153:ギャルの人脈を使った
翌日。沢見川駅前のファミレスに赴いた。僕と星架さん、横中から洞口さん、園田さんが来てくれて、そこで計4人が集まった。
「おひさ~」
園田さんが軽く手を振ってくる。僕はペコリと頭を下げた。
彼女とは、星架さんのツイスタ上で時々やり取りすることもあるけど、教室では数える程しか話したことがない。人見知りする程じゃないけど、今から話し合う内容が内容だけに、少し緊張してしまう。
「ごめんな、わざわざ来てもらっちゃって」
星架さんが労う。
「大丈夫、大丈夫。年間定期だから」
洞口さんも確かそうだったな。数ヶ月休みがあっても、12ヶ月で買った方が安いのか。
はす向かいに腰掛けた僕に、園田さんは一瞬、含みのある視線を送ってきた。もう既に彼女も星架さん経由で僕の事情は知ってる。星架さんも洞口さんも揃って「仕事として頼めば、守秘義務を破るような真似はしないタイプ」と太鼓判を押していた。僕としても、星架さんを間に挟んだ知人、くらいの関係で温情頼りってのも心許ないし、それなら契約関係でいった方がよっぽど安心できる。
「で、まあ、千佳とも話してたんだけどね?」
早速の本題。
「男子高校生にとって一番プライド傷つくのは、自分より下だと思ってた相手が自分より先に可愛いカノジョ作ってるっていう状態だと思うんだよね」
「あ、ああ」
男の僕にはよく分かる心理だ。
「だからある意味、もう既に半分くらいはやり返してるとも言える」
そこまで聞いて、星架さんが渋い顔をした。
「幸せになることが最大の復讐ってヤツか……けどなあ」
「まあ穏便なのはそこで留めておくパターンだね。その先ってなると、ノーリスクとはいかないよ?」
「それは……はい。星架さんたちに危険が及ぶのなら、諦めます」
そこは絶対だ。彼女ともコンセンサスは取れている。渋々といった感じだったけど。
「ううん。沓澤クンたちじゃなくて、実行犯の私が、かな」
「え?」
予想外の言葉に固まる僕。園田さんは一度お冷を飲んでから、
「最初から話すね」
と前置いた。時系列順ということかな。
「昨日、星架から相談受けた時に、超たまたまなんだけど千佳とラーメン食べてたの」
「は、はあ」
「で、瞬く間に作戦立案してしまった莉亜と、その補佐で動いたウチで、まずは例の学校掲示板を探し当てたんよ」
洞口さんも会話に参加してくる。
「簡単な検索じゃ見つからなかったと思うんですけど?」
「莉亜、結構PC関連ツヨツヨだからね」
星架さんの補足。意外、ということもないのか。確かプログラミングの道に進みたい的な事をいつだったか教室での雑談で言ってた覚えがある。
「んで、その掲示板に生徒を装って、近くの名門女子高の子と合コンできたっていう書き込みをするワケだ」
洞口さん、少し楽しそう。指先でドリンクバーのグラスをトントン叩いてる。
「それで上手く誘導して、私の裏アカに辿り着かせるワケ。で、TLには、その名門女子高の生徒と沓澤クンが通ってた男子校の生徒の合コンをセッティングしてるらしき呟きを幾つか撒いておく」
続きを再び園田さん。
「あとはターゲットが掛かるのを待つのみ」
手で釣り竿を引き上げるようなジェスチャーをした。
「それって、でもターゲットのアカウントとか分からないと難しくね?」
星架さんの疑問に、園田さんも頷く。
「沓澤クンにそいつらの名前と、特徴とか聞いときたいね」
流石に本名をアカウントにしてる可能性は低いだろうけど、意外と名前をモジってるケースも多いのだそう。あとは趣味嗜好が分かってれば、呟き内容から割り出せるだろう、ということらしい。
「確実を期すなら、内部の協力者が居ると捗るんだけど……」
「持田クンと、白石くんだっけ? 協力仰げない?」
星架さんが軽く宙を見ながら名前を挙げる。
「いや、うーん」
「ダメなん? シロだと思うって言ってたけど?」
「持田クンは妹さんが歴女らしくて、プレゼントした木彫りは今も普通に妹さんが持ってるみたいです。白石クンはそもそもあげてないですからね」
持田クンのツイスタアカウント、最近、恐る恐る確認したら、僕が贈った木彫りの写真をアップしてた。僕と会ったことで存在を思い出したんだろう。
白石クンは、そもそも三年に上がってから初めてクラスメイトになった人だし、あまり絡みがなかった。
以上を踏まえて、シロと見て間違いない。ただ、シロだからって、頼み事が出来るかというと……そこまでの信用が置けるほどではない、というか。そもそも転売の犯人じゃなくても、掲示板に書き込んでいた犯人という可能性はゼロじゃないし。
そういう事情を話したら、
「あ、でもその人のアカウントから辿れるね。教えといてよ」
と園田さん。今もあの不良連中や灰塚と同じクラスなのか、はたまた別クラスなのかは分からないけど、確かに交流が続いてる可能性は全然ある。
僕はスマホを取り出し、ツイスタにログインして、持田クンのアカウントにアクセス、それを園田さんに見せた。
「オッケー、捗るよ」
彼女は柔和に笑ったけど、やることを考えると、肝が据わりすぎてて怖かった。
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