154:ギャルと作戦を練った

「でも実際、上手く誘い出せたとしてどうするん? まさか人集めてタコ殴りってワケにもいかんよね?」


 僕の為に怒ってくれてるんだとは分かってるけど、星架さんも十分怖かった。けどその案はの範疇に入ると思うので、却下だ。

 と口を挟みかけたところで、洞口さんが「アホ」とたしなめた。


「アンタらが捕まるようなことしたら、それこそ台無しだろうが」


「そうだけどさ」


「まあ、現実的なラインとしては、この炎天下の中、待ちぼうけを食らわせるって所かな。で、良い感じに煮詰まった辺りで、二人が偶然通りかかった風を装って、イチャイチャを見せつけて通り過ぎる、みたいな?」


「いや、それは……偶然にしては出来過ぎだし、全部二人が仕組んだことだと思われたら、逆ギレしてくるかもしれん」


 それはそうだよね。合コンすっぽかされた、まさにそのタイミングで僕が通りかかるなんて。


「見せつけるってんなら、アンタらのチャンネルで婚約発表したら良いんじゃねえの?」


 それ好きだな、洞口さん。ちぎり絵の時も言ってた気がする。


「ダメだね。導線がない。普通の男子高校生が、読者モデルのチャンネル見てる可能性は皆無に近いよ」


 僕らが婚約発表しても、見られなかったら、悔しがらせるも何もない。それこそ内通者が居て、奴等に僕と星架さんの関係を触れ回るくらいしてもらえないと。何の導線もなしで、そこに辿り着くことはないと僕も思う。


 それに、匿名の安全圏から傷つけられたんだから、復讐はこっちも匿名の安全性を十全に利用するべきだ、とも思う。こっちだけリスク晒すなんて、道理が合わない。


「しょーがねえ。最悪は、莉亜が随時、気を持たせながら長時間立たせておいて、それを涼しい所から見物して遊ぶか」


「ワンチャン、千佳が一番ノリノリだったりする?」


「まあな。ワクワクすんじゃん。ムカつくヤツが嫌な目に遭うのって」


 なんて自分に正直な人なんだろう。でも星架さんもそうだけど、これくらい素直に生きられるなら、絶対そっちの方が健康的だなって思う。


「その様子を撮っておいて、更に匿名で掲示板に乗せるとか」


 僕もつい興が乗ってしまう。


「お、いいね! クッツー」


 洞口さんが笑う。白い歯がキラリと光った。


「掲示板なら、康生の話題をそれとなく出して、メッチャ可愛いカノジョ居るよ、みたいに振ってやれば連中の目にも止まるんじゃない?」


「あ、それはアリですね。奴等が書き込みしてた犯人かは確証ないですけど、仮に違っても絶対耳には入るでしょうし」


「……」


「……」


「え? なに?」


 呆気にとられた顔をしてる対面の二人。


「いや、星架。自分でメッチャ可愛いカノジョって……」


「あ!? い、いや。それは言葉のアヤっつーか」


「ん? 星架さんは地球で一番可愛い人なんだから、何も問題はないんじゃ?」


 なんでそんな所で引っかかってるのか。


「マジかよ……」


「沓澤クンって、そんなこと言うタイプだっけ?」


 ん? ああ、そっか。こういう事を人前で言うのは所謂ノロケ、恥ずかしい事なんだ。うーん、でも二人も星架さんが可愛くて最高なカノジョという前提で作戦を考えてるんだから、別に言語化しても問題ない気もするんだけどな。


「もう! 康生はそういうとこあるよね」


 星架さんは不平を言ってるようだけど、どこか甘えた声音だった。そのまま僕の肩にそっと頭を預けてくる。


「うへえ。今さっきティラミス食ったばっかなのによ」


 洞口さんが下唇を突き出す。園田さんは(経験豊富というだけあって)ケロッとしてるけど、話を進めたいような雰囲気もあった。そうだね、こういうのは後で家でやればいい。今は話し合いの佳境だ。


「まあ……そこら辺は実際に釣れて、待ちぼうけ食らわせてやった後に、臨機応変で良いんじゃないかな」


 園田さんの結論。僕たち三人もそれぞれ顔を見合わせて頷いた。後はこの歳不相応な落ち着きと色気を備えた、彼女の手腕にかかってる。


「大丈夫、大丈夫。莉亜にかかれば男子校の童貞クンたちなんて赤子の手をひねるようなモンだから」


 軽口を叩いた洞口さん。園田さんに軽いチョップを浴びた。


「……ったく。まあでも、あっちも女の子に飢えてるのは間違いないだろうし、たぶん大丈夫だよ。良い報告が出来ると思う」


 そう言って優雅に笑う園田さん。修羅場を潜り抜けてる人ほど、驕らないよね。

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