゴンが止まっていた。
アタシは落ち着けたばかりの腰を上げる。
「奢るよ。何が良い?」
「金欠なんでしょ? そこまで気を使わなくてもいいよ?」
そうは言うけど呼び出した上に、ちょっと待たせちゃったしな。それに盆明けにはもうユルチューブの収益が入るし。
「いいから、いいから」
結局、押し切って奢ることにした。定番のチョコバナナと、イチゴ生クリームを買って半分ずつ食べる。
「こないだはサンキューね」
「うん。私こそ予定より簡単すぎて、時給が凄いことになっちゃったから」
それでアフターサービスが充実してたワケだし、しかもそれが中々に痛快だったから、全く払いすぎた感じはしない、と康生も言ってた。
「……」
「……」
「で?」
「ああ、うん」
はよ本題に入れとの仰せ。アタシはペットボトルの紅茶で口の中に残る生クリームを喉奥に流し込む。そして、意を決して訊ねる。
「莉亜……エッチって男の子から誘ってくれるのを待つ方が良いの?」
「ぶふっ! こ、げほっ、げほっ」
アタシと同じようにお茶で口の中をキレイにしようとしていた、その途中で莉亜はむせた。
そのまま1分近く、呼吸を整える時間を要して、
「いきなり、なにを、けほっ、言い出して」
咳まじりながら、聞き返してくる。アタシは、ごめんごめんと背中を擦ってあげて。
映画のこと、それを観て二人ともまだ微妙にソワソワしてること等、近況を打ち明けていった。
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