157:陰キャが高みの見物をした
<星架サイド>
そして迎えた翌日。
昨夜は中々寝つけなかった。復讐の成否というより、康生が心配過ぎて。復讐を勧めたことは後悔してないけど……もう少し心の準備をする時間があるもんだと思ってたからさ。莉亜、有能すぎんのも考えモンやね。いや、ありがたい事なんだけどさ。
アタシでこれなんだから、康生はもっと寝不足だろうな。そんなことを思いながら、自転車を漕いで、製作所へ。すると、ちょうど玄関から出て来たカレシを見つけた。キャップを目深に被って、マスクをしている。なにそれ。
「おはよう」
「わ! お、おはようございます」
アタシに気付いてなかったらしい。帽子のせいか、はたまた緊張で視野が狭くなってるせいか。
「それ、どしたん?」
「……僕は顔が割れてるんで、念のため」
なるほど。けど駅前のロータリーが見渡せるバーガークイーンの3階席で観察する予定だから、たぶん大丈夫だと思うけどね。
……まあ安心したいんだろうな。にしても。
「コソ泥みたい」
「う」
あ、気にしてたか? でも実際、微妙な格好だ。康生は少し渋い顔をした(ように見える。マスク越しだから正確には分んないけど)後、ボディーバッグの口を開いた。
中から引っ張り出したのは黄色がかったカラーサングラス。マスクと帽子を外して、代わりにそれを掛けた。えっと……
「浮田さんリスペクト?」
「勇気出るかなって」
「あの人、肝心な所では勇気なかった気がするけど?」
勇気を出して娘さんとキチンと話す場を持てないまま逝ってしまった。まあ殺めといて言う台詞じゃないかも知れんけど。
「ダメでしょうか?」
「ダメって言うか……それも似合ってないかなあ」
「う」
「つか、それ漫研にあったヤツ?」
「あの後、せめてものお詫びってことで横倉さんが浮田コス一式をくれたんです」
それは……お詫びになってるのか? まあ幸いにも康生も好きなキャラだし、少しは嬉しかったのかも知れんが。
しかしそれならせめて丸々コスの格好すれば良いものを……上は黒と赤のチェックシャツ、下はカーキの七分丈ズボンという、まあいつも通り「ザ・普通」の格好をしてるもんだから、オラオラ系のサングラスだけ浮きまくってるんよね。
「うーん……正直、余計に目立つと思うよ?」
「え?」
「ギリ、マスクくらいかな」
というアタシの進言に、康生はそっとサングラスを外し、バッグに納めると、代わりにマスクだけ取り出した。何かしょんぼりしてるけど、嘘ついて似合うとか言えるタイプじゃなくてさ、アタシ。
先日よりスムーズに改札を抜けた康生を、一人で歩けるようになった親戚の赤ちゃんでも見るような気持ちで見守った後、発車時刻までホームで待機していた電車に乗り込んだ。乗車時も康生は自然体に近いように見えた。この復讐が終わったら、もしかしたら一人でも横中方面の電車に乗れるかも。
横中東に着いたのは12時52分。そこから駅構内を移動して、直通のバーガークイーンに入る。ドリンクだけ頼んで、3階の窓際の席へ。ガラス張りに沿うように湾曲したテーブルの前に、等間隔で固定椅子が設置してある。そこへ二人で並んで腰かけると、正面の窓から駅前の景色が一望できた。下に目を向けると、ロータリーの様子も見える。
「……いた。灰塚たち」
康生の少し硬い声。指さす方を見ると、4人組の少年たち。みんな気合入れてオシャレしてるようだ。
と、康生がブフッと小さく噴き出した。
「あんなズボン履いちゃって……モデルみたいに立ってる」
チェックのクロップドパンツのポケットに片手だけ突っ込んで、もう片方で気だるげにスマホを弄りだした一人。どうしてあんな着こなしの難しそうなアイテムに手を出したのか。しかも片膝だけ曲げて立っている姿勢が慣れないのか、少しバランスを崩して、アタシたちの見てる前で、やじろべえみたいになってしまった。
「ぶふっ。あは、ははは」
康生、大ウケ。さっきまでの緊張は何処へやら。
他にも10秒おきくらいに手鏡を出して髪を弄ってる少年、別に期待してませんよ&ちょい悪アピールでウンコ座りしてしまう少年。何というか、痛々しくて見てられなかった。けどそれはアタシだけで、隣では康生の笑顔が弾けていた。
しまいにはデジカメまで取り出して、何枚も撮り始めた。つか、スマホじゃなくてデジカメって所に、ガチ度が窺える。
まあアタシは知ってたよ、実は康生に残忍な一面が眠っているのを。
普通に宮坂へのイジリは執拗だし、屋台の親父にもシレっと攻撃してたし。「どうかつの森」の中でも色々と容赦ない。
……普段は大人しい子ほど、そういう所あるよねえ。
「ああ、創作意欲が湧いてくる」
作る気なのか……
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